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3.監視係さん
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「え、ええと、ジスレーヌ・ベランジェです。よろしくお願いします」
「ジスレーヌ様、いいところのお嬢さんなんですよね。それがこんな場所に入れられることになって大変でしたね。もし困ったことがあれば何でも言ってください。俺も一人で監視係を務めるのは初めてなんですけど、できるだけのことはしますから!」
ロイクさんはそう言って胸を叩いた。
「それはありがとうございます。あ、玄関先ですみません。中には入られますか?」
監視ということは、屋敷の内部まで確認するのかと思い尋ねてみる。
「いえ、監視係は屋敷の門までしか入れない決まりなんです。ここには障壁魔法がかかっているので、決められた者しか入れません。監視係が屋敷に入る時は、他の監視係を一人以上連れてきて、二人分の鍵を使わないと屋敷に入れない仕組みになっているんです」
ロイクさんはそう言うと、ポケットから銀色の鍵を取り出して見せてくれた。
「そういうものなんですか。監視係って何人もいるんですね」
「はい。近くの町にここを管理するための事務所があって、十人くらいが勤めています。俺は勤続四年目にして、今回初めて一人で担当することを任されました!」
ロイクさんはどこか誇らし気に言う。説明を聞いていると、呪いの屋敷の監視係なんていうものものしい役割なのに、なんだか普通のお仕事みたいでおかしくなってしまった。
「私が記念すべき一人目の罪人なんですね」
「はい、罪人……っていうとちょっとあれですけど、ジスレーヌ様が最初のお客さんですね」
ロイクさんはそう言って笑った。あんまり曇りのない笑顔なので、昨日からずっと感じていた緊張感が解れていくような気がした。
「今日はひとまず挨拶だけしに来ました。次は七日後に来ます。もし七日経つ前でも、玄関横にプレートがあるでしょう? それにこの魔石をはめ込めばうちの事務所に繋がるので、何かあったら連絡してください」
ロイクさんはそう言って緑色の魔石を渡してくれた。明かりをつけるときに使ったのと色違いの石だ。私はそれを大事に懐にしまった。
「それでは、また七日後に」
「あの、ロイクさん!」
お辞儀をして去って行きそうなロイクさんを慌てて引き止める。ロイクさんは振り向いて「なんですか?」と尋ねる。
「ちょっと屋敷でおかしなことがあったんです。その……」
昨日屋敷で起こったことを思い出す。ひとりでに閉まるドア。突然棚から落ちた日記。頬を撫でた風。なにより一番は……。
「昨日、お屋敷の部屋を回っていたら、二階の奥から二番目の部屋で手紙を見つけたんです。そこには『お前たちを許さない』って……血のような赤黒い字で書かれていました」
思い切って昨日のことを伝える。いくつかあった違和感のうち、これが一番はっきりしているものだ。
ロイクさんは私の言葉に目を見開く。
「そんな手紙があったんですか? 部屋のどこに?」
「机の上に置いてありました」
「おかしいな……。屋敷に人を入れる前には、管理人数人で入って中を確認するんですよ。もちろん、その時には手紙なんて置いてありませんでした」
「そ、そうなんですか?」
「はい。ここは人が侵入してこないように厳重に障壁魔法がかかっているから、外から人が入って来るなんてできないはずなんですが……」
ロイクさんは顎に手を当て、難しい顔をする。そして真面目な顔をして言った。
「その手紙を持ってきてもらうことはできますか。事務所で報告しておきます」
「えっ……」
「? 難しいですか?」
「いえ、ちょっとあまり近づきたくなくて……」
私がそう言うと、ロイクさんは気の毒そうな顔になった。
「わかりました。それなら大丈夫です。確かにそんな手紙に近寄りたくありませんよね。そんなことがあったなら一旦お屋敷から出してあげたいんですが、俺にはそんな権限はなくて……」
「いえ、大丈夫です。実害はないですから」
「すみません。難しいと思いますけれど、一応考慮してもらえないか確認しておきます」
ロイクさんはそう言ってくれたが、手紙が置かれていたくらいで一旦出してもらうのは無理だろうと思った。
多分、そういう不可解なことが起きるのを承知で閉じ込めているのだろうから。そうじゃなければ、呪われているという屋敷に幽閉したりしない。
「心細くなったら、いつでも連絡してくださいね」
ロイクさんは励ますようにそう言うと、軽く手を振って去って行った。
再び静寂が訪れた屋敷で、少しだけ名残惜しい思いをしながら扉を閉める。
「ジスレーヌ様、いいところのお嬢さんなんですよね。それがこんな場所に入れられることになって大変でしたね。もし困ったことがあれば何でも言ってください。俺も一人で監視係を務めるのは初めてなんですけど、できるだけのことはしますから!」
ロイクさんはそう言って胸を叩いた。
「それはありがとうございます。あ、玄関先ですみません。中には入られますか?」
監視ということは、屋敷の内部まで確認するのかと思い尋ねてみる。
「いえ、監視係は屋敷の門までしか入れない決まりなんです。ここには障壁魔法がかかっているので、決められた者しか入れません。監視係が屋敷に入る時は、他の監視係を一人以上連れてきて、二人分の鍵を使わないと屋敷に入れない仕組みになっているんです」
ロイクさんはそう言うと、ポケットから銀色の鍵を取り出して見せてくれた。
「そういうものなんですか。監視係って何人もいるんですね」
「はい。近くの町にここを管理するための事務所があって、十人くらいが勤めています。俺は勤続四年目にして、今回初めて一人で担当することを任されました!」
ロイクさんはどこか誇らし気に言う。説明を聞いていると、呪いの屋敷の監視係なんていうものものしい役割なのに、なんだか普通のお仕事みたいでおかしくなってしまった。
「私が記念すべき一人目の罪人なんですね」
「はい、罪人……っていうとちょっとあれですけど、ジスレーヌ様が最初のお客さんですね」
ロイクさんはそう言って笑った。あんまり曇りのない笑顔なので、昨日からずっと感じていた緊張感が解れていくような気がした。
「今日はひとまず挨拶だけしに来ました。次は七日後に来ます。もし七日経つ前でも、玄関横にプレートがあるでしょう? それにこの魔石をはめ込めばうちの事務所に繋がるので、何かあったら連絡してください」
ロイクさんはそう言って緑色の魔石を渡してくれた。明かりをつけるときに使ったのと色違いの石だ。私はそれを大事に懐にしまった。
「それでは、また七日後に」
「あの、ロイクさん!」
お辞儀をして去って行きそうなロイクさんを慌てて引き止める。ロイクさんは振り向いて「なんですか?」と尋ねる。
「ちょっと屋敷でおかしなことがあったんです。その……」
昨日屋敷で起こったことを思い出す。ひとりでに閉まるドア。突然棚から落ちた日記。頬を撫でた風。なにより一番は……。
「昨日、お屋敷の部屋を回っていたら、二階の奥から二番目の部屋で手紙を見つけたんです。そこには『お前たちを許さない』って……血のような赤黒い字で書かれていました」
思い切って昨日のことを伝える。いくつかあった違和感のうち、これが一番はっきりしているものだ。
ロイクさんは私の言葉に目を見開く。
「そんな手紙があったんですか? 部屋のどこに?」
「机の上に置いてありました」
「おかしいな……。屋敷に人を入れる前には、管理人数人で入って中を確認するんですよ。もちろん、その時には手紙なんて置いてありませんでした」
「そ、そうなんですか?」
「はい。ここは人が侵入してこないように厳重に障壁魔法がかかっているから、外から人が入って来るなんてできないはずなんですが……」
ロイクさんは顎に手を当て、難しい顔をする。そして真面目な顔をして言った。
「その手紙を持ってきてもらうことはできますか。事務所で報告しておきます」
「えっ……」
「? 難しいですか?」
「いえ、ちょっとあまり近づきたくなくて……」
私がそう言うと、ロイクさんは気の毒そうな顔になった。
「わかりました。それなら大丈夫です。確かにそんな手紙に近寄りたくありませんよね。そんなことがあったなら一旦お屋敷から出してあげたいんですが、俺にはそんな権限はなくて……」
「いえ、大丈夫です。実害はないですから」
「すみません。難しいと思いますけれど、一応考慮してもらえないか確認しておきます」
ロイクさんはそう言ってくれたが、手紙が置かれていたくらいで一旦出してもらうのは無理だろうと思った。
多分、そういう不可解なことが起きるのを承知で閉じ込めているのだろうから。そうじゃなければ、呪われているという屋敷に幽閉したりしない。
「心細くなったら、いつでも連絡してくださいね」
ロイクさんは励ますようにそう言うと、軽く手を振って去って行った。
再び静寂が訪れた屋敷で、少しだけ名残惜しい思いをしながら扉を閉める。
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