(本編完結・番外編更新中)あの時、私は死にました。だからもう私のことは忘れてください。

水無月あん

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番外編

ラナから花へ 30

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春さんから聞いたお母様の言葉の衝撃で、頭が真っ白になった私。

意味がわからなくて、ぼーっと固まっていると、森野君の表情が一気に鋭くなった。

「つまり、あのクソ親は、俺と花が友人なら、花が、俺とクソ妹を会わせるって考えてるのか!? なんで、花がそんなことしなきゃならない!? 花をなんだと思ってるんだ!」
と、森野君が私のために怒ってくれている。

その言葉で固まっていた私の頭も、やっとまわりだした。

そうか……。
お母様は、私が森野君の友達であれば、ルリの為に私が森野君をルリに紹介して、仲をとりもつように動くべきだと思っているってことなんだ。

でも、なんで、お母様はそう思うんだろう……?

あの時、誰が見ても、森野君はルリを嫌がって避けていたのに?
あんなに嫌がる人に、また会わそうだなんて思わない。
いくら私が友達であっても、うまくいくはずないって、普通は考えると思う。

それに、私は大事な友達だからこそ、そんなことを絶対にしたくない。

だけど、お母様にとったら、私の気持ちなんて、それこそ、本当にどうでもいいこと。
私がいくら嫌がっても、お母様は私を思い通りに動かそうとしたはず。

そう確信したら、自然と、言葉がでてきた。

「良かった……」

春さんが、すかさず、私に聞いてきた。

「花ちゃん、何が良かったの? 花ちゃんの心にうかんだままに言ってみて」

「ええと、良かったっていうのは、あのパーティーの時、私と森野君が友達だと気づかれなくて、本当に良かったなって思ったんです……。そんなことを考えるお母様なら、たとえ、私がどれだけ嫌がっても、断ったとしても、無理やりにでも、森野君にルリを会わせようとしたと思うから……」

森野君が顔をしかめた。

「確かにな……。花があいつの思い通りに動かなかったとしても、花の名を勝手に使って、嘘を並べて、俺を呼び出すとか、なんでもしそうだよな、あのクソ親なら」

そんなことまでするとは想像したくはないけれど、お母様の考えを聞いた今なら、森野君の言うとおりかもしれない。
そんなことにならなくて本当によかった……。

「私は、森野君が嫌がることだけは絶対にしたくないから。だから、あの時、お母様に気づかれなくて良かったって、心から思う」

「花……。自分が大変な時に、俺のことをそんな風に気づかってくれて、ありがとう」

森野君が表情をゆるめて、私に微笑んだ。
その優しい顔に、ちりっと心が痛む。

思わず、きれいごとを言っちゃったけど、本当はそれだけじゃない……。

私は、首を横にふった。

「森野君のためだけじゃない……。気づかれたくなかったのは、私のわがままでもあるから……」

「あら、わがまま……? 花ちゃんと最も結びつかない言葉ね! 是非聞いてみたいわ。よかったら、聞かせてくれる?」
と、春さん。

春さんの私を見る目が、好奇心できらきらと輝いている。

その明るく、いきいきとした目を見ながら、春さんって本当に不思議な人だなと思う。

だって、春さんに聞かれると、奥底に隠していたものも、聞かれるままに、全部、さらけだしてしまいたくなる。
そうしても大丈夫だってわかるから。

春さんの優しい微笑みに背中をおされて、私はずっと心の奥にしまっていたことをひっぱりだしてきた。

「森野君が嫌がることだけはしたくない気持ちは、もちろん本当です。でも……なにより、私自身が、嫌だったから……。実は、あのパーティーの時、まっさきに私が思ったのは、森野君をルリに奪われたくないってことだったんです……。森野君は、私の大事な友達だから、森野君だけは、ルリに奪われたくないって……。今思えば、森野君のことを、奪ったり奪われたりとか、そんな風に考えること自体が失礼なことだと思う。でも、森野君は私にとって唯一で特別な存在だから……。森野君だけはルリと関わってほしくない。そんなの嫌だって強く思ったんです。だから、絶対に森野君と友達だと気づかれたくなかったのは、そんな私の自分勝手な思いというか、……わがままなんです……」

「花……」

そう言って、黙りこんでしまった森野君。

もしかして、私の自分勝手な気持ちにひかれた……? 
そう不安になった時、春さんがにんまりと笑った。

「花ちゃん、それ、わがままでもなんでもないからね? それ、守にとったら、ものすごい、ご褒美だから。ほら、守の顔を見て。必死で顔をとりつくろってるけど、にやけてるでしょ?」

「にやけてはいない……」
と、森野君。

「じゃあ、今の花ちゃんの言葉、守は嬉しくないの?」

「……嬉しい」

「え、なんだって? 声が小さくて聞こえない」

「嬉しいよ……。嬉しいにきまってるだろ! 花に『唯一で特別な存在』だって言われたんだからな。春さんに話しかけられて邪魔されるまでの短い間に、自分にしみこませるように、花の声で、何度も何度も、そこだけ頭の中でリピートしてた。気持ち悪いだろ? でもいいんだ。それくらい花の言葉が嬉しかったから!」

やけになったように、声をはりあげた森野君。

森野君にひかれてなくて、ほっとすると同時に、改めて自分の言った言葉を聞くと急に恥ずかしくなって、顔が一気に熱くなる。
思わず、顔を手であおぐと、満面の笑みをうかべた春さんと目があった。

「森野病が一気に加速している守のおもしろさと、花ちゃんの純粋なかわいらしさ……。あー、みっちゃんと共有したい……」

そうつぶやいたあと、おもむろに、春さんは手のひらを森野君の前に差し出した。

「……春さん、この手、何?」

「花ちゃんのかわいいわがままを聞き出した私にご褒美をちょうだい」

「は? いや、なんで?」

聞き返す森野君。
春さんは、楽しそうに言った。

「何がいいかなあ。あ、そうだ。守の家の近所にある和菓子屋さんのあんみつがいいわね。あそこのあんこはこれまた最高なんだよね」

「春さん……。俺、春さんの欲しい物を聞いたんじゃないんだけど?」

「そうそう、あんみつは3個お願いね。あ、じゃなくて、5個ね」

「話聞いてないな。しかも、なんで、5個も?」

「そりゃあ、花ちゃんの分と守の分と、あとは私が3個食べるから。……ということで、守は花ちゃんからご褒美をもらって、怒りも一旦おさまっただろうから、守が激怒するだろう、あの母親の言葉の続きを話しましょうかね」

「いや、さっきのクソ親の言葉を聞いて、俺は既に激怒したんだけど? もしかして、あれ以上のことがあるのか……?」

「守、甘いわよ。あの母親の暴走は更に加速していくわ。ということで、私は、もう一個、最中を食べとくわね。花ちゃんも邪気よけに、一個どう?」

春さんはそう言うと、最中を手に取り、おいしそうに食べ始めた。



※ 不定期な更新のなか、読んでくださっているかた、ありがとうございます! 
いいね、エール、ご感想も本当にありがとうございます! とても励みにさせていただいております!
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感想 467

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みんなの感想(467件)

sakikaname
2025.06.10 sakikaname

おすすめから来ました!

つ………続きが無い!!?‪・゜・(つД`)・゜・

…が再開はあるんですよね? 無理せず でも中止は無くお願いしますm(_ _)mペコリ
とりあえず 早くお父さんに話して 縁切って!!(>_<) ギュッ!!!!!

2025.06.11 水無月あん

sakikaname様

おすすめから読んでくださったのですね! 
長いお話なのに読んでくださり、あたたかいコメントまでいただきありがとうございます!
本当に嬉しいです😂

変なところでとまっていてすみません💦
先月まで、リアルが忙しく、しばらく創作を休んでおりました。

今月にはいり、リアルも落ち着いてきましたが、長らく休んでいたので、今はリハビリがてら、短編の新作を更新しております。
まもなく完結するので、その後に、連載中のお話を順に再開していく予定にしております!
しばしお待ちいただければありがたいです。どうぞよろしくお願いします!

あたたかいお言葉にとても励まされ、モチベーションがあがりました!
本当にありがとうございます! 

解除
ブリトニー
2025.04.10 ブリトニー

番外編まだ途中読みですが本編では愚妹だったミリーが番外編では流されやすいながら成長性のある子でほっこりしました!面白い作品ありがとうございます!

2025.04.10 水無月あん

ブリトニー様

この作品を見つけてくださり、読んでくださってありがとうございます!!

反省し、かわっていこうとしている妹にほっこりしていただいたとは、とても嬉しいです!

私の作品のなかでは一番シリアスで、一番悩みつつ書いているため、おもしろい作品と言っていただけて、とてもとても励まされました!!

あたたかいコメントをありがとうございます。感謝でいっぱいです!




解除
こねこ
2025.03.16 こねこ

春さん!私からもご褒美です
あんなに可愛い我儘聞き出してくれてありがとうございます!
そして森野病が加速しているのが🤣🤣🤣🤣
春さん道明寺どうぞ
どぞ(っ´∀`)っ🌸🌸🌸🌸🌸🌸

2025.03.17 水無月あん

こねこ様

いつもあたたかいコメントをありがとうございます!!
森野病、本人は無自覚ですが一気に加速してます(;^ω^)

こねこ様からもご褒美をいただいて、春さん大喜びです🥰
しかも、道明寺、春らしくていいですね♪

いつも読んでくださり、あたたかいコメントまでいただき、本当にありがとうございます!
とても励みにさせていただいています! 

解除

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