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断りにくい

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3日後。

お父様に応接室に呼ばれた。

部屋に入ると、…えっ、なんで!?

びっくりして立ち止まってしまった私。

だって、先日の赤い髪の毛の少年ルドが、ちょこんと座っているから。
そして、隣には、赤い髪の毛に少し白髪が混じった、中年の男性が座っている。
どこか顔立ちがルドに似ているけど…。

この状況に疑問がうずまく。一体なにごと…?
ギギギッと、お父様を見た。

「ほら、マチルダ。こちらへ来て座りなさい」
お父様に促され、お父様の隣の席に座った。

「お世話になっているシュバイツ商会の社長さんと、息子さんのルド君だ」

「はじめまして、私はビル・シュバイツと申します。このたびは、うちの息子を助けてくださって、本当にありがとうございました」
と、ルドのお父様が頭を下げて、丁寧なご挨拶をしてくれた。

え、わざわざ、お礼を言うためだけに来られたの?!

あれは、助けたというより、ただ、背の高い少年と勝負をしただけ。しかも、その後のことはアール兄様に丸投げしてしまったし…。
ご丁寧にお礼を言われると、かえって恐縮してしまう。

「マチルダ・ターナーと申します。あの…助けたというほどのことはしていませんから、本当にお気遣いなく…」
とまどいながら返答した。

ちなみに、シュバイツ商会は手広く商売をしている町一番の大店。
私も練習用の剣を、そこで買っている。

なんて、考えていたら、お父様が唐突に言った。
「ルド君がマチルダの従者になりたいそうだ」

「はあ? …従者?! いえ、私はいりませんが…?」
と、反射的に心の声が口からとびでた。

思わず、ルドを見ると、少したれた大きな目が、またもや、うるうるしている。

ううっ…、すごい悪いことをした気になるんだけれど…。

とはいえ、従者って何?というほど、無縁な存在。
高位貴族の令嬢でもないし、どっちかというと、私が従者になるほうが想像がつく。

とまどう私に、お父様も困ったように言った。
「私もそう言ったんだけどなあ…。あの、シュバイツさん。見た目通り、うちの娘は普通の貴族令嬢とは違ってましてね。従者になってもらっても、ルド君にとって、有益な経験になりそうにもない。もし、従者として学びたいのなら、他の貴族を紹介しますが…」

すると、ルドが、かぼそい声で言った。
「あの…、ぼくは、他の方の従者になりたいわけではないんです…。助けていただいたマチルダ様のそばでお役にたちたいから。でも、護衛は無理だし…。ぼくにできることを考えたら、従者かメイドしかないと思いました。だから、どうぞ、従者としておいてください…。お願いします…」
泣きそうな顔で、私に訴えてくるルド。

従者か、メイド…。メイドって、なんで?!

でも、まあ、その2択なら、従者を選んでくれて良かった…。
いきなりメイドになりたいなんて言われたら、衝撃が大きすぎるもんね…。

それにしても、ルドの顔…。なんだか、すがってくる子犬のようで、断りにくい…。

ルドのお父様も、私に頼み込むように言った。

「マチルダ様! 親の私が言うのもなんですが、ルドは勉学は優秀です。商会の会計なども、すごい速さでこなします。が、事情がありまして、人を怖がり、人を避けるのです。そんな、ルドが、助けてもらったマチルダ様に恩を返したいと言い出したから驚きました…。しかも、従者になって、お役に立ちたいなんて言うとは…。ルドが、このように、自分から人に関わろうとするなんて…私は嬉しくて…。マチルダ様、お願いでございます! どうぞ、ルドを人に慣れさせるための修行の一貫として、おそばに置いてやってください! それと、これはささやかながら助けていただいたお礼です」
そう言って、私のほうに差し出されたのは、小ぶりの剣。

なんて素敵な剣! 私の手にぴったりきそう! にぎってみたい! 
思わず、手が伸びそうになったが、思いとどまる。

「こんな、すばらしい剣をいただけません…」
と、なんとか良心をかき集め、私は断腸の思いで断った。

「実は、この剣は、ルドが商会の手伝いをしながら貯めたお金で、ルドが購入したものです。剣がお好きなマチルダ様を思って、楽しそうに選んでおりました。それに助けていただいただけでなく、貴重なお守りをいただいたとも聞いております。ルドは大変喜んで、いつも身につけております。が、もったいないからって言って、私ども両親にも、見せてくれないのですがね…。なので、マチルダ様。遠慮なく、どうぞ、もらってやってください」
ルドのお父様はそう言うと、私の方へ、更に剣を近づけてきた。

思わず、ルドを見る。すると、今にも泣きだしそうな顔で、私をじっと見ている…。
ここで、断ったら、泣きだすんじゃないだろうか…。

そんな顔をされたら、ありがたくいただくけど?! 本当にいいのかな?

結局、剣はありがたくいただき、試しに3か月間、ルドは私の従者として働くことになった。
断じて、素敵な剣に目がくらんで、引き受けたわけじゃないからね…。



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