9 / 11
居場所
しおりを挟む
「それで、少しは、なにか思いだせそうかい?」
笑った顔の仏像……いや、たぬきが心配そうに聞いてきた。
頭のもやが、少しだけ、消えた気もするけれど、かといって、自分のことは何もうかんではこない。
得体のしれない不安がひろがっていく。
「わからない……。もしかして、見てのとおりで、何かが入っているわけじゃないのかも……」
ぼそっと答えたとたん、たぬきは、からからと笑った。
「あんたが、見た目どおり、地蔵菩薩様だって言いたいのかい? あるわけないよ」
はっきりと言いきった。
「なんで、わかるんですか……?」
「この本堂の真ん中をみてごらん。立派な仏像があるだろう。阿弥陀如来様だ。私に話すみたいに、話しかけてごらんよ」
「えっ、話しかける? 何を……?」
「なんでもいいよ。こんにちは、とかさ」
「じゃあ、……こんにちは」
わけもわからず、たぬきの言葉を繰り返す。
「返事がきこえたかい?」
「いえ、なにも……」
「そうだろう! あんたの声は、阿弥陀如来様には届いてるかもしれないが、阿弥陀如来様の声は聞こえないんだ。私は、ここに長くいるが、一度も返事を聞いたことはない。毎日、毎日、しゃべりかけてるのにさ」
「それって、……どういうことですか?」
「思うに、居場所が違うってことじゃないかねえ」
「はあ……?」
「だからね、中身がたぬきの私と会話ができるあんたは、私と同じようなもんだと思うのさ」
「はあ」
「あ、がっかりしないでおくれよ。私と会話ができるってことは、あんたはあんたのまま存在してるってことだ。外側の仏像にすいとられて、中身が消えちまった後なら、声は聞こえない。でも、あんたは、ぼやっとしてるが、私と会話ができるんだ。消えちまう前に間に合って、良かったよ」
たぬきが安心させるように、優しい声をだした。
意味はわからない。
でも、たぬきが良かったと言ってくれたことに、ほっとした。
◇ ◇ ◇
それから、毎日、沢山、たぬきが話しをしてくれた。
一生懸命、耳をすまし、会話のなかに、自分のかけらを探していく。
でも、なにも見つからない。
あきらめかけた時、たぬきが山で暮らしていた時のことを話しだした。
(あ、知ってる)
突然、そう思った。
途端に、山の景色が、ぼんやりと浮かんだ。
何かがこみあげてくる。
(懐かしい……)
「その話……、もっと聞かせて」
「おっ、さては、あんたも、山に住んでいたお仲間かい? よし、あんたが思い出すまで、山の話を沢山するとしよう」
そう言うと、たぬきは嬉しそうに、話し始めた。
笑った顔の仏像……いや、たぬきが心配そうに聞いてきた。
頭のもやが、少しだけ、消えた気もするけれど、かといって、自分のことは何もうかんではこない。
得体のしれない不安がひろがっていく。
「わからない……。もしかして、見てのとおりで、何かが入っているわけじゃないのかも……」
ぼそっと答えたとたん、たぬきは、からからと笑った。
「あんたが、見た目どおり、地蔵菩薩様だって言いたいのかい? あるわけないよ」
はっきりと言いきった。
「なんで、わかるんですか……?」
「この本堂の真ん中をみてごらん。立派な仏像があるだろう。阿弥陀如来様だ。私に話すみたいに、話しかけてごらんよ」
「えっ、話しかける? 何を……?」
「なんでもいいよ。こんにちは、とかさ」
「じゃあ、……こんにちは」
わけもわからず、たぬきの言葉を繰り返す。
「返事がきこえたかい?」
「いえ、なにも……」
「そうだろう! あんたの声は、阿弥陀如来様には届いてるかもしれないが、阿弥陀如来様の声は聞こえないんだ。私は、ここに長くいるが、一度も返事を聞いたことはない。毎日、毎日、しゃべりかけてるのにさ」
「それって、……どういうことですか?」
「思うに、居場所が違うってことじゃないかねえ」
「はあ……?」
「だからね、中身がたぬきの私と会話ができるあんたは、私と同じようなもんだと思うのさ」
「はあ」
「あ、がっかりしないでおくれよ。私と会話ができるってことは、あんたはあんたのまま存在してるってことだ。外側の仏像にすいとられて、中身が消えちまった後なら、声は聞こえない。でも、あんたは、ぼやっとしてるが、私と会話ができるんだ。消えちまう前に間に合って、良かったよ」
たぬきが安心させるように、優しい声をだした。
意味はわからない。
でも、たぬきが良かったと言ってくれたことに、ほっとした。
◇ ◇ ◇
それから、毎日、沢山、たぬきが話しをしてくれた。
一生懸命、耳をすまし、会話のなかに、自分のかけらを探していく。
でも、なにも見つからない。
あきらめかけた時、たぬきが山で暮らしていた時のことを話しだした。
(あ、知ってる)
突然、そう思った。
途端に、山の景色が、ぼんやりと浮かんだ。
何かがこみあげてくる。
(懐かしい……)
「その話……、もっと聞かせて」
「おっ、さては、あんたも、山に住んでいたお仲間かい? よし、あんたが思い出すまで、山の話を沢山するとしよう」
そう言うと、たぬきは嬉しそうに、話し始めた。
0
あなたにおすすめの小説
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!
mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの?
ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。
力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる!
ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。
読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。
誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。
流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。
現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇
此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
9日間
柏木みのり
児童書・童話
サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。
(also @ なろう)
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
モブの私が理想語ったら主役級な彼が翌日その通りにイメチェンしてきた話……する?
待鳥園子
児童書・童話
ある日。教室の中で、自分の理想の男の子について語った澪。
けど、その篤実に同じクラスの主役級男子鷹羽日向くんが、自分が希望した理想通りにイメチェンをして来た!
……え? どうして。私の話を聞いていた訳ではなくて、偶然だよね?
何もかも、私の勘違いだよね?
信じられないことに鷹羽くんが私に告白してきたんだけど、私たちはすんなり付き合う……なんてこともなく、なんだか良くわからないことになってきて?!
【第2回きずな児童書大賞】で奨励賞受賞出来ました♡ありがとうございます!
アリアさんの幽閉教室
柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。
「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」
招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。
招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。
『恋の以心伝心ゲーム』
私たちならこんなの楽勝!
夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。
アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。
心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……??
『呪いの人形』
この人形、何度捨てても戻ってくる
体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。
人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。
陽菜にずっと付き纏う理由とは――。
『恐怖の鬼ごっこ』
アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。
突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。
仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――?
『招かれざる人』
新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。
アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。
強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。
しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。
ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。
最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる