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友達
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そして、次の質問は、やはり、先日の背の高い少年のこと。
アール兄様が、捕獲した少年から聞き取った内容を聞いたけれど、2人の間の真実はみえてこないんだよね…。
「金持ちのルドから、金をまきあげようとしただけだ。俺が悪かった」
背の高い少年は、それだけを繰り返し、深くは語らなかったそう。
でも、アール兄様は、「あいつは悪い奴じゃない」、そう言いきった。
「その根拠は?」
私が聞くと、アール兄様は、はっきりと答えた。
「ない! 俺の勘だ!」
その答えに、私は納得した。
というのも、私は、アール兄様の勘をすごく信用している。
アール兄様の語る知識とかであれば、間違えて覚えていたりするから、ちっとも信用ならないけれど、野生の勘に、はずれはないんだよね……。
だから、あの背の高い少年とルドの関係について知りたいと思った。
「ルド、この前の背の高い少年とは、どういう関係なの?」
「幼馴染です。ロイスっていいます。ぼくの……たった一人の友達……です」
「友達? あの少年が?」
あの鋭い目と、荒んだ雰囲気を思い出す。
目の前の小動物ルドとは、到底友達だとは思えない。
だって、2人を思い浮かべると、ライオンと子ウサギ、狼と小鹿、野良猫と子ネズミ、カマキリとコオロギの赤ちゃん……。
ルドが食べられる未来しか浮かばない。
「小さい頃、ロイスは近所に住んでいました。その頃から、ぼくは、人の色を見て怖がっていたんです。だから、近所の子どもたちに気味悪がられていて……。でも、ロイスだけは、ぼくと遊んでくれました。遠巻きにして、からかう子たちから、いつも、かばってくれました。明るい黄色をまとう、優しい子だったんです」
「え? そうなの? 今の感じとは、大分ちがうね? 何かきっかけがあったの?」
私の言葉に、ルドが悲し気に目をふせた。
「はい。ご両親が不慮の事故にあってしまって、一人息子のロイスだけが残されました……。それで、ロイスは親戚に預けられることになり、遠くの町へ引っ越していきました。ぼくは、手紙を送りました。でも、返事はなくて……。その後も何度か送ってみました。でも、返事はなかったんです。ぼくは思いました。きっと新しい生活で、忙しいんだろうって。ロイスは明るくて皆に好かれる子だから、きっと、沢山、友達もできたんだろうって。返事をくれないってことは、もう、手紙を送ってはいけない。新しい生活の邪魔になったらいけない。そう思ったんです。で、結局、それきりになりました」
「そう……」
「でも、最近、この町にロイスが帰って来たんです。ロイスの亡くなったご両親と友人だった人の家で、住み込みで働きだしたって聞いたんです。ぼくは、いてもたってもいられなくて、思い切って訪ねて行きました。そしたら、ロイスの雰囲気が、すっかり変わってしまっていて……。ぼくを見るなり、『おまえと俺とは、もう関係ない。帰れ。二度と来るな』、そう言って追い返されました。ぼくは、その言葉に傷つくよりも、ロイスのまとう色に驚いたんです」
「どんな色だったの?」
「暗い灰色でした。しかも、何か、にごったような色が混じっていて……。だから、ぼくは、気になって。ロイスには来るなといわれたけれど、なんとか話したいと思いました。だから、また、訪ねて行ったんです。ちょうど、ロイスが外へ出ていくところでした。ぼくは、ロイスのあとをつけることにしました。そう、マチルダ様に助けていただいた、あの日のことです」
「じゃあ、あの時、ルドのほうが彼を追いかけて、ここらへんまで来たの?」
ルドはうなずいた。
「ロイスのあとをつけながら、話しかける機会をうかがっていました。でも、なかなか、話しかけられないまま、マチルダ様のお屋敷のところまできてしまっていたんです。でも、ロイスは、とっくに、ぼくがあとをつけていることに気がついていました」
思わず、私はうなずいた。
だって、ルドが尾行しても、すぐにばれそう……。
あの少年、ルドをまこうと思ったらまけただろうけれど、わざと、そのままにしていたんだと思う。
「ロイスは、ぼくに近寄って来て、言いました。『なに、俺のあとをつけてるんだ?』って。その時の、ロイスのまとう灰色は、更に暗くよどんで、とげとげした痛みのようなものが伝わってきました。ぼくは、『ロイスと話がしたいから』そう言いました。でも、ロイスは、鼻で笑って言ったんです。『おまえと話すことなんかねえよ。それより、金くれよ。シュバイツ商会のお坊ちゃん』って……」
「もしかして、それ、私が見たあの時?」
ルドはうなずいた。
「そうです。ぼくが、泣いていたのは、ロイスがあの言葉を、ぼくに言いながら、心で泣いていたのがわかったから……。ロイスのまとう灰色が、しずくのような形になって、ぽたぽたぽたぽたと地面に落ちていました。涙を流しているようだったんです……。なのに、ぼくは、どうしていいかわからなくて……。こんなに変わってしまうほど、会えない間に、ロイスに大変な苦労があったんだろうと想像がつくのに……。今のロイスに、なんて言っていいのかわからなくて……。あんなに小さい頃、かばってもらったのに……。ロイスの役に立てない自分が不甲斐なくて……。自分に絶望して泣いていたんです」
「そうだったの……」
「でも、その時、マチルダ様が現れた。ロイスの悲しみと怒りが混ざった灰色と、ぼく自身からでる絶望の闇色に包まれていたあの場所に、澄みきったマチルダ様が飛びこんできてくれました。そして、ぼくを背にして、すっと立ったマチルダ様の姿。ぼくには光輝いて見えました! だから、闇に落ちないように、絶対に、つかんでおかなきゃって思ったんです……」
あ……、そういえば、あの時、ルドは私のトラウザーズのすそを、がっしりとにぎりしめていたっけ。
騎士を目指す身としては、私の衣服のすそであろうが、少しでも救いになったのなら嬉しいことだよね。
ルドとロイスの関係に、私がしてあげられることはないかもしれないけれど、これだけは言える。
「ルド、怖くなったら、いつでも私の服をつかんでいいからね!」
力強くそう言うと、ルドが安心したように、ふわっと微笑んだ。
アール兄様が、捕獲した少年から聞き取った内容を聞いたけれど、2人の間の真実はみえてこないんだよね…。
「金持ちのルドから、金をまきあげようとしただけだ。俺が悪かった」
背の高い少年は、それだけを繰り返し、深くは語らなかったそう。
でも、アール兄様は、「あいつは悪い奴じゃない」、そう言いきった。
「その根拠は?」
私が聞くと、アール兄様は、はっきりと答えた。
「ない! 俺の勘だ!」
その答えに、私は納得した。
というのも、私は、アール兄様の勘をすごく信用している。
アール兄様の語る知識とかであれば、間違えて覚えていたりするから、ちっとも信用ならないけれど、野生の勘に、はずれはないんだよね……。
だから、あの背の高い少年とルドの関係について知りたいと思った。
「ルド、この前の背の高い少年とは、どういう関係なの?」
「幼馴染です。ロイスっていいます。ぼくの……たった一人の友達……です」
「友達? あの少年が?」
あの鋭い目と、荒んだ雰囲気を思い出す。
目の前の小動物ルドとは、到底友達だとは思えない。
だって、2人を思い浮かべると、ライオンと子ウサギ、狼と小鹿、野良猫と子ネズミ、カマキリとコオロギの赤ちゃん……。
ルドが食べられる未来しか浮かばない。
「小さい頃、ロイスは近所に住んでいました。その頃から、ぼくは、人の色を見て怖がっていたんです。だから、近所の子どもたちに気味悪がられていて……。でも、ロイスだけは、ぼくと遊んでくれました。遠巻きにして、からかう子たちから、いつも、かばってくれました。明るい黄色をまとう、優しい子だったんです」
「え? そうなの? 今の感じとは、大分ちがうね? 何かきっかけがあったの?」
私の言葉に、ルドが悲し気に目をふせた。
「はい。ご両親が不慮の事故にあってしまって、一人息子のロイスだけが残されました……。それで、ロイスは親戚に預けられることになり、遠くの町へ引っ越していきました。ぼくは、手紙を送りました。でも、返事はなくて……。その後も何度か送ってみました。でも、返事はなかったんです。ぼくは思いました。きっと新しい生活で、忙しいんだろうって。ロイスは明るくて皆に好かれる子だから、きっと、沢山、友達もできたんだろうって。返事をくれないってことは、もう、手紙を送ってはいけない。新しい生活の邪魔になったらいけない。そう思ったんです。で、結局、それきりになりました」
「そう……」
「でも、最近、この町にロイスが帰って来たんです。ロイスの亡くなったご両親と友人だった人の家で、住み込みで働きだしたって聞いたんです。ぼくは、いてもたってもいられなくて、思い切って訪ねて行きました。そしたら、ロイスの雰囲気が、すっかり変わってしまっていて……。ぼくを見るなり、『おまえと俺とは、もう関係ない。帰れ。二度と来るな』、そう言って追い返されました。ぼくは、その言葉に傷つくよりも、ロイスのまとう色に驚いたんです」
「どんな色だったの?」
「暗い灰色でした。しかも、何か、にごったような色が混じっていて……。だから、ぼくは、気になって。ロイスには来るなといわれたけれど、なんとか話したいと思いました。だから、また、訪ねて行ったんです。ちょうど、ロイスが外へ出ていくところでした。ぼくは、ロイスのあとをつけることにしました。そう、マチルダ様に助けていただいた、あの日のことです」
「じゃあ、あの時、ルドのほうが彼を追いかけて、ここらへんまで来たの?」
ルドはうなずいた。
「ロイスのあとをつけながら、話しかける機会をうかがっていました。でも、なかなか、話しかけられないまま、マチルダ様のお屋敷のところまできてしまっていたんです。でも、ロイスは、とっくに、ぼくがあとをつけていることに気がついていました」
思わず、私はうなずいた。
だって、ルドが尾行しても、すぐにばれそう……。
あの少年、ルドをまこうと思ったらまけただろうけれど、わざと、そのままにしていたんだと思う。
「ロイスは、ぼくに近寄って来て、言いました。『なに、俺のあとをつけてるんだ?』って。その時の、ロイスのまとう灰色は、更に暗くよどんで、とげとげした痛みのようなものが伝わってきました。ぼくは、『ロイスと話がしたいから』そう言いました。でも、ロイスは、鼻で笑って言ったんです。『おまえと話すことなんかねえよ。それより、金くれよ。シュバイツ商会のお坊ちゃん』って……」
「もしかして、それ、私が見たあの時?」
ルドはうなずいた。
「そうです。ぼくが、泣いていたのは、ロイスがあの言葉を、ぼくに言いながら、心で泣いていたのがわかったから……。ロイスのまとう灰色が、しずくのような形になって、ぽたぽたぽたぽたと地面に落ちていました。涙を流しているようだったんです……。なのに、ぼくは、どうしていいかわからなくて……。こんなに変わってしまうほど、会えない間に、ロイスに大変な苦労があったんだろうと想像がつくのに……。今のロイスに、なんて言っていいのかわからなくて……。あんなに小さい頃、かばってもらったのに……。ロイスの役に立てない自分が不甲斐なくて……。自分に絶望して泣いていたんです」
「そうだったの……」
「でも、その時、マチルダ様が現れた。ロイスの悲しみと怒りが混ざった灰色と、ぼく自身からでる絶望の闇色に包まれていたあの場所に、澄みきったマチルダ様が飛びこんできてくれました。そして、ぼくを背にして、すっと立ったマチルダ様の姿。ぼくには光輝いて見えました! だから、闇に落ちないように、絶対に、つかんでおかなきゃって思ったんです……」
あ……、そういえば、あの時、ルドは私のトラウザーズのすそを、がっしりとにぎりしめていたっけ。
騎士を目指す身としては、私の衣服のすそであろうが、少しでも救いになったのなら嬉しいことだよね。
ルドとロイスの関係に、私がしてあげられることはないかもしれないけれど、これだけは言える。
「ルド、怖くなったら、いつでも私の服をつかんでいいからね!」
力強くそう言うと、ルドが安心したように、ふわっと微笑んだ。
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