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日常編

探り合い

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『ステイ』は通じなかった。

しかし、二人の動きを止めることには成功した私は、フィリップからナイフを取り上げてドレスの後ろに隠す。

そして、右手の人差し指をぴんと立てて話し始めた。気分は女教師だ。

「誤解があると思うの。レイ…まずは聞いて。フィルが私に危害を加えることはありません。さっきのはあなたの反応を見たいがための、おふざけです」

「…おふざけ、ね…。はぁ…まぁ…姫さんがそう言うなら」

レイはどことなく疲れた様子で頷いた。でも納得はしてくれたのか、フォークを懐に仕舞う。

「というか、フォークなんて何で持ってるの?」

「…たまたまっすね」

はっきりしない態度だが、それ以上は聞かないことにした。使用人の嗜みなのかもしれないし。

「僕のこと忘れてる…?」

「まさか…!」

「そこの(生意気な)使用人に話があるんだ。姉さんは一度部屋に帰ってくれる?廊下も騒がしいし、そろそろまずそうだ」

その言葉にハッとする。確かに長居しすぎたかもしれない。

「私帰るわ」

そう言ってレイの手に触れようとするも阻まれる。

「…触れずに対象者だけを飛ばすことも、
そいつなら、できるんじゃない?」

私は驚いてレイを見る。

「そうなの?」

「…ま、やろうと思えば…」

「じゃあそれで」

ここに来たときは、手を繋いでジャンプという感じだったので帰りもそうかと思ってしまった。

私はレイによって部屋へと一瞬で送られた。便利な能力…と思いながらベッドにごろんと寝転がる。

─なんだか眠い。フィリップと話せて良かったという思いが胸に広がっていく。いい夢を見られそうだった。


***

「それで、何か言いたいことは?お前がどういうつもりで姉さんの側にいるか知らないけど、使用人の分を超えてるんじゃない?」

「それは、そうなんすけど。俺に礼儀だのなんだの言われても、ね。求められてることが違うんですわ。姫さんも許してるし、いいじゃないすか」

この家の暗部─密偵か。薄々気づいていたことではあったが確信する。本気ではなかったとはいえ、ナイフを簡単にあしらわれてムカついたことを思い出す。

目の前の男も隠す気はないようだと、フィリップは目をすがめて見た。

「子爵に命じられて姉さんを護衛してるんだと思うけど、姿を見せる必要ってある?
ああ…!」

そうしてわざと大袈裟に分かったという風に首を動かした。

「ドジ踏んで見つかったんだな。
─心配だなぁ。
姉さんの護衛がそんな…」

無能、だなんて…。

最後はあえて言葉にはしなかった。




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