私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん

文字の大きさ
19 / 101

今更

しおりを挟む
第二王子を前に、わきあがる腹立たしさをこらえるようにして、私は無理やり頭をさげた。

「顔をあげよ」

これまた、あげたくはないけれど、あげないわけにはいかない。
ギギギっと音がでそうなほど、力が入った状態で、なんとか頭をあげた私。

逃げるのは嫌なので、せめても、瞳に全力をこめて、にらみつける。

「そなたはミナリアの親戚のマイリ侯爵家の令嬢だったな。ほお……。前に会った時はまだ小さかったが、こうやって成長すると、やはり、ミナリアと似たところがある。懐かしいな……」

じとっとした目で顔をなめまわすように見られて、思わず鳥肌がたった。

「なあ、ミナリアはライナ国に住んでいるんだろう? その……ミナリアは元気なのか?」

は……? 嘘でしょ?
そんなことを聞ける権利が自分にあると思ってるんだろうか?

その無神経さに、ふつふつと怒りがこみあげる。

すぐにでも、靴をぬいで、なげつけたい衝動にかられてきた。
今なら、目の前に立っているし、確実にあてられる。

が、さすがの私でも、この王宮でそんな暴挙にでたら、大惨事になることくらいの理性は残っている。
とりあえず、腹立たしいけれど、ミナリア姉さまの尊厳にかけてでも、ここは笑顔ではっきり断言しておかねば!

「はい。とても元気で、幸せに暮らしております」

第二王子とはまるで違って、それはそれは素敵な旦那様ですからね……と心の中でつけ加えておく。

すると、「そうか……」と言って、何故か傷ついたような顔をした第二王子。

その瞬間、かっと火が付いたように怒りがふきあがった。

なに、その顔!? なんで、そんな顔をするの!?
そんな顔をする資格なんてない! と、叫びそうになるのを、なんとか飲み込んだ私。

考えるのも嫌だけれど、もしかして、今更、ミナリア姉さまのすばらしさに気づいたとか、バカなことを言いださないよね……? 

と思った矢先、すがるような気持ちの悪い目を私に向けて、言った。

「マイリ侯爵令嬢。そなたはミナリアと仲がいいんだろう? 頼む! こっそり、ミナリアに連絡をとってほしい」

「はあ!?」

今度こそ、あきれた声がもれだしてしまった。
不敬であろうが、しょうがないよね。だって、ありえないことを耳にしたんだから。

「そんなこと、できません! 失礼します!」

叫ぶようにそう言い放ち、急いで、第二王子から離れようとした瞬間、腕をつかまれた。

「ミナリアと話しがしたいんだ!」

「離してください!」

「ミナリアにとってもいいことなんだ。だから、頼む! ミナリアに連絡をしてくれ!」

ものすごい力でひっぱられて、腕が痛い。

でも、それよりも、は、さっきから、何、勝手なことを言っているの!?
心の方が怒りでどうにかなりそうなんだけど!

その時だ。

「ガイガー王子!」

ルーファスの鋭い声がした。
ものすごい速さで近づいて来たルーファス。私の腕をつかむ第二王子の手を叩き落し、私の姿を隠すようにして前にたった。

ルーファスの背中にかばわれて、一気に力が抜ける。
怒り、悔しさ、緊張、自分の無力さがごちゃまぜになってこみあげてきて、涙で目の前がにじんだ。

「ララに……マイリ侯爵令嬢に何をするんですか!?」

「ミナリアのことを聞いただけだ」

「それなら私に聞いてくださればいいでしょう!?」

「おまえらに聞いても、ミナリアのことは教えてはくれないだろうが。それに、ルーファス! なんで、おまえに指図されねばならない! 俺は王子で、おまえは、たかだか公爵家の息子だぞ!? それに、マイリ侯爵令嬢は、おまえの婚約者でもなんでもないだろうが! おまえが横から口だすことではない!」

声を荒げる第二王子。
王宮の護衛の方たちが近づいてくるが、王子相手なので手出しができず、ただ様子を伺っているよう。

「大事な幼馴染です」

ルーファスが第二王子に強い口調で言い返した。
そんなルーファスを見て、鼻で笑った第二王子。

「ほお……。まわりの者に優秀だとおだてられて、いい気になってるおまえでも、そんな余裕のない顔をするんだな? たかが話しかけただけで、なんだ、その殺気は……。そんなにこの子が大事か? まさか番か?」

「違います」

ルーファスが淡々とした声で答えた。

が、次の瞬間、いきなり、ルーファスの後ろにいる私をのぞきこんできた第二王子。
最悪なことに、ばっちり目があってしまった。

悔しいから、逃げることなく、きっちり睨み返す。

すると、第二王子は私を見据えて言った。

「もし、ルーファスがおまえのことを番だなんて言おうもんなら、即逃げろ。番は運命とか、そんなきれいなもんじゃない。ただの呪いだ……」

え……?
すぐにルーファスの背にかばわれたけれど、その時の第二王子の目は、不気味なほど暗い光を発していた。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

幼馴染の執着愛がこんなに重いなんて聞いてない

エヌ
恋愛
私は、幼馴染のキリアンに恋をしている。 でも聞いてしまった。 どうやら彼は、聖女様といい感じらしい。 私は身を引こうと思う。

番(つがい)はいりません

にいるず
恋愛
 私の世界には、番(つがい)という厄介なものがあります。私は番というものが大嫌いです。なぜなら私フェロメナ・パーソンズは、番が理由で婚約解消されたからです。私の母も私が幼い頃、番に父をとられ私たちは捨てられました。でもものすごく番を嫌っている私には、特殊な番の体質があったようです。もうかんべんしてください。静かに生きていきたいのですから。そう思っていたのに外見はキラキラの王子様、でも中身は口を開けば毒舌を吐くどうしようもない正真正銘の王太子様が私の周りをうろつき始めました。 本編、王太子視点、元婚約者視点と続きます。約3万字程度です。よろしくお願いします。  

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話

下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。 御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...