レンタル彼氏を頼んだら、来たのはアヤカシでした

ぴぴみ

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 急な階段を数百段上った先にその神社はあった。赤い鳥居をくぐると、ふわりと吹いた風が全身を包み込み、身が清められるようだった。

「懐かしいな」

 ぽつりと零れた言葉は、心の内でも思ったこと。学生時代よくここを訪れたものだった。

「…来たことがあるのか?」
「あ…そうなんです。司さんは?」
「俺も昔来たことがある」

 意外な共通点だった。

「この近くに住まわれてたんですか?」
「…一年だけな」
「なら、どこかですれ違ってたかもしれませんね」

 小さく笑う司さんの顔から目が話せなかった。何か、おかしなことを言っただろうか。

「…そうだな」

 結局そう言った彼に何も問いただすことはできないまま、そこを後にした。

 ─そして、今、彼に覆い被されるようにして通りの壁に押し付けられている。

「あ、あの…」
「黙ってろ。見つかってもいいのか?」

 一番会いたくない二人がすぐ側で笑っている。目が彼らを捉えたとき、体の熱が急速に失われていくようだった。言葉にならない音が漏れる。私の様子に気づいた司さんが、素早い動きで隠してくれた。

「やだぁー熱々カップル」

 アケミの声が聞こえる。聞きたくもない声。それなのに息が当たるほど近くにいる存在のせいで、悲しむどころではない。胸の高鳴りが激しすぎて吐きそうだ。

「やめとけって」

 しかし、次に聞こえたケントの声で、ハッと冷静になった。

─私は何をして…

 思考が闇に沈みそうになる。彼氏をレンタルしてまで幸せだと見せつけることに何の意味があるのか。二人は私のことなど気にも掛けてないだろうに…。
 そのとき、小さな罵りらしき言葉が聞こえたかと思うと頬を両手で掴まれていた。

「─こっちを見ろ」

 口づけられるのかと思った。しかし、司さんは動かないまま私の瞳をじっと見つめる。そしてきつく抱き締められた。



 
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