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私をこの世界に堕としたのは、だぁれ?

囚われの身のアリス⑪

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母様との記憶に違和感があった。
優しい母様。
いつも笑顔の母様。
だけど、けして私を抱きしめてはくれない母様。
襲われた時でさえ…。
頭が痛い。
「おい、大丈夫か?」レイシーは心配そうに窓枠ギリギリまで覗き込んだ。
「…少し…頭が痛くなっちゃったの。だから少しだけ横になるね?」私は精一杯の作り笑顔を浮かべた。
レイシーはミッシェルさんを呼ぶか?と言ってくれたが、それは断った。
「分かった」とレイシーは後ろを振り返りながら離れていった。

私は孤独と不安から、ウサギさんをギュッと力いっぱいに抱きしめた。
あの時、襲われたあの時。私は何かに違和感を覚えた。それを思い出さなきゃいけない。でないと、一生このままなんだわ。
私は目を閉じて、深呼吸する。
先程までレイシーと楽しく過ごした時間に別れを告げて、自分の中に深く、深く、入り込む。
頭の中に怒号と悲鳴が響いてくる。馬が止められ、馬車が激しく揺れる。護衛の騎士が切られて、父様が私を庇って…赤く染まる……ハァ…ハァ…ハァ………。
呼吸が苦しい。怖い。体が震える。ウサギさんを抱く腕にさらに力がこもる。
額に脂汗が滲む。けれど、思い出さなきゃ。
私はスゥーーッと深く呼吸した。
母様は、あの時どこに?何をしていた?
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