私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん

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そうはさせない!

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番を忘れた……。

王女様の言葉に、第二王子が嫌な笑い声をあげた。

「そうか! おとぎ話でもなく、本当に番を忘れる手段がジャナ国にはあるんだな! ……それで、番を忘れた公爵の息子はどうなったんだ!?」

「娘への気持ちが、きれいさっぱり消えたのよ。もちろん、である娘と一緒に、アルジロ国へ移り住むなんてことも言わなくなった。公爵夫人が嬉しそうに報告してきた話によると、公爵子息は、その代わりの物を飲んだ直後に、娘に向かって苦しそうに言ったそうよ。『もう、君と一緒にはいられない。君は国へ帰って、どうか幸せになってくれ』とね。つまり、番である娘を捨てたってこと」

「ほお、代わりの物とやらは、すごい威力だな。それを飲めば、すぐに番を忘れられるとは……」

目をぎらつかせて、つぶやく第二王子。

「王家に伝わる『番を忘れる薬』は、番の存在すら忘れるらしいのだけれど、代わりの物は、番という感覚だけを忘れたみたいだったわ。だから、公爵子息は娘の存在を忘れたわけではなかったの。でも、焦がれる気持ちだけが消えた。つまり、公爵子息は娘が番というだけで、惹かれてたってことよ。まあ、でも、傍からみたら、そんなことはわかりきっていたことだったけれど……。だって、である、なんの魅力もない平民の娘を、有能な獣人の公爵子息が好きになるわけないもの。番という本能だけが求めていたってことよ。番に会うことを運命のように思う獣人なら、それはそれで特別だからいいんでしょうけれど、番の本能を理解できないである娘にとったら、それって最悪なことでしょう? 公爵子息が自分自身を微塵も好きなわけじゃなかったことを思い知らされたわけだから。その衝撃で抜け殻みたいになった娘を、あわてて迎えにきた両親が、アルジロ国へと連れて帰ったわ」

そこまで話すと、意味ありげに私に微笑みかけてきた王女様。
が、そんなことより、私は別のことがひっかかっていた。

それは、公爵子息が苦しそうに娘さんに言ったという言葉。
「もう、君と一緒にはいられない。君は国へ帰って、どうか幸せになってくれ」だったよね……。

私は番のことは何もわからないけれど、番という認識が消えても、公爵子息は娘さんのことを思っているような気がするんだよね……。そうあって欲しいと思う私の願望かもしれないけれど。
でも、少なくとも、王女様の言うように、好きなわけじゃなかった、というのは違うと思う。

番だから惹かれたんだとしても、きっと娘さんと一緒に過ごすうちに、公爵子息は娘さん自身のことを好きになったんじゃないのかな。
でも、一緒にいられないと言ったということは、もしかしたら、その代わりの物を飲んだことによる影響が何か関係しているような気がする。

その根拠は? と聞かれれば、何もないけれど、強いて言えば、私の野生の勘!
なんだか、あたってる気がする! 

「それでね、ララベルさん。これは、つい最近、わかったことなのだけれど、であるあの娘は、結局、である、平民の男と結婚したのですって……。つまり、ララベルさんに私が言いたかったのは、たとえ番であっても、獣人とが結ばれるのは無理だってことなの。お互い理解しあえないし、障害だらけで、まわりもまきこんで不幸になるわ。だから、獣人には獣人が、それも強い獣人には強い獣人がふさわしいし、にはが、そばにいるのが一番いいってことを伝えたかったのよ。理解していただけたかしら? ララベルさん、あなたには、身の程をわきまえなかったあの娘のように悲しんでほしくはないから言ってるのよ」
と、さとすように私に語りかけてきた王女様。

ほんと、王女様は人をなんだと思ってるんだろう……。
身の程をわきまえないとか、色々ひどい……。

とにかく、王女様が私に言いたいのは、優れた獣人のルーファスの隣に、獣人じゃない私がちょろちょろしているのは、ふさわしくないってことだよね。
やっぱり、王女様は、ルーファスをジャナ国に連れて帰ろうと目論んでいる気がする。でも、そうはさせない!

だって、天使のような優しいルーファスに、こんな高圧的で差別的な考えを持つ王女様は、それこそ、ふさわしくない!
大事な幼馴染のルーファスのことは、なんとしてでも、私が守る!

私は体中の力を目力に集中させて、王女様を見据えた。

王女様にとったら、私は、ひ弱な「ただの人」なんだろうけれど、ルーファスを守るためなら、私はなんだってする! 
そう、私の靴を投げる相手は第二王子だけじゃない! 

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