(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。

水無月あん

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番外編

ラナから花へ 1

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「……ラナ、……ラナ、起きなさい」
と、呼びかけられる声に目をあけた。

ざわざわしたまわりの音。

ここは、どこ……?

私は、まわりを見回した。

白衣の人たちが忙しそうに、行ったり来たりしている。
病院ね……。

自分を見下ろすと、廊下におかれた椅子に座っている状態。
そして、目の前には、疲れのにじんだ顔をしたお父様が立っていた。

「眠っていたようだな。ラナも疲れただろう」
と、お父様が気遣うように私に言った。

意識がなくなる前のことが、鮮明によみがえってきた。

もしかして、私、あの剣で、クリスティーヌさんを刺したけれど上手くいかなかったのかしら!?
だから、ルリの体は病院に運ばれたのっ!?

あ、でも、あの時、確かにルリの体は完全に消えていた……。
それに、もし、体が残っていた状態だったら、私は刺した犯人として、今頃は警察にいるはず。

どういうことだろう……?

と、考えていると、お父様が私に言った。

「ラナ。すまないが、家に帰って、ルリの入院の準備をしてきてくれるか? これが必要な物だ。私は二人についているから」
そう言って、病院から渡されたリストを手渡された。

見覚えのある紙。

あ! 

ルリが階段から落ちたあの日、お父様に同じことを頼まれたよね……?
嘘……!? 

私は、おそるおそるお父様に聞いた。

「あの……ルリは、今日、階段から落ちたんですよね? 確か、お母様は心労で倒れた……んでしたっけ……?」

お父様が驚いたような顔で私を見た。

「ああ、そうだ。ラナ、そんなことを聞くなんて、まだ寝ぼけてるのか……? よほど疲れてるんだな。ルリの荷物は明日でいいから、今日は早く帰って休みなさい」

「……わかりました、お父様」

できるだけ落ち着いた声で答えたものの、頭の中はぐちゃぐちゃだ。

つまり、私は、ルリが階段から落ちた日に戻ったってこと……?

混乱したまま、待合室の前を通り過ぎようとしたら、テレビからはスポーツニュースが流れていた。
私の足がとまった。

画面には、優勝した選手のインタビューが流れている。

スポーツに興味のない私でも知っている有名な選手。
そして、この優勝のあと、電撃的に引退したのよね。
去年のことだけれど……。


家に帰り、自分の部屋にこもった。

とにかく、今の状況を整理したい。

信じられないけれど、今日は、ルリが階段から突き落された日。
スマホやテレビ、何度も日付を確認した。

確かに、私は過去に戻っている。

何故……?

そういえば、意識が薄れていく時、「歪んだ時は消えた」って、あの声が聞こえた気がするのよね。

占い師さんのところで、あの声から聞いたことも思い出してみる。

確か、「同じ外側の体が、2つの世界にあり、内側の存在の体はどちらの世界にもない。界を渡った二人の時空が歪んでしまっている」みたいなことを言っていた。

つまり、ルリが階段から落ちた日、違う世界のクリスティーヌさんがルリの体に入り、ルリ自身は、体ごとクリスティーヌさんがいた世界にとんだ。

ルリの体は二つの世界にあり、その間、クリスティーヌさんの体は消えていたことになる。

あの声のとおりだとすると、この1年が歪んでいた時だったってことよね。 
その歪んだ時が消えたため、私はその時に戻った。

私の頭に、意識が途切れる寸前、聞こえてきた言葉が更によみがえってきた。

(次は君の番だ。……自由に生きるんだ、ハナ……)

ハナ……。

「そう、私は花」
声にだして言ってみる。

その途端、ぶわっと涙がでてきた。

ラナとして作ってきた殻が粉々に割れていく。

花に戻りたい……。
これからは、花として、自由に生きてみたい……。

そう強く思った。



※ 前回、久々の更新でしたが、沢山の方が読んで下さり、感動しました!
本当にありがとうございます!
そのうえ、あたたかいご感想や、エールまでいただき、感謝でいっぱいです!
とても励まされました。ありがとうございます!




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