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SportsHitman④
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今、自分の目の前には二人のおじいさんがいる。ヨボヨボではなく、ダンディーでまだまだ現役といった印象の二人である。
俺は一切状況が読めなかったが、その二人のエルバフの戦士のような巨体とそれらの周りを取り囲む筋斗雲のような、金色の雲から何となくわかった気がした。
「……………」
「…………………」
「……………………………」
何やら口論をしているようだが、一切聞き取れない。いや、この距離で何も聞き取れないのは不自然だ。ただ口パクで会話している振りをしているだけなのでは?だとすればなんで?……
そんな事を考えていると取り囲む筋斗雲と共にエルバフの戦士達はじわじわとどこかへ消えていった。消えきった瞬間、奥の方から急激に近づいてくる光があった。最初は何か分からなかったが、それは光っている扉だった。その光は奥からどんどん近づいてきて、俺の目の前まで来ると、まるで自分に合わせているかの如く、自動で扉が開く。
俺はその中に、受動的に引き込まれていった。
はっ、と意識が戻る。反射的に、身体を起こした。肩から足先まで節々が痛む。毎秒釘を刺されているのではないか。どちらにしろ普通に動けるまでは回復していない。
「戦ってないのに、なんでだ?」
そう呟くも、特に打つ手もないので、諦めてもう一度寝ようとした時、あることに気づく。
ここはどこだ……?
灰色のよくある廃墟のビルにありがちなコンクリートの壁に、電球剥き出しの一つのライト。部屋はそのライトを付けても物足りなく、常に肝試しをしているかのようだ。
思わず辺りを見回してみる。
美しい花、あれは薔薇だろうか、紅蓮の色彩が、対角の窓から注がれる光を反射してギラギラと光っている。
そのまま何も無い空間が続く。右に90度。
椅子に座ったヘザーさんが、今度は上着か何かを毛布替わりに眠っていた。
デジャブかよ………
でも、特に何も湧いてこない。あの時は、なんと言うか、ゾーンに入っていたような感じだった。
今は気になることが多すぎるせいか、本当に「無」という感じ。
血のように赤く光る薔薇を暫く見つめていた。この世の中を風刺しているように見えてきて、それからは薔薇を見つめながら、「綺麗」とよくお母さんが感嘆を漏らして言っていたあの声はもう聞けないのだと悟った。そして、あの日を思い出していた……
「殺し屋なんてやりたくねえよ……」
思わず、そう漏らしていた。
今日は、蝉の声がよく響く。平和の鐘が、今日も世界に響く。
全ては、平和に限る。
血など見ない。見たくない。
殺し屋は、
その為に、戦うのだ
どれ程時間が経ったのだろう。いつの間にか、俺は寝ていた。いつ寝転がったのかも覚えていないし、寝ていたのかすら、分からない。ただ、一つ、さっきとの違いがあった。
薔薇の花瓶が、割れている。
部屋の隅にあるサイドテーブルから、花瓶だけが滴り落ちる。
肝心の薔薇は、床に逆さになって立っていた。一本の、細い役立たずの茎を、光が照らす。
この世界は、おかしい。
一本の茎に対する、薔薇の量が、おかしい。
いつもそうだ。
一つの勢力によって、流れる血は………
いつもおかしい。
いつも
いつもそうだ。
ママを、返せ。
唐突に、自分の左手に目を落とす。
右利きなせいで、特にコイツに注目してこなかったが、
角張ってて思った以上にいい。男らしい。
ひっくり返して、手の甲を見る。
親指の付け根に焦点を当てる。
無性に………無性に……………
俺は、口を開け、噛もうとする。
わずか二センチ…………
「噛んじゃ、やーだ。」
薔薇の風が吹いた。
薔薇は、「血」だけでは無いんだと。
そんな気がした。
俺は一切状況が読めなかったが、その二人のエルバフの戦士のような巨体とそれらの周りを取り囲む筋斗雲のような、金色の雲から何となくわかった気がした。
「……………」
「…………………」
「……………………………」
何やら口論をしているようだが、一切聞き取れない。いや、この距離で何も聞き取れないのは不自然だ。ただ口パクで会話している振りをしているだけなのでは?だとすればなんで?……
そんな事を考えていると取り囲む筋斗雲と共にエルバフの戦士達はじわじわとどこかへ消えていった。消えきった瞬間、奥の方から急激に近づいてくる光があった。最初は何か分からなかったが、それは光っている扉だった。その光は奥からどんどん近づいてきて、俺の目の前まで来ると、まるで自分に合わせているかの如く、自動で扉が開く。
俺はその中に、受動的に引き込まれていった。
はっ、と意識が戻る。反射的に、身体を起こした。肩から足先まで節々が痛む。毎秒釘を刺されているのではないか。どちらにしろ普通に動けるまでは回復していない。
「戦ってないのに、なんでだ?」
そう呟くも、特に打つ手もないので、諦めてもう一度寝ようとした時、あることに気づく。
ここはどこだ……?
灰色のよくある廃墟のビルにありがちなコンクリートの壁に、電球剥き出しの一つのライト。部屋はそのライトを付けても物足りなく、常に肝試しをしているかのようだ。
思わず辺りを見回してみる。
美しい花、あれは薔薇だろうか、紅蓮の色彩が、対角の窓から注がれる光を反射してギラギラと光っている。
そのまま何も無い空間が続く。右に90度。
椅子に座ったヘザーさんが、今度は上着か何かを毛布替わりに眠っていた。
デジャブかよ………
でも、特に何も湧いてこない。あの時は、なんと言うか、ゾーンに入っていたような感じだった。
今は気になることが多すぎるせいか、本当に「無」という感じ。
血のように赤く光る薔薇を暫く見つめていた。この世の中を風刺しているように見えてきて、それからは薔薇を見つめながら、「綺麗」とよくお母さんが感嘆を漏らして言っていたあの声はもう聞けないのだと悟った。そして、あの日を思い出していた……
「殺し屋なんてやりたくねえよ……」
思わず、そう漏らしていた。
今日は、蝉の声がよく響く。平和の鐘が、今日も世界に響く。
全ては、平和に限る。
血など見ない。見たくない。
殺し屋は、
その為に、戦うのだ
どれ程時間が経ったのだろう。いつの間にか、俺は寝ていた。いつ寝転がったのかも覚えていないし、寝ていたのかすら、分からない。ただ、一つ、さっきとの違いがあった。
薔薇の花瓶が、割れている。
部屋の隅にあるサイドテーブルから、花瓶だけが滴り落ちる。
肝心の薔薇は、床に逆さになって立っていた。一本の、細い役立たずの茎を、光が照らす。
この世界は、おかしい。
一本の茎に対する、薔薇の量が、おかしい。
いつもそうだ。
一つの勢力によって、流れる血は………
いつもおかしい。
いつも
いつもそうだ。
ママを、返せ。
唐突に、自分の左手に目を落とす。
右利きなせいで、特にコイツに注目してこなかったが、
角張ってて思った以上にいい。男らしい。
ひっくり返して、手の甲を見る。
親指の付け根に焦点を当てる。
無性に………無性に……………
俺は、口を開け、噛もうとする。
わずか二センチ…………
「噛んじゃ、やーだ。」
薔薇の風が吹いた。
薔薇は、「血」だけでは無いんだと。
そんな気がした。
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