私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん

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ただの人

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「聞かなくていいよ、ララ」

ルーファスが王女様をにらんだまま言ったとたん、くくくっと声をあげて笑った第二王子。

「ルーファス、何をそんなに警戒してる? たかが話をするだけだろう? いつも淡々としたおまえが、マイリ侯爵令嬢のこととなると、そんなに感情むき出しになるとは。そんなに大事なマイリ侯爵令嬢と離れることになったら、おまえはどうなるんだろうな?」

「ありえない」

ルーファスが地の底をはうような声をだした。

「ありえないわけないだろう? どんなに大事に思っていようが、番が現れたら全て終わりだ。獣人の本能には逆らえない。王子の俺より竜の獣人の特性が強いおまえなら、なおさらだ。そんなことくらい、おまえだってわかってるだろう、なあ、ルーファス?」

第二王子がにやりと笑った。

ルーファスをあおって、怒らせようとしてる……。

動揺したルーファスを見たいだけで、そんなことをしているのか、動揺させて隙をつくって、何かしでかそうとしているのか、わからないけれど、ルーファスが嫌がることをするバカ王子は許せない!

ということで、第二王子がルーファスに話しかけるのをぶったぎるようにして、王女様のほうに声をかけた。

「王女様、そのお話、お聞かせください!」

「ララ……?」

ルーファスが私のほうを心配そうに見る。

大丈夫だよ、ルーファス。ただ話を聞くだけだから。

それに、ふたりの狙いはルーファス。
私がルーファスの前にでて、ふたりの邪悪な思いから防がないと。
ルーファスは私が守るんだから! あとは私に任せて!

という意味をこめて、大きくうなずいてみせる。
が、何故か、私を見るルーファスの顔がもっと心配そうになった。

「まあ、良かったわ。私の話を聞けば、であるララベルさんも自分の立場がわかるのではないかしら」
と、悪意のこもった前置きをしたあと、王女様は話し始めた。

「ララベルさんも知ってるでしょうけれど、私の国には生粋の獣人しかいないわ。そのため、他国から仕事でやってくるのも、だいたい純血の獣人ばかり。血の薄い獣人たちでも躊躇するくらいだから、ララベルさんのようなは警戒して普通はこないわね」

そういえば、お父様もパーティーの時、私に純血の獣人はどんな能力があるかわからないから、近づかないようにって、くどいくらい忠告してきたっけ……。

でも、血の薄い獣人のアイリスは躊躇するどころか、ジャナ国と商売する気満々だし、私だって、王女様個人に警戒しているだけで、純血の獣人が怖いわけではない。いっしょくたにしないでほしい。
そして、なにより、「ただの人」が、私の名前みたいに毎度毎度ひっつけるのもやめてよね。

と、心の中で文句をいいつつ、王女様の話を聞く。

「あれは、5年前だったわね……。アルジロ国から旅商人が王都にやってきたの。アルジロ国は我が国と交流がある数少ない国だから、アルジロ国王家が身分を証明する書類をもっていれば、商売ができるのよ」

アルジロ国といえば、ジャナ国に接している小さな国。
ジャナ国のように獣人しかいないというわけではないけれど、獣人が多い国だと聞いている。

「その商人は、珍しい商品を色々持っていたから、王都で話題になった。それで、国王であるお父様が王宮に呼んだのよ。そして、王宮で働く者たちをねぎらうために、数日間、王宮内で店を開かせたの。当時12歳だった私は、アジュお姉さまに連れられて、見に行ったわ。その商人は家族で商売をしていた。商人夫婦と娘、それに従業員の男がひとり。商人夫婦と従業員の男は見るからに狼の獣人だった。が、娘だけが違った。どんな種の獣人にも見えなかった。そんなことは初めてだったわ。純血の竜の獣人である私は、ひとめ見れば獣人の種類がわかるから。その時、アジュお姉さまが興奮気味に言ったの。『娘さんは純血の人ね。純血の人と初めて会ったわ! 話してみたい』って。私は不思議に思ってお姉さまに聞いた。になんで興味を持つのかと。すると、普段は大人しいアジュお姉さまが、「ただの人」なんて言ったらいけないって、私を叱ったの。純血の獣人とか、どんな種の獣人とか、獣人じゃないとか、そんなことで優劣はないからってね。力の差は歴然としているのに、優劣がないわけないでしょう? アジュお姉さまは純血の竜の獣人でありながら、強くもないから、そんなことを言うのよ。特段目立つ竜の力も持っていない、あんな凡庸なアジュお姉さまが王太女だなんて、ほんと、納得がいかないわ……」
と、憎々しげに、どこか遠くを見た王女様。

会ったこともないけれど、こんな妹がそばにいる王太女様の苦労を思うと、心底同情してしまう。
と、同時に、ほっとした。

だって、王女様のお姉さまである王太女様はまっとうな思考をお持ちの方みたいだから。
ジャナ国の王家が王女様みたいな方ばっかりだったら、それこそ、怖くて交流なんてできないもんね。

なんて考えていたら、王女様が視線を私に戻して、ほの暗い笑みを浮かべた。

「色々思い出して話がそれてしまったわ。ごめんなさいね、ララベルさん。じゃあ、話を元に戻すわ」



 
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