(完結) わたし

水無月あん

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居場所

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「それで、少しは、なにか思いだせそうかい?」

笑った顔の仏像……いや、たぬきが心配そうに聞いてきた。

頭のもやが、少しだけ、消えた気もするけれど、かといって、自分のことは何もうかんではこない。
得体のしれない不安がひろがっていく。

「わからない……。もしかして、見てのとおりで、何かが入っているわけじゃないのかも……」

ぼそっと答えたとたん、たぬきは、からからと笑った。

「あんたが、見た目どおり、地蔵菩薩様だって言いたいのかい? あるわけないよ」

はっきりと言いきった。

「なんで、わかるんですか……?」

「この本堂の真ん中をみてごらん。立派な仏像があるだろう。阿弥陀如来様だ。私に話すみたいに、話しかけてごらんよ」

「えっ、話しかける? 何を……?」

「なんでもいいよ。こんにちは、とかさ」

「じゃあ、……こんにちは」

わけもわからず、たぬきの言葉を繰り返す。

「返事がきこえたかい?」

「いえ、なにも……」

「そうだろう! あんたの声は、阿弥陀如来様には届いてるかもしれないが、阿弥陀如来様の声は聞こえないんだ。私は、ここに長くいるが、一度も返事を聞いたことはない。毎日、毎日、しゃべりかけてるのにさ」

「それって、……どういうことですか?」

「思うに、居場所が違うってことじゃないかねえ」

「はあ……?」

「だからね、中身がたぬきの私と会話ができるあんたは、私と同じようなもんだと思うのさ」

「はあ」

「あ、がっかりしないでおくれよ。私と会話ができるってことは、あんたはあんたのまま存在してるってことだ。外側の仏像にすいとられて、中身が消えちまった後なら、声は聞こえない。でも、あんたは、ぼやっとしてるが、私と会話ができるんだ。消えちまう前に間に合って、良かったよ」

たぬきが安心させるように、優しい声をだした。

意味はわからない。
でも、たぬきが良かったと言ってくれたことに、ほっとした。


◇ ◇ ◇


それから、毎日、沢山、たぬきが話しをしてくれた。
一生懸命、耳をすまし、会話のなかに、自分のかけらを探していく。

でも、なにも見つからない。

あきらめかけた時、たぬきが山で暮らしていた時のことを話しだした。

(あ、知ってる)

突然、そう思った。
途端に、山の景色が、ぼんやりと浮かんだ。
何かがこみあげてくる。

(懐かしい……)


「その話……、もっと聞かせて」

「おっ、さては、あんたも、山に住んでいたお仲間かい? よし、あんたが思い出すまで、山の話を沢山するとしよう」

そう言うと、たぬきは嬉しそうに、話し始めた。

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