(完結)いつのまにか懐かれました。懐かれたからには私が守ります。

水無月あん

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子犬?

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「じゃあ、お言葉に甘えて、剣を使わせてもらう。あ、練習用の剣だから、そこは安心して? さあ、どこからでもかかってきて!」

「なら、こっちも遠慮なく。女だからといって容赦しないからな。覚悟しろ!」

そう言った次の瞬間、目の前の少年がパンチをくりだしてきた。

軽くかわして、様子を見る。
威力はある。スピードもある。でも、隙だらけ。

自信があったパンチをかわされて、驚いたように目を見開く少年。
それから、がむしゃらに何度もパンチをくりだしてくるけれど、私はひらひらとかわす。

体の大きなアール兄様や護衛の人たちと練習しているから、違いがよくわかる。
身体能力は高そうだけれど、ちゃんとした訓練を受けていないから動きが荒い。

すばしっこさが持ち味の私としては、すごくやりやすい相手だ。

訓練してきた甲斐があった! と、確認できて嬉しくなる。
が、そろそろ終わらせないと。

私は、すばやく踏み込み、相手の首に剣をつきつけた。

「はい、私の勝ち」

あっという間に勝負がついた。
力が抜けたように、へたりこんだ少年。

「マチルダ!」

遠くから私を呼ぶ声がした。

見ると、道の向こうで、アール兄様が私を見つけ、にこにこと手をふっている。
騎士服を着ているから、仕事帰りみたい。

私も剣を持っていないほうの手をふりかえしながら、叫んだ。

「アール兄様-! おかえりなさーい!」

が、アール兄様の視線が、私の剣先にいる少年を見たとたん、笑顔から、一気に恐ろしい形相に変化した。
そして、私のほうに向かって走りだした。
ものすごいスピードで、走ってくる。

そう、アール兄様は剣の稽古は厳しいけれど、それ以外では私に過保護なんだよね……。

ちょうどその時、裏口から、見回りのため護衛のジルがでてきた。
私たちを視界にいれたとたん、こっちに向かって走りだした。
こちらも、ものすごいスピードで、走ってくる。

ドドドドドドッ……。

大男たちの近づいてくる圧がすごい……。

あっという間に、アール兄様とジルが少年を捕獲した。
色々、聞かれそうね。

では、あとはお任せしよう。
そう思って、立ち去ろうとした私。

……あれ? 

背後に何かの気配がする。何かひっついているような感じ……。
もしや、背後霊とか!?

バッと振り返ると、赤い髪の少年が私の背後に立っていた。

私と同じくらいの背たけで、幼く見える顔立ち。
やっぱり、あの背の高い少年と同じ年には到底見えない。

だって、うるうるした大きな目は、捨てられた子犬のようだし。

私は、赤い髪の少年を安心させるように言った。

「あのね、大丈夫だよ。もし、困ってることがあるのなら、この人たちに遠慮なく相談して。頼りになるからね。あ、そうだ。お金のことでも話して大丈夫だからね。秘密は守る人たちだから信用していいよ。じゃあ、私はこれで!」

そう言って、歩き出そうとすると、何故か後ろをついてくる赤い髪の少年。

「マチルダ。その背中にひっつけている赤毛の子どもはなんだ?」
と、不審げに聞いてきたアール兄様。

なんだと聞かれても、私にもわからない。
とりあえず、わかっていることだけを伝えておく。

「この赤い髪の少年、私が来た時、そこにうずくまって泣いていたの。その背の高い少年がそばにいた。2人に何があったのか、理由は聞いていない。それから、なりゆきで、その背の高い少年と私が勝負をすることになったの。その時に、私が負けたら、この赤い髪の少年が払うはずだったお金を、私が払えと言われた。でも、赤い髪の少年は、お金を借りていないんですって。……あ、それと、ふたりは同じ年みたい」

真相はわからないので、私の考えを差しはさまないように、見聞きしたことだけを伝える。

そう言えば、ふたりの名前を聞いていなかった。
どちらも少年だから、説明しずらい。

未来の騎士として、もっとわかりやすく、端的に報告できるように、今後は気をつけよう!

「へえええ、おまえ、かわいい俺の妹にそんなこと言ったのか……。じーっくり話を聞かせてもらおうか?」

アール兄様が冷気を放ちつつ、背の高い少年にすごんだ。

よし、引継ぎは終了。では、私は退散。
剣の素振りの続きをしなきゃ!

と、思ったのだけれど、赤い髪の少年が、いまだ、私をすがるように見ている。

その時、風がふいてきて、少年の赤い髪の毛が、ふわふわと踊るように動いた。

あ、きれい……。

目を奪われていたら、ふと、自分の首にかけているネックレスを思い出した。
私よりも、この赤い髪の少年に必要かも。

と、いきなり啓示のように閃いた。
そうなると、一切の迷いはない。

私は首にかけていたネックレスをはずした。
小さくて丸くて赤い魔石がついている。

私は、それを赤い髪の少年の首にかけた。

「これ、君にあげる」

大きな目をさらに大きくして、驚いたように私を見る赤い髪の少年。

「あのね、これは魔石なの。悪いものをはじく魔力がこもっているんだって。効果はわからないけれど、お守りみたいな魔石みたい。騎士になるため、訓練をする私を心配して、シュルツ国に住む叔母様にいただいたものだけれど、君のほうが必要みたい。だから、あげる。何がそんなに怖いのかは知らないけれど、もう大丈夫だよ」

「え? ……そんな大事な魔石を、もらえません!」

赤い髪の少年が、あせったように言った。

「ううん、いいよ、もらって! 私よりも君が持ったほうが、石もやる気をだすと思う。守らなきゃって。それに、この魔石の色、君の髪の色と一緒で、きれいな赤でしょ? ほら、おそろいみたいできれい!」

私がにっこり微笑んでそう言うと、赤い髪の少年の頬が赤く染まった。

なんというか、可憐だよね……。
私とは真逆な感じ。

そんなことを考えていたら、少年が感動したように、目をうるませて、私にお礼を言った。

「あの……、ありがとうございます! 一生、大切にします! それと、ぼくの名前はルド。……ルド・シュバイツです。どうぞ、ルドと呼んでください……」

「うん、わかった、ルドだね! 覚えた! 私はマチルダ。じゃあ、私、剣の素振りの途中だから、もう行くね」

「はい。あ、マチルダ様……! あの……、これからよろしくお願いします!」

ルドはそう言って、はにかむように微笑んだ。

なんか、かわいいな。
ほんと、子犬みたい……。

ん、でも、これからよろしくって…? 
また、会う機会があるのかな? 

あ、でも、この近くを通るなら、また偶然会うかもしれないしね。

「こちらこそ、よろしく。じゃあね!」

そう言うと、私は剣をにぎりしめ、屋敷へ戻っていった。




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