オハギとオモチ ~夏編~

水無月あん

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呪文

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クッションみたいにふくらんだハンカチをかかえて、あわてて、家に帰ったオハギ。

「さあ、オモチ。手伝って! まずは、魔法をかける前に、部屋を大急ぎで片づけるわよ!」

「えー、めんどくさい。部屋なんて、このままでいいじゃない?」

「ダーメ! 部屋をいっぱいにしてたら、違うものに魔法がかかるかもしれないでしょう? そうなると、ずーっと、めんどうなことになるわ。ほら、特に、その魔法辞書なんて要注意よ。はやく、戸棚にしまって!」

「なんで? めんどくさい」

「辞書は、言葉を欲しがるの。だから、呪文をとなえているのを、うっかりとられて、勝手につかいだされたら、大変なことになるわ。それと、鏡は布でしっかりおおってね」

「なんで? めんどくさい」

「うつしこんだ呪文を、あたりにまきちらすからよ」

「あーあ、めんどくさい」
オモチは、のらりとたちあがった。


部屋が片づくと、オハギは、つぼをだしてきた。
そして、大魔女のおばあちゃんから譲りうけた呪文の書をひらき、オモチに持たせる。

そこに書かれてある呪文を、注意深くとなえながら、オハギは、クッションみたいにふくらんだハンカチを、つぼの上で、しぼりはじめた。


ぽったら ぽったり ぽたたん ぽたりん

なみだよ なみだ しずくにおもどり

めから おちだす しずくの かたちに

ぽっとり ぽっとん ぽととん ぽとらん


その呪文を、何度も何度もとなえながら、しぼっていると、ハンカチが、すっかりぺったんこになった。
そして、つぼの中は、しずくでいっぱい。

「全部、しぼれたみたいね。じゃあ、オモチ。呪文の書の次のページをひらいて、私に見えるように持って」

「あーあ、めんどくさいなあ」

そう言いながらも、オモチは言われたとおり、呪文の書の次のページをひらいた。
そして、オハギが見えるように持った。

その間に、オハギは、魔法道具のつまった戸棚にいき、糸が常にとおっている針をとりだして、持ってきた。

その針で、つぼの中にたまった、しずくをすくいとっては、糸でしっかりと、つなげていく。
もちろん、呪文をとなえながら。


ちっくん ぷっつん ちくちく ぷっつり

どんなものでも とおす はり

どんなものでも つなぐ いと

なみだの しずくは しずくのままで

するする すんなり ぬいつなぐ


途中、オハギが、つぼをのぞきこんで、残りのしずくを数えた。

「しまった、ひとつぶ、たりないわ! オモチ、大急ぎで、涙を、ひとつぶとってきて!」

「えー、めんどくさい。オハギがいけば?」

「ダメよ! 一度、ぬいはじめた手をとめると、涙のしずくが、かわいてしまうの。
ほら、残りのしずくを、ゆっくりぬいつないでいるから、早く、とってきて。ひとつぶでいいから! 嫌なら、オモチの涙をとるために、泣かすわよ?」

「わかった、わかった。とってくるよ」
たちあがったオモチに、オハギが、ぺたんこになったハンカチをおしつけた。

「これで、すいとってきて。大急ぎでね!」

オモチは、ひとつ、のびをすると、家から飛びだしていった。
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