(完結)いつのまにか懐かれました。懐かれたからには私が守ります。

水無月あん

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そこにいます

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「じゃあ、今度は、バレリー伯爵令嬢から、飲み物をかけたと名指しされたマチルダ・ターナー騎士。君の話を聞こう。新人騎士として、どんな状況だったか、君の視点で説明してくれる?」

隙のないハシバミ色の瞳が、私を射抜くように見る。
これって、騎士として試されてる?

ぴりっとした緊張が走る。

私は、できるだけ正確に思い出しながら、説明をはじめた。
会話の内容も、私たち全員の立ち位置も、テーブルのまわりの状況もふくめ、丁寧に説明した。

その間も、「ちがうわ! 嘘を言わないで」などと口をはさんでいたロザンヌ。

「ちょっと黙って。でないと、強制的に黙らせるよ?」
と、冷え切った声でロザンヌに言った王太子様。

永遠に黙らせそうな怖さだよね。
さすがのロザンヌも、おびえたように黙った。

そうして、私が説明を終えた時、王太子様はうなずいた。

「状況はよくわかった。で、君がしていないと言える状況があれば聞かせて」
と、更に質問をしてきた。

「飲み物をかけられたダリアは、私がロザンヌと話しをしていた時からその位置にいます。そして、ダリアの足元に飲み物のしみがあります。でも、ロザンヌは、私に飲み物をかけられそうになって、ダリアにかばわれた、と言いました。ロザンヌの前にダリアが立ってかばったのなら、飲み物のシミの位置がそこじゃなく、ロザンヌの立ち位置の前方になるはずです」

「はい、それに対して反論は? バレリー伯爵令嬢、しゃべっていいよ」
と、王太子様。

ロザンヌが、せきをきったように話し出す。

「立つ場所がなんだって言うのよ? あ、そうだわ! 飲み物をかけられた時、私は、今、ダリアが立っている位置の後ろにいたんです!」

「と、言ってるよ? 目撃者がいないと、立ち位置だけでは決めてにはならないよねえ」

王太子様が、またも試すように、私をじっとみる。

「なら、そのグラスの指紋をとります。私は触っていないから、証拠になります」

その瞬間、ロザンヌの顔が悔しそうにゆがんだ。
王太子様が手をたたいた。

「君、ただの脳筋かと思ったら、記憶力も判断力もいいね」

ただの脳筋って、それ、ひどいですよね……? 

「でも、残念ながら、ここには指紋をとるものはない。まあ、辺境騎士団ならあるけれど、パーティーでそこまでするのもね?  目立つし」
と、王太子様が言った。

いや、王太子様がここにいる時点で、すでに目立ちまくりですが……。
テーブルのまわりには、王太子様目当ての色とりどりのドレスを着たご令嬢たちが集まってきている。

指紋をとらないとわかったとたん、息をふきかえしたロザンヌ。
渾身の演技にでた。

「そんなの全部嘘です! マチルダさんは嘘をついています! 謝ってくれたら許すのに、嘘をつくなんて、ひどいわ!」
と、ロザンヌが泣きながら王太子様に訴えた。

「嘘をついているのはそちらです! 全てマチルダ様が説明したとおりです! そばにいたぼくが証言します!」

王太子様を恐れているのに、ルドが私の背後からでて叫んでくれた。

「マチルダ様はそんな嘘をつきません。それに、飲み物をかけたりなんか、しょうもないことをする人じゃない!」
と、ロイスも強い口調で言う。

「王太子様! この人たちも嘘をついています! だって、ふたりは、マチルダさんの従者や護衛で平民ですもの……」

ロザンヌが王太子様に言い募る。

は、平民? それって、今の流れで関係ある?

王太子様も首をかしげた。

「従者や護衛が、主をかばって嘘をつく可能性はある。でも、平民だからって意味がわからないよね? まあ、他人を陥れるために嘘をつく貴族は腐るほどいるけど、ゴミみたいだよね……」

そう言って、ロザンヌにむかって、にっこり微笑んだ王太子様。

まあ、確かにそこにいますよね。
でも、ゴミみたいって表現、怖いんですが……。


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