(完結)いつのまにか懐かれました。懐かれたからには私が守ります。

水無月あん

文字の大きさ
6 / 32

断りにくい

しおりを挟む
3日後。

お父様に応接室に呼ばれた。

部屋に入ると、……えっ、なんで!?

びっくりして立ち止まってしまった私。

だって、先日の赤い髪の毛の少年ルドが、ちょこんと座っていたから。

そして、隣には、赤い髪の毛に少し白髪が混じった、中年の男性が座っている。
どこか顔立ちがルドに似ているけど、誰……。

この状況に疑問がうずまく。
一体なにごと……?

ギギギッと、お父様を見た。

「ほら、マチルダ。こちらへ来て座りなさい」

お父様に促され、お父様の隣の席に座った。

「お世話になっているシュバイツ商会の社長さんと、息子さんのルド君だ」

「はじめまして、私はビル・シュバイツと申します。このたびは、うちの息子を助けてくださって、本当にありがとうございました」
と、ルドのお父様が頭を下げて、丁寧なご挨拶をしてくれた。

え、わざわざ、お礼を言うために来られたの?

あれは、助けたというより、ただ、背の高い少年と勝負をしただけ。
しかも、その後のことはアール兄様に丸投げしてしまったし……。

ご丁寧にお礼を言われると、かえって恐縮してしまう。

「マチルダ・ターナーと申します。あの、助けたというほどのことはしていませんから、お気遣いなく」

とまどいながら返答した。

ちなみに、シュバイツ商会は手広く商売をしている町一番の大店。
私も練習用の剣を、そこで買っている。

なんて、考えていたら、お父様が唐突に言った。

「ルド君がマチルダの従者になりたいそうだ」

「……はあ? 従者? 私はいりませんが……?」

思わず、ルドを見ると、少したれた大きな目が、またもや、うるうるしている。

ううっ、すごい悪いことをした気になるんだけれど……。

とはいえ、従者って何? というほど、無縁な存在。
高位貴族の令嬢でもないし、どっちかというと、私が従者になるほうが想像がつく。

とまどう私に、お父様も困ったように言った。

「私もそう言ったんだけどなあ。あの、シュバイツさん。見た目通り、うちの娘は普通の貴族令嬢とは違ってましてね。従者になってもらっても、ルド君にとって、有益な経験になりそうにもない。もし、従者として学びたいのなら、他の貴族を紹介しますが……」

すると、ルドが、かぼそい声で言った。

「あの、ぼくは、他の方の従者になりたいわけではないんです……。助けていただいたマチルダ様のそばでお役にたちたいから。でも、護衛は無理だし……。ぼくにできることを考えたら、従者かメイドしかないと思いました。だから、どうぞ、従者としておいてください。お願いします……」

泣きそうな顔で、私に訴えてくるルド。

従者か、メイド……。
メイドって、なんで……?

でも、まあ、その2択なら、従者を選んでくれて良かった。
いきなりメイドになりたいなんて言われたら、衝撃が大きすぎるもんね……。

それにしても、ルドの顔。
なんだか、すがってくる子犬のようで、断りにくい。

ルドのお父様も、私に頼み込むように言った。

「マチルダ様! 親の私が言うのもなんですが、ルドは勉学は優秀です。商会の会計なども、すごい速さでこなします。が、事情がありまして、人を怖がり、人を避けるのです。そんな、ルドが、助けてもらったマチルダ様に恩を返したいと言い出したから驚きました。しかも、従者になって、お役に立ちたいなんて言うとは……。ルドが、このように、自分から人に関わろうとするなんて、私は嬉しくて……。マチルダ様、お願いでございます! どうぞ、ルドを人に慣れさせるための修行の一貫として、おそばに置いてやってください! それと、これはささやかながら助けていただいたお礼です」

そう言って、私のほうに差し出されたのは、小ぶりの剣。

なんて素敵な剣! 私の手にぴったりきそう! にぎってみたい! 
思わず、手が伸びそうになったが、思いとどまる。

「こんな、すばらしい剣をいただけません……」
と、なんとか良心をかき集め、私は断腸の思いで断った。

「実は、この剣は、ルドが商会の手伝いをしながら貯めたお金で、ルドが購入したものです。剣がお好きなマチルダ様を思って、楽しそうに選んでおりました。それに助けていただいただけでなく、貴重なお守りをいただいたとも聞いております。ルドは大変喜んで、いつも身につけております。が、もったいないからと言って、私ども両親にも、見せてくれないのですがね。なので、マチルダ様。遠慮なく、どうぞ、もらってやってください」

ルドのお父様はそう言うと、私の方へ、更に剣を近づけてきた。

思わず、ルドを見る。
すると、今にも泣きだしそうな顔で、私をじっと見ている。
ここで、断ったら、泣きだすんじゃないだろうか……。

そんな顔をされたら、ありがたくいただくけど? 本当にいいのかな?

結局、剣はありがたくいただき、試しに3か月間、ルドは私の従者として働くことになった。
断じて、素敵な剣に目がくらんで、引き受けたわけじゃないからね。



しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い

腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。 お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。 当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。 彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。

『冷徹公爵は、私にだけ溺愛を隠せない』──噂の“冷徹”は、令嬢ひとりにだけ優しい

だって、これも愛なの。
恋愛
「冷徹公爵」と噂されるクロフォード公爵アレクシス。 社交界では無表情で近寄りがたいと恐れられている。 けれど令嬢クラリッサは知っていた。 落としたハンカチを拾ってくれることも、雨の日に傘を差し出してくれることも──彼が本当は優しい人だということを。 「冷徹なんかじゃありません!」と必死に弁明するクラリッサ。 だが周囲には惚気にしか聞こえず、本人は顔を真っ赤にするばかり。 やがてアレクシス自身も「……君だけなんだ」と胸の内を明かし、ふたりの想いは重なっていく。 両想いになってからも誤解と噂は尽きないけれど、彼は言う。 「冷徹と呼ばれても構わない。ただ、君にだけは優しいと思われたい」 ──冷徹に見えて溺愛する彼と、必死にかばう令嬢の、 明るくて愉快、でもちょっぴり切ない、ときめきロマンス。

偽物聖女、承りました

イセヤ レキ
恋愛
五十年前、この国に訪れた危機を救ったと言われる、憧れの聖女様。 聖女様については伝承が語り継がれているものの、誰もその正体を知らない。 私、リュミナ・セレスフォードはその聖女様との初対面時に、まさかの六十年前へ召喚されてしまう。 私を召喚した犯人は、当時の第一王子、ルーウェン。 私のほかにも、私の曽祖父であるエルディアや、内乱時代に生きた剣の達人であるアルフェインもその場に召喚されていた。 なのに一番肝心の聖女様が、召喚されていない! 聖女様は謎多き人物だけど、噂は色々出回っている。 聖女様は恐らく治癒能力持ち、そして平民。 さらに言えば、いずれ聖女様はアルフェインと結ばれるはずなのだ。 「仕方がない。聖女様が見つかるまで、私が代役を務めます」 こうして、私たちの聖女様探しの旅が今、始まった。 全五話、完結済。

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ
恋愛
 エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。  だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

推しの悪役令嬢を幸せにします!

みかん桜
恋愛
ある日前世を思い出したエレナは、自分が大好きだった漫画の世界に転生していることに気付いた。 推しキャラは悪役令嬢! 近くで拝みたい!せっかくなら仲良くなりたい! そう思ったエレナは行動を開始する。 それに悪役令嬢の婚約者はお兄様。 主人公より絶対推しと義姉妹になりたい! 自分の幸せより推しの幸せが大事。 そんなエレナだったはずが、気付けば兄に溺愛され、推しに溺愛され……知らない間にお兄様の親友と婚約していた。

捨てられた地味な王宮修復師(実は有能)、強面辺境伯の栄養管理で溺愛され、辺境を改革する ~王都の貴重な物が失われても知りませんよ?~

水上
恋愛
「カビ臭い地味女」と王太子に婚約破棄された王宮修復師のリディア。 彼女の芸術に関する知識と修復師としての技術は、誰からも必要性を理解されていなかった。 失意の中、嫁がされたのは皆から恐れられる強面辺境伯ジェラルドだった! しかし恐ろしい噂とは裏腹に、彼はリディアの不健康を見逃せない超・過保護で!? 絶品手料理と徹底的な体調管理で、リディアは心身ともに美しく再生していく。 一方、彼女を追放した王都では、貴重な物が失われたり、贋作騒動が起きたりとパニックになり始めて……。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

処理中です...