Sports Hitman

糸魚川叉梨有

文字の大きさ
6 / 9

SportsHitman④

しおりを挟む
今、自分の目の前には二人のおじいさんがいる。ヨボヨボではなく、ダンディーでまだまだ現役といった印象の二人である。
俺は一切状況が読めなかったが、その二人のエルバフの戦士のような巨体とそれらの周りを取り囲む筋斗雲のような、金色の雲から何となくわかった気がした。
「……………」
「…………………」
「……………………………」
何やら口論をしているようだが、一切聞き取れない。いや、この距離で何も聞き取れないのは不自然だ。ただ口パクで会話している振りをしているだけなのでは?だとすればなんで?……
そんな事を考えていると取り囲む筋斗雲と共にエルバフの戦士達はじわじわとどこかへ消えていった。消えきった瞬間、奥の方から急激に近づいてくる光があった。最初は何か分からなかったが、それは光っている扉だった。その光は奥からどんどん近づいてきて、俺の目の前まで来ると、まるで自分に合わせているかの如く、自動で扉が開く。
俺はその中に、受動的に引き込まれていった。
はっ、と意識が戻る。反射的に、身体を起こした。肩から足先まで節々が痛む。毎秒釘を刺されているのではないか。どちらにしろ普通に動けるまでは回復していない。
「戦ってないのに、なんでだ?」
そう呟くも、特に打つ手もないので、諦めてもう一度寝ようとした時、あることに気づく。
ここはどこだ……?
灰色のよくある廃墟のビルにありがちなコンクリートの壁に、電球剥き出しの一つのライト。部屋はそのライトを付けても物足りなく、常に肝試しをしているかのようだ。
思わず辺りを見回してみる。
美しい花、あれは薔薇だろうか、紅蓮の色彩が、対角の窓から注がれる光を反射してギラギラと光っている。
そのまま何も無い空間が続く。右に90度。
椅子に座ったヘザーさんが、今度は上着か何かを毛布替わりに眠っていた。
デジャブかよ………
でも、特に何も湧いてこない。あの時は、なんと言うか、ゾーンに入っていたような感じだった。
今は気になることが多すぎるせいか、本当に「無」という感じ。
血のように赤く光る薔薇を暫く見つめていた。この世の中を風刺しているように見えてきて、それからは薔薇を見つめながら、「綺麗」とよくお母さんが感嘆を漏らして言っていたあの声はもう聞けないのだと悟った。そして、あの日を思い出していた……

思わず、そう漏らしていた。
今日は、蝉の声がよく響く。平和の鐘が、今日も世界に響く。
全ては、平和に限る。
血など見ない。見たくない。
殺し屋は、


どれ程時間が経ったのだろう。いつの間にか、俺は寝ていた。いつ寝転がったのかも覚えていないし、寝ていたのかすら、分からない。ただ、一つ、さっきとの違いがあった。
薔薇の花瓶が、割れている。
部屋の隅にあるサイドテーブルから、花瓶だけが滴り落ちる。
肝心の薔薇は、床に逆さになって立っていた。一本の、細い役立たずの茎を、光が照らす。
この世界は、おかしい。
一本の茎に対する、薔薇の量が、おかしい。
いつもそうだ。
一つの勢力によって、流れる血は………

いつもおかしい。

いつも

いつもそうだ。

ママを、返せ。

唐突に、自分の左手に目を落とす。

右利きなせいで、特にコイツに注目してこなかったが、

角張ってて思った以上にいい。男らしい。

ひっくり返して、手の甲を見る。

親指の付け根に焦点を当てる。

無性に………無性に……………

俺は、口を開け、噛もうとする。

わずか二センチ…………

「噛んじゃ、やーだ。」

薔薇の風が吹いた。

薔薇は、「血」だけでは無いんだと。

そんな気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

処理中です...