君といるのは疲れると言われたので、婚約者を追いかけるのはやめてみました

水谷繭

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5.カレン様と展示会

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「今日はメイベル様にお詫びをしたくて探しておりましたの」

「お詫びだなんて……」

「お詫びしなければ私の気が済みまないのですわ。こちらを受け取ってくださいませんか?」

 カレン様はそう言ってカードを差し出す。そこには、『ロナ・ミラー新作展示会』と書かれていた。

「これはなんですか?」

「有名ドレスデザイナーのロナ・ミラーの展示会の招待状ですわ! 今度新作が出るので、発表のための展示会とパーティーが行われますの。大人気なので滅多に参加するチャンスはないんですのよ。よろしければメイベル様も参加なさって」

「え! そんなにすごい展示会なんですか!? そのようなものいただけません! カレン様ご自身で行っていらしてください」

「カレンの分の招待状もありますのでご心配なく。今回は、父の友人経由で、運よく複数枚の招待状をいただけましたの。ぜひメイベル様に受け取ってほしいですわ」

 カレン様は笑みを浮かべて言う。

 私はカードをじっと眺める。なんだか申し訳ないけれど、もらってしまってもいいのだろうか。迷っている私に、カレン様はぐいぐいカードを押し付けてくる。

「メイベル様にはぜひ展示会に参加してほしいのです! どうか受け取ってくださいませ」

「それでは……お言葉に甘えていただきますね」

「ええ、ぜひ!」

 私がカードを受け取ると、カレン様はたちまち笑顔になった。それから、躊躇いがちに言う。

「メイベル様。お礼にと招待状を渡しておいてなんですが、一つお願いがあるのです。展示会にレナード様も誘ってきてくださいませんか? もう一枚招待状をお渡ししますから」

「え? レナード様を? カレン様、ご自身で誘わなくていいのですか?」

 私は困惑して聞き返す。カレン様はレナード様がお好きなのではなかっただろうか。戸惑う私に向かってカレン様は言う。

「ええ。カレンが誘うより、メイベル様と一緒に参加なさるほうがレナード様も楽しめるはずですから」

「でも、わざわざ私に誘わせること……」

「レナード様のことはもう諦めることにしたんです。レナード様はカレンが気持ちを押し付けても迷惑でしょうから……。ですから今度の展示会でお会いしたら、今までご迷惑をおかけたことをきちんと謝って、気持ちを切り替えたいのです……」

 カレン様は寂しそうに微笑んで言う。

 私は言葉に詰まってしまった。そんな寂しげな表情をされると、それでいいのだろうかと思ってしまう。

 しかし、レナード様がカレン様に困っているようだったのを思い出すと、諦めようとしているカレン様を焚きつけるのもはばかられる。

 私は迷った末に言った。

「……わかりました。レナード様をお誘いしてみますね」

「まぁ、メイベル様。ありがとうございます!」

 カレン様は嬉しそうにそう言った。

 私はちょっと戸惑いながら、そんなカレン様を見ていた。
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