上 下
31 / 32

何が欲しい?

しおりを挟む
笑うのをやめた王太子様。真顔で側近の方に言った。
「このモーラの甥、王宮へ欲しいんだけど?」

「確かに、いたら便利そうですね…。モーラさんの親戚というのも信用できるし。とりあえず、その改良した魔石の映像を確認したいな…」
そう言いながら側近の方の目が、ルドを捕らえる。

やたらと、ぎらついていて、怖い…。
ルドが不安そうに、私の方へと近寄った。

王太子様が、ルドに聞いてきた。
「その魔石、どうやったら見られる?」

「記録魔石用の幕に映して見るのが一番いいです。…でも、白くて平らなものになら、映せると思います。ただ、材質によって魔石との相性もあるので、画質は変わると思いますが…」

「へえ、それはすごいね。なら、ここの壁はどう?」
そう言って、広間のまっしろな壁を指差す。

「大丈夫です…」

「じゃあ、今から、そこの壁に映してくれる?」

えっ、壁に?! しかも、今から?! それはいくらなんでも、まずいのでは…?!

さっき、王太子様は、指紋をとるのは目立つって言ってたけれど、こんなところに映像を映せば、指紋どころじゃないよね…?!

「お待ちください、王太子様! どうせ、嘘なんだから、見るだけ無駄です!」
ロザンヌが、焦ったように、叫んだ。

ルドの能力を信じていないみたいだけれど、万が一を考えたのかも…。
まあ、騎士団長様のお城で、辺境騎士団を馬鹿にした発言が映し出されるのは、考えるだけでも恐ろしいもんね…。

「無駄かどうか、やってみないとわからないよね? そこで、黙って見てて。あ、そうだ。君とはもっと話したいから、最後まで逃げないでね?」
そう言って、微笑む王太子様。

またもや、鳥肌がたった。
ロザンヌ、自業自得とはいえ、気の毒に…。


そして、広間の壁に魔石が記録した映像が映し出された。

結果として、大混乱になった。

ルドの魔石の性能はすばらしくて、壁に映し出しても、映像も音声もはっきりしていた。
壁の前は、あっという間に、人だかりができた。

ルドのポケットに、ペンみたいに、さしていた状態から記録していたのに、私を中心として広範囲が映っている。
本当にすごいものを作るね、ルドは!

そして、問題の場面。立ち去ろうとした私の背後で、ロザンヌがダリアに飲み物をかけ、自ら悲鳴をあげたところも、ばっちりと映っていた。

これ以上ないほどの証拠だよね…。

でも、問題だったのは、そこよりも、辺境騎士団を馬鹿にしたロザンヌの発言の数々。
そう、ここには、辺境騎士団の家族の方も大勢いる。

ロザンヌの発言に怒号がとんでいた。
王都に嫁ぐのなら、早く嫁いだほうがいいと思う…。

ロザンヌは、私を悔し涙にぬれた目でにらみつけている。

そんなロザンヌに、王太子様は上機嫌で言った。
「きっちり、白黒ついたね。…で、君に、ひとつ言っておきたいことがある。君が馬鹿にしていた平民にもうすぐなれるから、がんばってね」

ロザンヌが目をむいた。
「は…?! なんで、そんな…?! ちょっと嘘をついただけじゃないですか?!」

すると、王太子様はフフっと笑った。

「うーん、それとは関係なくてね、君の父、バレリー伯爵のせいだよ。ぼくが、注目してるって言ったでしょ。急に羽振りがよくなったのは、隣国の貴族と組んで、色々、後ろ暗い商売をして儲けていたからだ」

「…嘘!」

「本当だよ。今回は、辺境まで、その証拠を持って母上に説明にきたわけ。そうしたら、その令嬢が騒ぎをおこしてるから、びっくりしたよ。さすが親子だよね」

ぐったりとしたロザンヌに、それはそれは、にこやかに微笑みかける王太子様。
なんだか、悪魔のよう…。

結局、ロザンヌはバレリー伯爵とともに、別室へと連れ去られていった。


王太子様目当てで集まっていたご令嬢たちが、おびえたように王太子様を見ている。

「下心のある令嬢たちが寄ってこなくなったね? フフ」
と、満足そうな王太子様。

「なるほど、首をつっこんだのは、これが狙いだったのか…。令嬢たちに群がられるのが、それほど嫌か?」
側近の方が、あきれたように言う。

「違うよ。ルイスのために掃除しただけ。ぼくに下心満載で近寄って来る令嬢は、ルイスには、もっと近寄る可能性があるからね。牽制みたいな? 母上のパーティーに来るのは面倒だったけど、たまには、こっちにも顔をだしたほうがいいね。脳筋母上は、目に見える悪事にしか気づけないし…。色々、早めにきれいにしておかないと、後々、ルイスに迷惑がかかったら大変だからね」

「はあー、なんだその理由? あいかわらず、気持ちわるいな…」
側近の方が、顔をしかめた。

が、ちょっと待って! 
今、騎士団長様のこと脳筋って言った?! 王太子様といえど、ムッとしてしまう。

「そうだ、マチルダ・ターナー騎士。王宮の騎士団にこない? 君、絶対、ルイスになびかなそうだから、ルイスの護衛としても使えるし」

「いえ、お断りいたします! 私は騎士団長様に憧れて、騎士になりましたから!」
怒っている私は、大きい声で即答した。

「生きる天使ルイスのそばじゃなくて、脳筋母上のそばを選ぶなんて、趣味が悪いね? まあ、気が変わったら言って…。それと、ルド・シュバイツ君。君、王宮の文官にならない?」

「いえ、ぼくもお断りいたします…。ぼくは、マチルダ様の最高の従者を目指していますから」

「でも、マチルダ・ターナー騎士は、騎士団に入団するよね? もう従者はいらないんじゃない? 君、無職になるよ?」

「いえ、ぼくは、ずっとマチルダ様の従者です。マチルダ様が騎士団で働いている時間は、ぼくは、シュバイツ商会で働き、マチルダ様がお休みの時に従者としてお支えします」

「ふーん…。でもね、ルド君…」
そこまで言って、王太子様がルドの腕をつかみ、自分のほうへとひきよせた。

ルドが、恐怖で体を硬直させている。
あわてて、ルドをかばうように、王太子様との間に体を入れた。

王太子様は、間に入った私を無視して、ルドにむけて意味ありげに言った。

「ルド君。欲しいものを、そばで見つめるだけでいいの? 王宮の文官としてがんばれば、欲しいものが手に入りやすいんじゃない? 貴族との身分差をごちゃごちゃ言う輩もいるしね。文官として実績をあげることは、君の持つ重要なカードの一つになる。ぼくなら、安心して手にいれられるように、まずは、まわりを固める。もちろん、使えるものはなんでも使ってね」

ルドが、はっとしたように息をのんだ。

王太子様は、フフっと笑った。
「気が変わったら、モーラに連絡して。待ってるからね!」

ルドは、王太子様の言葉に考え込むように、だまりこんだ。
ルドは何が欲しいだろう…。




※ 次回で完結です。今日中に更新します! よろしくお願いいたします!
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ショート朗読シリーズ

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:426pt お気に入り:0

今宵、鼠の姫は皇子に鳴かされる

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,214pt お気に入り:10

月が導く異世界道中

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:59,270pt お気に入り:53,904

ラブ×リープ×ループ!

青春 / 完結 24h.ポイント:198pt お気に入り:15

人身御供で連れ出された俺が王子の恩人(予定)だって!?

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:146

転生王子はダラけたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,671pt お気に入り:29,348

幸介による短編恋愛小説集

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:468pt お気に入り:2

処理中です...