(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。

水無月あん

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番外編

ムルダー王太子 4

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王妃付の侍女に案内され、部屋に入るなり、母上に叱られた。

「ムルダー! あなた、また、王太子の仕事をクリスティーヌに押し付けたわね? あなたは、将来、国王として、この国を背負って立つのよ?! 近頃は、あなたの能力が、あれこれ言われ始めてるの。しっかりしなさい!」

子どもの頃は、ぼくに甘かった母上だが、最近は、おこってばかりだ。
理由はわかってる。

側妃の息子である第二王子ロバートを担ぎたがる一派がいるからだ。

側妃マリーは、隣国の伯爵家の娘だった。
しかも、その伯爵家には、なんの権力もない。

そんな母親から生まれた第二王子なんて、怖くもなんともない。
それに、あいつは子どもの頃から体が弱く、辺境の城に、ひきこもってるじゃないか…。

「大丈夫ですよ、母上。あいつは、体も弱くて、あんな辺境の城にひきこもってる。そんな奴に、王太子の座を奪われるようなへまはしません。それに、クリスティーヌは、ぼくの妃になるのです。今から手伝ってもらっても、何も悪くないですよね」

「ムルダー、第二王子はひきこもってるのではなく、匿われてるのよ。国王様は、いまだに、あの女がお好きなの! その息子に王位を譲りたいに決まってるわ!」

側妃のことになると、いつも余裕をなくす母上。
取り乱している姿は、みっともないな…。

確かに、父上の母上への態度に特別な愛は感じられない。
でも、政略なんだから、いい加減、あきらめればいいのに…。

父上は王太子だった頃、隣国に留学していた。その時に、伯爵家の令嬢マリーを好きになった。
帰国後、妃にしたいといったものの、隣国の貴族で、しかもたいした身分じゃないと、国の重鎮たちに大反対されたらしい。
結局、その時の国王、ぼくの祖父の一声で、当時、国内で最も権力のあったモルラン公爵家の令嬢である母上との婚姻が決まった。

その後、すぐに、国王が死去。王太子だった父上が国王になった。
父上は、伯爵家の令嬢マリーを呼び寄せ側妃にした。

そんな側妃が産んだ第二王子のロバートは、ぼくより3歳年下。
が、体が弱く、幼い頃に、母親とともに、辺境にある別宮に療養として移っていった。

それ以来、ロバートには会っていない。だから、顔もあんまり覚えていない。

まあ、ロバートのことはどうでもいい。
母上は、側妃のことになると、ほんと、うるさいよね…。

クリスティーヌが、ぼくをどれだけ愛そうがいいけど、ぼくの愛を求めるあまり、母上みたいにみじめな姿をさらしてほしくはない。

まあ、でも、ぼくは、クリスティーヌが不安にならないよう、しっかり愛を示してるから、大丈夫だけどね。

「ちょっと、ムルダー、聞いてるの?!」
母上が、いらだった声をあげる。

「…聞いてますよ、母上。落ち着いてください。何も心配はいりませんから」

「ムルダー、油断してる場合じゃないわ! 第二王子の後ろ盾に、ロンバルディア公爵がなったそうよ。この意味、わかるでしょう?」

「ロンバルディア公爵…?!」

王弟で、ぼくの叔父。そして、ライアンの父だ。

「きっと、国王様が、自分の弟に第二王子の後ろ盾になることを頼んだのよ! あの女が望んだに決まってるわ! 王位に興味ないふりをして、虎視眈々と狙ってたのよ!」
叫ぶ、母上。

普段の、威厳のある王妃の顔とはまるで違い、嫉妬にくるった顔をしている。
見るに堪えないな…。

ぼくは、内心、ため息をついた。

「父上が頼んだかどうかなんて、わからないですよね? それに、王弟とはいえ、公爵家がひとつ味方についたところで、どうってことはない。母上のご実家であるモルラン公爵家も、クリスティーヌの実家であるアンガス公爵家も、ぼくの味方なんですから」

「あのアンガス公爵が、ロンバルディア公爵に勝てると思うの?」

「同じ公爵家だし、大差ないのでは? それだから、クリスティーヌをぼくの婚約者にしたのでしょう?」

「ちがうわ。公爵家の中で、ムルダーに合う年頃の令嬢が、クリスティーヌしかいなかったからよ。アンガス公爵は凡庸で、有能なロンバルディア公爵の敵には、なり得ない。まあ、でも、公爵よりも公爵夫人よね。浅はかすぎて、話しにならないわ。王太子の婚約者であるクリスティーヌが娘じゃなかったら、社交界では、とっくに、はじかれてるでしょうね。あの家は、将来、王太子妃になるクリスティーヌがいることでもっているのよ」
母上は、苦々しい口調で言った。

アンガス公爵夫妻、愚かだとは思っていたが、そこまでとは…。

が、クリスティーヌの価値に気づき、今更、態度を変えられても困る。
特に、あの妹は要注意だな。
子どもの頃、クリスティーヌは、一度だけ、髪留めをあげたことを嬉しそうに話していたし。 

愚かな家族には、クリスティーヌの価値に気づかないままでいてもらおう。
クリスティーヌの宝石のような瞳にうつるのは、ぼくだけでいい。



そう思っていたのに、一週間後のぼくの誕生日を祝うパーティーで、思ってもみなかったことが起きてしまった。





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