7 / 11
外と内
しおりを挟む
声のほうを見ると、目も口も笑っているような顔をした木の仏像が立っていた。
「あの……、ここはどこ?」
「寺だよ」
「てら?」
「そうさ、人間が拝みにくるところさ」
「へえ……、でも、なんで、ここに?」
「檀家の骨董屋が、あんたをここへ連れてきたんだよ」
「こっとうや……?」
「あんた、古そうなのに、なんも知らないねえ。寝起きだからかねえ」
「はあ……」
「まあ、いいさ。私が、これから、どんどん教えてあげるよ。私は、おしゃべりが大好きだからねえ」
「はあ……」
「骨董屋とはね、ふるいもんを売り買いしている人間のことさ」
「へえ……」
「その骨董屋がね、店を閉めることにしたんだけど、ぼろぼろの仏像……、つまり、あんたが売れ残ったそうだ。古い時代の値打ちもんだと思って大金で買ったが、見当違いだったって嘆いてたよ。思えば、骨董屋へ売りに来た背の高い男も、目つきが悪く怪しかったんだって。捨てるにも、仏像だけに後味がわるいからって。それを聞いた、この寺のお坊さんが気の毒がって、あんたを買い取ったのさ。あっ、ぼろぼろって言うのは聞いたまんまだから、私が言ったんじゃないよ。気を悪くしないでおくれね」
一気に沢山の言葉が流れ込んできて、なにもわからない……。
「はあ……」
「ちょっと、あんた! 大丈夫かい?」
「よく、わからなくて……」
「もしかして、自分がだれなのかも、わからないのかい?」
笑った顔のまま、仏像は心配そうな声で聞いてきた。
「まあ……」
「そうかい……。長く眠りすぎたせいで、外側の仏像にひっぱられてるんだねえ。あんたも、私と同じで、もとから仏像ってわけじゃないのかもね」
「ひっぱられる?」
「そうだよ。外側にひっぱられると、ぼんやりして、なーんも考えられないようになるんだ」
「はあ……」
「まあ、わからなくてもいいから、聞いておいで。なにか思い出すかもしれないだろ。私でも、ぼんやりしていると、ふっと、外側の仏像にもっていかれそうになるからねえ。外側と内側が違うと、どうしても強いほうにひっぱられるんだよ。あんたほど、古い仏像に入ってると、外側の我も相当強そうだ。まあまあ、一緒にいましょうや、ってわけにはいかないだろうしね」
「あの……このままだと、どうなるんでしょう?」
「そうだねえ。あんたが消えちまうんじゃないかねえ」
仏像が悲しげな声で言ったあと、急に明るい声をだした。
「でも、あきらめるんじゃないよ! あんたが、外側に負けなきゃいいだけだからね。私はね、外側にすいこまれないよう、私をわすれないよう、仏像に宿った時の気持ちを思いだすようにしてるのさ」
「はあ……」
「そうさ。私はね、この仏像に強く願って宿ったんだよ。そうはいっても、仏像になりたかったわけじゃない。私が私のまま、宿りたかったんだ。だから、私が消えちまわないように、気をつけてるのさ」
「はあ?」
「いきなり、こんなこと言っても、わかりゃあしないか……。じゃあ、まずは、私がこの仏像に宿るまでのことを話すよ。わからなくてもいいから、聞いておいで。何か思い出すかもしれないしね」
「あの……、ここはどこ?」
「寺だよ」
「てら?」
「そうさ、人間が拝みにくるところさ」
「へえ……、でも、なんで、ここに?」
「檀家の骨董屋が、あんたをここへ連れてきたんだよ」
「こっとうや……?」
「あんた、古そうなのに、なんも知らないねえ。寝起きだからかねえ」
「はあ……」
「まあ、いいさ。私が、これから、どんどん教えてあげるよ。私は、おしゃべりが大好きだからねえ」
「はあ……」
「骨董屋とはね、ふるいもんを売り買いしている人間のことさ」
「へえ……」
「その骨董屋がね、店を閉めることにしたんだけど、ぼろぼろの仏像……、つまり、あんたが売れ残ったそうだ。古い時代の値打ちもんだと思って大金で買ったが、見当違いだったって嘆いてたよ。思えば、骨董屋へ売りに来た背の高い男も、目つきが悪く怪しかったんだって。捨てるにも、仏像だけに後味がわるいからって。それを聞いた、この寺のお坊さんが気の毒がって、あんたを買い取ったのさ。あっ、ぼろぼろって言うのは聞いたまんまだから、私が言ったんじゃないよ。気を悪くしないでおくれね」
一気に沢山の言葉が流れ込んできて、なにもわからない……。
「はあ……」
「ちょっと、あんた! 大丈夫かい?」
「よく、わからなくて……」
「もしかして、自分がだれなのかも、わからないのかい?」
笑った顔のまま、仏像は心配そうな声で聞いてきた。
「まあ……」
「そうかい……。長く眠りすぎたせいで、外側の仏像にひっぱられてるんだねえ。あんたも、私と同じで、もとから仏像ってわけじゃないのかもね」
「ひっぱられる?」
「そうだよ。外側にひっぱられると、ぼんやりして、なーんも考えられないようになるんだ」
「はあ……」
「まあ、わからなくてもいいから、聞いておいで。なにか思い出すかもしれないだろ。私でも、ぼんやりしていると、ふっと、外側の仏像にもっていかれそうになるからねえ。外側と内側が違うと、どうしても強いほうにひっぱられるんだよ。あんたほど、古い仏像に入ってると、外側の我も相当強そうだ。まあまあ、一緒にいましょうや、ってわけにはいかないだろうしね」
「あの……このままだと、どうなるんでしょう?」
「そうだねえ。あんたが消えちまうんじゃないかねえ」
仏像が悲しげな声で言ったあと、急に明るい声をだした。
「でも、あきらめるんじゃないよ! あんたが、外側に負けなきゃいいだけだからね。私はね、外側にすいこまれないよう、私をわすれないよう、仏像に宿った時の気持ちを思いだすようにしてるのさ」
「はあ……」
「そうさ。私はね、この仏像に強く願って宿ったんだよ。そうはいっても、仏像になりたかったわけじゃない。私が私のまま、宿りたかったんだ。だから、私が消えちまわないように、気をつけてるのさ」
「はあ?」
「いきなり、こんなこと言っても、わかりゃあしないか……。じゃあ、まずは、私がこの仏像に宿るまでのことを話すよ。わからなくてもいいから、聞いておいで。何か思い出すかもしれないしね」
0
あなたにおすすめの小説
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
9日間
柏木みのり
児童書・童話
サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。
(also @ なろう)
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
アリアさんの幽閉教室
柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。
「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」
招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。
招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。
『恋の以心伝心ゲーム』
私たちならこんなの楽勝!
夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。
アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。
心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……??
『呪いの人形』
この人形、何度捨てても戻ってくる
体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。
人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。
陽菜にずっと付き纏う理由とは――。
『恐怖の鬼ごっこ』
アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。
突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。
仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――?
『招かれざる人』
新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。
アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。
強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。
しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。
ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。
最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。
星降る夜に落ちた子
千東風子
児童書・童話
あたしは、いらなかった?
ねえ、お父さん、お母さん。
ずっと心で泣いている女の子がいました。
名前は世羅。
いつもいつも弟ばかり。
何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。
ハイキングなんて、来たくなかった!
世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。
世羅は滑るように落ち、気を失いました。
そして、目が覚めたらそこは。
住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。
気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。
二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。
全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。
苦手な方は回れ右をお願いいたします。
よろしくお願いいたします。
私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。
石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!
こちらは他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる