(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。

水無月あん

文字の大きさ
12 / 135
番外編

ムルダー王太子 3

しおりを挟む
9年後。ぼくは、17歳になった。

1年後には、クリスティーヌと結婚する。

小さいころは、ぼくもクリスティーヌも同じようなものだった。
なのに、クリスティーヌは教師たちも舌をまくほど優秀で、どんどん、その能力を伸ばし、反対に、ぼくは伸び悩んだ。

今や、クリスティーヌは目をみはるほど美しく成長し、だれもが賞賛する完璧な令嬢となった。

「クリスティーヌ様が、王太子妃になられるのなら安心です」
と、教師たちは口々に言った。

「クリスティーヌを見習って、ムルダーも、もっとがんばりなさい」
と、王妃である母上は何度も言った。

「クリスティーヌ様のご意見をお聞きしたいのですが…」
と、クリステーヌにばかり意見を聞きたがる文官たち。

みんな、クリスティーヌ、クリスティーヌ、クリスティーヌ…。
ぼくのことなど、クリスティーヌのおまけくらいに思っているんだろう。

そんなクリスティーヌが自慢だったのに、クリスティーヌばかりほめられると、心に針がささったような痛みが走る。

そんな時、ぼくには手におえない問題が起こった。

「ねえ、クリスティーヌ。ぼくはどうしたらいい?」
思わず、クリスティーヌに泣きごとをこぼした。

すると、クリスティーヌは、澄んだ紫色の瞳を心配そうに揺らした。

「私もお手伝いしますから」
そう言って、クリスティーヌは、ぼくのために奔走した。

普段は、隙のない、完璧なクリスティーヌが、なりふり構わず走り回り、事をおさめてくれた。

ぼくは、その姿にゾクゾクした。
みんなが憧れるクリスティーヌが、ぼくだけのために動いてくれることに…。

それから、ぼくは、クリスティーヌを都合よく使うことにした。

王太子のぼくに与えられる面倒な仕事や、難しい課題を前に、ぼくは、すがるような顔をして、クリスティーヌに問う。

「ねえ、クリスティーヌ。ぼくはどうしたらいい?」

クリスティーヌは、そのたびに、必死でがんばった。
どんなに難題でも、どんなに面倒でも、どんなに疲れていても、ぼくのためだけに動いてくれた。

その姿を見ていると、ぼくの心は、どんどん満たされていく。
みんなが褒めたたえるクリスティーヌに愛されているのは、ぼくだけだってね。

王宮で賞賛されるクリスティーヌなのに、愚かな家族からは冷遇されていた。
ぼくは、そのことを知っていたけれど、救うために動かなかった。

だって、クリスティーヌには、ぼくだけしかいない。
そう思ったままでいて欲しいから。

クリスティーヌの人生は、ぼくのものだ。
ぼくだけを愛して、ぼくだけのために生きたらいい。



来週、ぼくの17歳の誕生日を祝うパーティーがある。
その打ち合わせのため、ぼくは、王妃である母上に呼ばれた。

母上の部屋へ向かうため、廊下を歩いていると、真っ赤な髪が目に入った。

ライアンだ。

昔のひ弱な姿が嘘だったように、背が高く、鍛えられた体をしている。

騎士団長自ら稽古をつけたライアンは、そのまま騎士団に入団。
めきめきと強くなり、頭角を現した。

そして、国王である父上の護衛騎士に抜擢された。
そのため、王宮内で見かけることが多くなった。

今も、王である父上のそばで、護衛として、つき従っている。

すれ違った。

整った顔で、温度のない表情を向けられた。
形式的な目礼をされる。

見たくもないのに、ライアンの冴え冴えとした美貌には、目が吸い寄せられる。
今日も、切れ長の緑色の目は、悔しいくらいに澄みきっていた。

その目を見るたび、何故か、クリスティーヌを思う。
清廉なふたりが、まるで対であるかのような思いがわきあがってくるんだ。

しかも、子どもの頃に見た、赤い髪と銀色の髪が庭で並んで立っている光景まで思い出してしまう。

ぼくは頭をふって、もろもろをかき消した。

くそっ、ライアン…。いまいましい奴だな…。

ぼくが王になった暁には、絶対に王宮から遠いところへ飛ばしてやる。
クリスティーヌを二度と目にすることができないところに…。




※読んでくださっている方、本当にありがとうございます!
お気に入り登録、エール、ご感想もありがとうございます!大変、励みになります!

王太子視点、続きます…(-_-;)
いらいらすることもあろうかと思いますが、よろしくお願いします。



しおりを挟む
感想 467

あなたにおすすめの小説

結婚式をボイコットした王女

椿森
恋愛
請われて隣国の王太子の元に嫁ぐこととなった、王女のナルシア。 しかし、婚姻の儀の直前に王太子が不貞とも言える行動をしたためにボイコットすることにした。もちろん、婚約は解消させていただきます。 ※初投稿のため生暖か目で見てくださると幸いです※ 1/9:一応、本編完結です。今後、このお話に至るまでを書いていこうと思います。 1/17:王太子の名前を修正しました!申し訳ございませんでした···( ´ཫ`)

幼馴染の王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。 何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。 同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。 もうやめる。 カイン様との婚約は解消する。 でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。 愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません! 一度完結したのですが、続編を書くことにしました。読んでいただけると嬉しいです。 いつもありがとうございます。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

愛される日は来ないので

豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。 ──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。

言い訳は結構ですよ? 全て見ていましたから。

紗綺
恋愛
私の婚約者は別の女性を好いている。 学園内のこととはいえ、複数の男性を侍らす女性の取り巻きになるなんて名が泣いているわよ? 婚約は破棄します。これは両家でもう決まったことですから。 邪魔な婚約者をサクッと婚約破棄して、かねてから用意していた相手と婚約を結びます。 新しい婚約者は私にとって理想の相手。 私の邪魔をしないという点が素晴らしい。 でもべた惚れしてたとか聞いてないわ。 都合の良い相手でいいなんて……、おかしな人ね。 ◆本編 5話  ◆番外編 2話  番外編1話はちょっと暗めのお話です。 入学初日の婚約破棄~の原型はこんな感じでした。 もったいないのでこちらも投稿してしまいます。 また少し違う男装(?)令嬢を楽しんでもらえたら嬉しいです。

【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした

凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】 いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。 婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。 貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。 例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。 私は貴方が生きてさえいれば それで良いと思っていたのです──。 【早速のホトラン入りありがとうございます!】 ※作者の脳内異世界のお話です。 ※小説家になろうにも同時掲載しています。 ※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)

【本編完結】アルウェンの結婚

クマ三郎@書籍&コミカライズ3作配信中
恋愛
シャトレ侯爵家の嫡女として生まれ育ったアルウェンは、婚約者で初恋の相手でもある二歳年上のユランと、半年後に結婚を控え幸せの絶頂にいた。 しかし皇帝が突然の病に倒れ、生母の違う二人の皇子の対立を危惧した重臣たちは、帝国内で最も権勢を誇るシャトレ侯爵家から皇太子妃を迎えることで、内乱を未然に防ごうとした。 本来であれば、婚約者のいないアルウェンの妹が嫁ぐのに相応しい。 しかし、人々から恐れられる皇太子サリオンに嫁ぐことを拒否した妹シンシアは、アルウェンからユランを奪ってしまう。 失意の中、結婚式は執り行われ、皇太子との愛のない結婚生活が始まった。 孤独な日々を送るアルウェンだったが、サリオンの意外な過去を知り、ふたりは少しずつ距離を縮めて行く……。

〖完結〗王女殿下の最愛の人は、私の婚約者のようです。

藍川みいな
恋愛
エリック様とは、五年間婚約をしていた。 学園に入学してから、彼は他の女性に付きっきりで、一緒に過ごす時間が全くなかった。その女性の名は、オリビア様。この国の、王女殿下だ。 入学式の日、目眩を起こして倒れそうになったオリビア様を、エリック様が支えたことが始まりだった。 その日からずっと、エリック様は病弱なオリビア様の側を離れない。まるで恋人同士のような二人を見ながら、学園生活を送っていた。 ある日、オリビア様が私にいじめられていると言い出した。エリック様はそんな話を信じないと、思っていたのだけれど、彼が信じたのはオリビア様だった。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

【完結】わたしの婚約者には愛する人がいる

春野オカリナ
恋愛
 母は私を「なんて彼ににているのかしら、髪と瞳の色が同じならまるで生き写しだわ」そう言って赤い長い爪で私の顔をなぞる仕種をしている。  父は私に「お前さえいなければ、私は自由でいられるのだ」そう言って詰る。  私は両親に愛されていない。生まれてきてはいけない存在なのだから。  だから、屋敷でも息をひそめる様に生きるしかなかった。  父は私が生まれると直ぐに家を出て、愛人と暮らしている。いや、彼の言い分だと愛人が本当の妻なのだと言っている。  母は父に恋人がいるのを知っていて、結婚したのだから…  父の愛人は平民だった。そして二人の間には私の一つ下の異母妹がいる。父は彼女を溺愛していた。  異母妹は平民の母親そっくりな顔立ちをしている。明るく天使の様な彼女に惹かれる男性は多い。私の婚約者もその一人だった。  母が死んで3か月後に彼らは、公爵家にやって来た。はっきり言って煩わしい事この上ない。  家族に愛されずに育った主人公が愛し愛される事に臆病で、地味な風貌に変装して、学園生活を送りながら成長していく物語です。  ※旧「先生、私を悪い女にしてください」の改訂版です。

処理中です...