(完結) わたし

水無月あん

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願い

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私はねえ、昔、たぬきだったんだよ。
山で巣から離れて遊んでいる時に、足をけがしてね。どうにも動けなくなったんだ。

夜になっても、誰も見つけてくれなくて、痛くて、怖くて、悲しくてね……。
気がとおくなって、このまま死ぬんだって思った時だった。体が、ひょいっと持ち上げられたんだ。
月明りの中、私の顔をのぞきこんできたものを見て、私は、「もう、だめだ!」と、覚悟したね。

見るのは初めてだったが、山にはいない生きものだから、すぐにわかったよ。
そう、人さ。

ついに、私もおじいちゃんみたいに、たぬき汁になるのかと思って、体がふるえたもんだ。

でも、違った。
その人は、私を家に連れて帰り、けがの手当てをしてくれた。
それだけじゃない。あったかい寝床を作ってくれて、食べ物もわけてくれた。

人の怖さを散々聞いてきたからね。
太らされてから、たぬき汁にされるんだとびくびくしてたんだよ。

が、その人は、本当にやさしかった。山の生きものより、ずーっとね。
おかげで、私はすっかり元気になった。

その人はねえ、他の人たちに、お坊さんと呼ばれていた。
といっても、ここのお坊さんみたいに、寺なんか持ってないんだよ。

一人で、いろんな村をまわって拝みながら、木切れで仏像を彫っていた。

ある日、お坊さんは、元気になった私を、ひろってくれた山へと連れて行った。
だが、私は山には帰らなかった。
だって、お坊さんと離れたくなかったからね。

お坊さんのそばが居心地がよかったから。
それに、お坊さんが作る仏像に、すっかり、ほれこんでしまってねえ。

仏像をほっているところを見るのが、楽しくて楽しくて。
あの頃が、一番幸せだったよ。

もちろん、自分の命がつきたあとも、お坊さんが仏像を作っているところを、ずっと、そばで見ていたんだよ。

でもね、そのお坊さんも、命がつきる時がやってきた。
最後の力をふりしぼって、仏像を作り始めた時、私は一生懸命に願ったんだ。

この仏像に宿らせてほしいって。
そして、この仏像を拝みにくる人たちを、お坊さんのかわりに、見たいってね。

だって、お坊さんは、いつだって、人々のために、仏像を彫ってたからね。
自分のことは何も願わず、ただ、人々が幸せであるようにと、そればかり願いながら。

だから、この仏像に宿って、お坊さんの願いが叶うところを見届けたいと思ったんだ。
私自身の目でね。

だから、仏像になってしまったらだめなんだ。
私は私のままで、この仏像に宿りたい。私は、そう強く願ったんだよ。

そうしたらね、仏像ができあがる瞬間だった。
急に、仏像がひかりだして、私の体が、ひゅーっとすいこまれたのは。

本当に、あっという間だった。

気がついたら、もう、仏像の内側にいたのさ。
私の願いが叶ったんだ。

すごいだろう? 願いって、叶うんだよ。

だから、この仏像に手をあわせる人々に、私は伝えてるんだ。
必死で願えば、叶うからって。

まあ、私の声が届いているかどうかは、わかりゃあしないがね。
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