Sports Hitman

糸魚川叉梨有

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殺し屋特捜部②

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二日酔いからあけて、今日は特捜部で総会に出ることになった。
「頭痛え………」
一人で廊下をとぼとぼ歩きながら、ガンガンと痛む頭を手でカバーする。
意識したせいか更に頭は痛くなり、その場にうずくまってしまう。
「だ、大丈夫ですか!?」
奥の方からてくてくと走る女性の姿が見受けられる。少し心が躍っている。
彼女は俺のそばまで来ると、自分の首に俺の腕を預けさせ、
「治療所行きましょ」
と言いながら、一歩ずつゆっくりと進んでいく。
彼女の首は、モチモチでマシュマロのような感触だった。首には余り肉があるという印象はないが、少々の肉でもここまで良い感触が得られるのかと少し得した気分になる。
その感触にいつまでも触れたいとは思っていたが、総会に遅れる訳にも行かなくなり、礼を言って首から手を離す。
それから「一緒に行きましょうか」と誘い、会議室に向かって二人で歩き出す。会議室まで気まずい時間が続く。
彼女がその空気に耐えきれなったのか、俺に唐突には話しかけてくる。
「ラクト一将は、どう思われているんですか?"殺し屋"の事━━━━━」
「どうしたんですかいきなり」
笑ってそう答えるが、そんな軽い話でも無いようで、笑い返さず深刻そうに下を向いている。
「前まではなんの躊躇もなく"殺し屋"を殺していました。それが職務だったし、それが正義だと思っていました。でも、最近思うんです。いくら相手が犯罪者だろうと私たちがやっているのはただの人殺しなんじゃないかって。」
本当の相談をされている。さっき偶然であったとは思えないくらい、手のひらで踊っている感じがする。
誰かから聞いたことがある。女の子の相談は否定すると良くない。肯定するか最悪、相槌を打つだけでいい。
活かしてみよう。
「それは人それぞれだと思います。少なからず、カナン二将の言うことが間違っているという訳では無いと思います。ただ、世界平和の為には"殺し屋"を滅するべきだと考える人もいると思います。それも正しい。どちらにしろ"特捜部"に配属されたからには何らかの方法で世界を平和にするのが使命です。」
言い切ったつもりだったが、後味はあまり良くなかった。
「そ、そうですね………」
と軽く返すだけでその後はなかったことにしたというように元通りの状況が続く。
暫く耐えながら歩いていると、奥の方に会議室が見えてきた。対岸からの救世主がきたような晴れ晴れとした気持ちだった。
こんな事があったせいで二日酔いの症状は極限まで収まっていた。
カナン二将を先に会議室に通し、次に自分も入る。既にもうほとんど全員が揃っている。あと来ていないのは数人だけだ。
カナン二将は"三班"の席に座り、上司に会釈をしている。それを横目に俺も"二班"の席に着く。
「おお、シデン!復帰出来てたか!今日はここ集合だったから心配したんだぜ!」
ジャスさんが相変わらずといった感じで話しかけてくる。しかし、その目から少し目線を落とすだけでその雰囲気は、ただの哀愁へと変わる。
「ジャスさん…腕、本当に大丈夫なんですか?」
「ああ!大丈夫だ!気にするな!」
その目は少し助けを求めているように見える。
「休んだ方がいいんじゃ…………」
俺が言うのをギロッとした獣の睨みが制する。
「私情を持ち込むな。戦いにおいて無傷を前提に話しているのがおかしいだろう。」
そう言うのはダルウィン・アース準大将だ。
至極キッチリと几帳面な人で、物事を客観的に捉えている人だ。戦いのセンスは全くないが、その正確な判断を活かした司令塔として大将の一つ下、特将の一つ上の階級、準大将まで上り詰めた。
実力はもっともなのだが、やはり時に正確ではあるが残酷な判断をする事もあり、好き嫌いが真っ二つに別れている。そんな人だ。
「いいか、シデン一将。戦いにおいて、命を守っている奴は何も出来ん。出世も出来なければ、人を守ることも出来ない。人を守る前に自分を、とは言うが『自分を守る』という事は『何があっても勝つ』という事だ。命を大切にするやつにそんなことは出来ない。分かったか?」
俺は正直、面倒だと思いながら
「すいません。」
と少し俯いて答える。
寂しげなジャスさんを見る。俺と目が合いジャスさんは
「そうだ。そうだぞ。」
とだけ言って正面を向いた。その時の目に、平気という感情は一切感じられなかった。
ガシャ、と扉が開く音がする。
重く、少し怖い音だ。
その音を出した主たちは一番前の自分達と向かい合わせになっている席に座る。
「では、"特捜部"全体会議を始める。一同、礼」
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