(完結)いつのまにか懐かれました。懐かれたからには私が守ります。

水無月あん

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1か月後

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そして、ルドが従者になって1か月がたった。
今や、ルドのいなかった生活を忘れるくらい、ルドのお世話に慣れきってしまっている私。

今日は、仕事がお休みのアール兄様。
護衛のみんなと一緒に訓練をするというので、混ぜてもらった。

訓練中、そばで控えているルド。

ふと、ルドを見ると、いつも目があう。
もしかして、ずっと私を見ているのかな?
何がおもしろいんだろう? よくわからないけれど、私を見る大きな目がきらきらしている。

そして、訓練を終えたとたん、私のところに、ルドがすっとんできた。

「お疲れ様です」

そう言って、いつものように、ふっかふかのタオルを差し出してくれる。
汗のすいとりもよく、肌触りがすごい。
シュバイツ商会おすすめの一品だそう。

「それ、いいなあ。ルド、俺にも!」

アール兄様や護衛のみんなが、わいわいとルドに声をかける。

すると、素早く、私の背後にまわったルド。

「こら、ルドに一斉に近づくのはやめてって言ってるでしょ! はい、散って散って! ルドを怖がらせないで」
と、みんなに注意する。

ルドは、私を盾にするようにして言った。

「アール様や他の皆様には、そちらのボックスに用意してあります。よかったら、どうぞ……」

そう言って、私の背後から手だけだして、ベンチのほうを指し示す。

ルドが手で示した先には、タオルと飲み物が入ったボックスが用意されていた。
みんながわらわらとボックスにむらがっていく。

私は振り向いて、ルドの顔をのぞきこんだ。

「大丈夫?」

ルドはこくこくとうなずく。顔色は悪くない。

「すみません。ご心配かけて。皆さんにはだいぶ慣れてきました。怖くなるような色の人は誰もいませんし」
と、申し訳なさそうに言うルド。

「なら、良かった。みんないい人たちだから、ゆっくり慣れていけばいいからね」
と、声をかけた。

最初、ルドは訓練の場で、みんなに一斉に話しかけられて、気持ちが悪くなったことがあった。

ルドが言うには、ここのみんなは明るく力強い色をまとっている。
怖くはないけれど、みんながいっぺんに集まってきたから、色があふれて、目がちかちかしたそう。
それで、気持ちが悪くなったみたい。

屋敷で働く人たちには、ルド本人の了承を得て、ルドの事情を話している。
だから、みんな、一斉に話しかけたりしないように、気づかってくれている。

なのに、アール兄様も護衛のみんなも、ルドを見ると、どうしてもかまいたくなるらしい。

「ルドは、懐かない小動物みたいなんだよな。どうにかして手懐けたくなるというか……」

そう語ったのは、アール兄様。

「なんか、小さい生きものみたいで、かわいいんです。俺、小動物が好きだし、かまいたくなるんですよね」
と、護衛のジル。

2人の意見にうなずくみんな。

その言葉通り、逃げる小動物に、近寄りたがる大男たち。それを追い払う私。
という図が、ここ最近、訓練の場で繰り広げられる光景になってきた。

アール兄様が私の背後にいるルドに向かって、タオルを手に声をかけた。

「いつもタオルや飲み物を用意してくれて、ありがとうな、ルド。すごく助かる。だが、なんというか、マチルダのタオルとの差がすごいな。そっちは、すごいふかふかで、こっちは薄っぺらいぞ……」

確かにね……。
見ただけで差があることがわかるよね。

ルドは、かぼそい声で言った。

「すみません。でも、ぼくはマチルダ様の従者ですから。皆様はついでです……」

ブハッとふきだすアール兄様。

「ついでって……。そこだけ、はっきりしすぎだろ?」

皆も一斉に笑い出す。
その薄っぺらいタオルで汗をふきながら、アール兄様が私を不思議そうに見た。

「そういえば、マチルダ。最近、赤色が好きになったのか?」

「え? 赤色? 急になんで、そんなこと聞くの?」

意味のわからない質問に、私は、とまどいながら聞き返した。

「いや、こうして、マチルダを全体的に見ると、急に赤色の比率が目立ってきたというか……。ほら、リボンも赤だし、そこに置いてる赤いかばんも、マチルダのだろ? それに、シャツのボタンも赤になってるし。ほら、今、ルドから渡されたタオルも赤だ! 俺たちのは白のタオルなのに」

あ、ほんとだ……。
言われてみれば、私自身も赤色を目にすることが多いような……。

「でも、これ、全部ルドが用意してくれたものばかりだよ。そっか、ルドは赤色が好きなんだね。ルドの髪の色と一緒だしね。うん、きれいな色だもんね。好きなのもわかるよ、ルド」

そうルドに向かって言うと、嬉しそうに微笑み返された。

「へえ、ルドが用意したものか。ふーん……」

なんだか、妙な顔をするアール兄様。

と、その時、お父様の姿が見えた。
あれ? 今日は、訓練の場に来ないと聞いていたけれど、どうしたのかな?

「みんな、注目してくれ!」

お父様の声が響いた。

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