私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん

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異様な雰囲気

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王女様はルーファスから私に視線を戻すと、美しい笑みをたたえて、私に話しかけてきた。

「ねえ、ララベルさん。私のまわりには、ずっと獣人しかいなかったから、獣人の血が全く入っていない純粋な『人』という存在がよくわからないの。決して、下に見ているとかではないのよ。気に障ったかしら?」

仮に私の気に障ったとしても、そんなこと、まるで気にしないだろうことが容易に想像できてしまう。
少し離れたところから見ている方たちにはわからないかもしれないけれど、間近で見ると、王女様の目はぎらついていて、逃げ場のない獲物を追い詰めて、楽しんでいるみたいな感じがするから。

ああ、そうか……。
アイリスが言っていたことが今になって身に染みる。

竜とこりすって、なるほど、こういう意味だったんだ……。

でも、ルーファスみたいに天使のような心優しい竜の獣人がいるように、一見、無力で小さな、こりすに見えるかもしれないけれど、私の本質は、おとなしい小動物じゃない。

今だって、嫌な笑みをうかべる第二バカ王子に投げれるものなら、靴を投げたいと思っているくらいだから。
自分で言うのもなんだけど、靴を投げたい貴族令嬢って、そうそういないよね?

ということで、見た目は小さいけれど、内面は猛獣みたいな感じで立ち向かおう!

ちびっこ猛獣と化した私は、目に全力をこめて、王女様をしっかり見据えた。

「いえ、全く気にしておりませんので、お気遣いなく」

力強く答えて、ゆったりと微笑んで見せた。

王女様の眉が一瞬、不快そうにゆがめられらた。
が、すぐに、くすりと笑った。

「まあ、勇ましいのね。人って、かわいらしいわあ! ほら、獣人同志だと、ひとめで、その力関係がわかるの。残念ながら竜の獣人は獣人のなかでも特別だから、よく怯えられるのよ。だから、その反応は新鮮だわ。……でも、ララベルさんが気にしていなくて良かった。ルーファスの幼馴染に嫌われたらショックだものね。同じ竜の獣人で王家の親族でもあるルーファスとはとても気が合うから、これからも仲良くさせていただきたいの。だから、ララベルさんもよろしくね」

そう言って、華やかな笑顔を見せた王女様。
有無を言わせない圧みたいなものが、びしばしと肌に突き刺さってくる。

が、今の私は、ちびっこ猛獣。ひるむわけにはいかない! 
微笑みをたたえたまま、「ええ。こちらこそ、よろしくお願いします」と、きっぱり返事をしておいた。

そこへ、長い黒髪を後ろで束ねた背の高い男性が王女様に近づいてきた。
ジャナ国の方らしく、細く長い黒いしっぽが後ろで動いているのが見える。

「国王様と王妃様が、お話がしたいとお待ちでございます」
と、王女様に小声で話しかけた。

「わかった。すぐに戻るわ」

王女様は答えたあと、私のほうに向きなおった。

「ああ、そうだわ。ララベルさん。あなたに紹介しておくわね。この者は私の従者でロイスっていうの」

「イファ・ロイスと申します」

つくりもののような精巧な顔には一切表情がない。
淡々と名乗ると、ロイスさんは私に向かって、軽く頭をさげた。

「マイリ侯爵の娘、ララベルと申します」

私も挨拶を返す。が、王女様の意図がわからず、とまどってしまう。
隣にいるルーファスもさりげなく私のほうに体を寄せ、警戒しているのが伝わってくる。

「このロイスはね、私に尽くしてくれて、なんでも言うことを聞いてくれる、いわゆる幼馴染なの。そう、ルーファスにとってのララベルさんと同じかしら?」

なんだか、王女様の言う幼馴染は、友達とかじゃなくて下僕みたいな感じに聞こえるんだけど……?
しかも、ルーファスにとっての私がそうだと言っているみたい。

「王女様がおっしゃられる幼馴染と、私の思う幼馴染はまるで違う関係のようですね」
と、ルーファスが即座に言い返した。

「あら、そうかしら? ロイスのように、ララベルさんも、竜の獣人であるルーファスに仕える気持ちでいるのかもしれないわよ。そのあたりも、ララベルさんとはゆっくり話してみたいわ」
と、王女様。

いえ、結構です……!

「王女様は、明日、帰国されますよね。そんな時間はありません」

ルーファスの言葉に、いきなり、第二王子が笑い出した。
笑う要素がまるでないのに、声をあげて楽しそうに笑う第二王子。

ついに、おかしくなったのか……。
いや、もともと、おかしかったわ……。

なんて考えつつも、第二王子の異様な雰囲気が不気味で、思わずあとずさってしまった。

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