私が一番嫌いな言葉。それは、番です!

水無月あん

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あわれむなと言われても

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一刻も早く、庭にでて、ルーファスのあとをつけなきゃ!

そう思っているのに、王女様に操られた状態から解放されたばかりの王子妃の怒りが、何故か私にむかってきている。

こっそり、隙をついて、庭にでるつもりだったのに、
「今度は、あんたかー!」
なんて、意味不明な絡まれかたをしたため、当然、部屋中の人たちの視線が、王子妃と私に集中してしまっている。

驚いたのもつかの間、すぐに腹が立ってきた。

私があとをつけるのが遅れて、ルーファスになにかあったら、どうしてくれるの!?
自分で言うのもなんだけど、私は自分の大事な人たちのことになると、沸点は恐ろしいほど低い!

こんな状況に構っている暇はない! 
早く、ルーファスのところに行くんだから!

私は、王子妃をきっと見返して、
「私が何かしましたかっ!?」
と、怒りがあふれだした口調で聞いてみた。

すると、王子妃は憎々しげに私を見たまま、叫んだ。

「あの目よっ! あの目を見てたら……急に、私は動けなくなったのよ! 全身、しばられたみたいに……。それなのに、勝手に口だけが動くの……。しかも、思ってもないことしか言えなかった。あの声に、従うようなことしか……。なんなのよ、あれ!」

ん……? 
それって、王女様に操られていた状態のことを言ってるんだよね。

つまり、私は全く関係ない! 

「それは、王女様に操られてたからですよ!」(私のせいじゃないから。それに、私はそれどころじゃない。早くルーファスのとろこにいかないと!)と、心の声も言外にこめて、強い口調で伝えた私。

「そんなこと、あんたに言われなくてもわかってるわよっ!」
と、またまた、絡んできた。

わかっているなら、私にもう絡まないで欲しい!
早く庭に行きたいのに。

王子妃が悔しそうに顔をゆがめた。

「でも、耳だけは、全部、聞こえてたのよ! 悔しくて、悔しくて、泣けてきたわ……」

あ……、そういえば、王子妃が途中、涙をこぼしたのを見た。

途中から操られてた力が弱まってきて、会話が聞こえだしたのかと思ったけれど、全部、聞こえてたんだ……。

だったら、第二王子の言ったことも聞いてたんだよね。
色々、ひどいことばっかり言ってたけど……。

王子妃にとったら聞きたくないだろうことも。

ロイスさんの話に重ねて、平民の番を選んだことへの最低すぎる発言とか、やたらと番を忘れる物をほしがっていたりとかも……。

王子妃のミナリア姉さまへの言動は許せないし、許すつもりもないけど、あんな最低バカ王子が番だったことだけは、さすがに気の毒だと思う。

そう思った時だった。

「同情しないでよっ! あんたに、……あの女そっくりの、あんたにだけは、同情なんて、されたくない!」

王子妃が金切声で叫んだ。

耳がキーンとするほどだったけれど、まるで、泣いているように聞こえて、胸がいたくなった。
思わず、王子妃を見る。

「だから、あの女みたいな顔で、……そんな顔で、私を見るな! 私をあわれむな! ミナリア、ミナリア、ミナリアって……! あれから、11年もたったのに、まだ、ガイガー様の中にしつこく居座り続けるなんて、いつまで、私を苦しめれば気がすむのよ!? ガイガー様の番は、この私なのよ! 平民だった私が、あの女に勝ったのに! 勝った私が、なんで幸せじゃないのよ!? あの女のせいで、私が、こんなに苦しまなきゃいけないのよー!」

癇癪をおこす幼い子どものように、わめく王子妃。
ミナリア姉さまのせいじゃないことは誰もがわかることなのに……。

あわれむな、と言われても、やっぱり、あわれに思えてくる。

「しかも、今になって、あの女に似た顔が、あの人の前にあらわれるなんて! ……あんたみたいな小娘に、ガイガー様は渡さないんだから!」

王子妃を見て、あわれむ気持ちが一瞬でふきとんだ。

はあああ……!? 
今、なんて言った!?

縁起でもないこと言わないで!

「そんなのいりませんっ!!」

思わず、声を荒げてしまった私。

王子妃の目に、狂気が宿った。

「あんたはやっぱりミナリアだ……。そうか、ミナリアなんだ……。ミナリアが、ガイガー様を奪いかえしにきたんだ……」
と、つぶやいた王子妃。

「ガイガー様の心から消えて……! いい加減、消えてよ! 消えろー、ミナリアー!」

そう叫ぶと、王子妃はフォークを持った手を思い切ってふりあげた。

その瞬間、背後にいた護衛のランダさんが王子妃をとりおさえた。
ほぼ同時に、執事のキリアンさんが王子妃の手からフォークをとりあげた。

レーナおばさまが、すっと王子妃の前に立った。

「アンヌ様、マイリ侯爵家のララベル嬢に危害を加えようとしたこと、すぐさま報告させていただきます」

「私はなんにも悪くない! 私を苦しめるミナリアを消そうとしただけなんだから!」

ランダさんにとりおさえられたまま、叫ぶ王子妃。
私に視線を向けると、更に叫んだ。

「あの小娘が悪いのよ! あの女に似たその顔で、ガイガー様に色目を使うから! あの小娘が、ガイガー様を奪おうとするから……!」

「ランダ、キリアン。アンヌ様をすぐに別室に連れて行ってちょうだい」

レーナおばさまが冷静に指示をだしている。
メイドさんたちは、王子妃が床になげつけた食器などを片付け始めた。

誰も私を見ていない。
今のうちに庭にでよう。

遅くなったから、早く、ルーファスを追いかけないと!

私はかけだすと、庭にでる扉のところまできた。

その時、後ろから「ララちゃん!」と、声がかかった。
ふりむくと、レーナおばさまが私を見ている。

「ララちゃん、無茶だけはしないでね。いってらっしゃい」
と、優しく微笑んだレーナおばさま。

そっか……。

私の考えは、レーナおばさまにはお見通しだったんだ。

「はいっ! ルーファスを守ってきます!」

私は、きっぱり宣言すると、扉をあけて庭にとびだしていった。



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