37 / 46
番外編
ある子息の初恋 15
しおりを挟む
いつもの夜会よりずっと華やかに装ったメアリー。
あまりにも美しくて、目が釘付けになる。
同時に、不安がわきおこってきた。
メアリーのドレスが、いつも以上に鮮やかなブルーだったから。
こんな特別な夜会に着て行くのもブルーなのか……。
もちろん、ただ単に、ブルーがメアリーの好きな色で、ブルーのドレスが多いということは知っている。
以前、僕が夜会用のドレスを贈りたいと言った時、「ドレスは結婚したあとにプレゼントしてもらうわ。だから、その費用は結婚後に貯めておいて」と、僕の懐を気づかって言ってくれた。
今、メアリーが夜会に着ていっているドレスはどれも以前から持っていたものばかりだそう。
つまり、この鮮やかなブルーのドレスも僕と婚約してから作ったドレスじゃない。
だから、僕の色が入っていないのは当たり前だ。
なにより、メアリーの輝くような金色の髪に、ブルーのドレスはよく映えて美しいと心の底から思う。
それなのに、どうしても、金色に輝く髪と鮮やかなブルーの瞳をしたあの人物を思い浮かべてしまう。
いろんな思いが、ぐちゃぐちゃになって、僕は美しいメアリーを見つめたまま動けなくなった。
「ジョイスは、メアリーさんがあまりに美しくて、固まってるのね。出発までに少しだけ時間があるから、メアリーさんの美しさに慣れておいて。見とれたままだと、エスコートできないわよ。……じゃあ、ふたりとも、またあとでね」
ローラさんは笑いながらそう言うと、僕たちふたりを残して部屋からでていった。
メアリーが僕の前にたち、おもむろに後ろを向いた。
「ねえ、見て、ジョイス。この新しい髪飾り、どうかしら?」
メアリーの後ろ髪には、花の形をした髪飾りがついていた。
「メアリーの金色の髪によく似合ってる」
「それだけ? 髪飾りについている緑色の石をよく見て。ジョイスの瞳の色みたいでしょう?」
「え? 僕の瞳の色……?」
「ええ、そうよ。だから、買ったの」
僕のほうに向きなおり、微笑むメアリー。
メアリーにしたら何気ない言葉だったのだろうけれど、僕には衝撃だった。
「メアリー……。君は、僕の瞳の色を身に着けてもいいと思ってくれたのか……?」
茫然とつぶやく僕に、メアリーがくすくすと笑った。
「まあ、ジョイスったら、おかしなことを聞くのね?」
そう言うと、僕に顔をのぞきこんできた。
「ジョイスの瞳は深い緑色でとてもきれいだわ」
「僕の瞳の色がきれい……?」
「ええ、とってもきれいよ」
そう言ったあと、ふっとメアリーが真顔になり、僕の瞳をじっと見た。
「そうね……深い深い森の奥みたい。滅多に人が入ってこないような木々の生い茂る森……。神秘的で、とても静かで、木々に守られているようで気持ちがいいけれど、……でも、少しだけ怖い……。なんだか、自分自身のことを忘れてしまいそうになるから。……でも、なにもかも忘れて、ずっとここにいられたら……ううん、最初からこの森しか知らなかったら……」
聞き取りにくいほど小さい声で、メアリーがつぶやいている。
どういう意味だ……?
僕が必死で耳をかたむけていると、はっとしたように、メアリーが僕を見た。
「私ったら、何を言っているのかしら……。やっぱり、王家主催の夜会だから緊張してるみたい。よくわからないことを口走っただけだから、気にしないで、ジョイス」
いつものように、きれいな笑みを浮かべたメアリー。
でも、僕の心は不安でいっぱいになった。
◇ ◇ ◇
父とローラさん、僕とメアリーの4人一緒に王宮にきた。
通された広間は、想像以上に華やかな雰囲気で、今まで参加してきた夜会とは別物だと肌で感じ、一気に緊張がたかまった。
メアリーも緊張しているのか、どこか、張り詰めたような笑顔を浮かべている。
すぐに、ローラさんが寄ってきて、緊張をほぐすように、にこやかにメアリーに話しかけ始めた。
その間、父が僕を呼び、メアリーに聞こえないよう小声で忠告してきた。
「いいか、ジョイス。国王様をはじめ王家の方々は広間の奥にある壇上にあがられる。今はまだ来られていないようだが、公爵家の方々も、王家の方々の近く、おそらく、広間の奥のほうにおられることになるだろう。自由に動ける時間になっても、おまえとメアリー嬢は広間の奥のほうには絶対に近づくな。夜会が終わるまで、このあたりにいて、適当にまぎれておけ」
父の口ぶりは真剣で、メアリーを心配して、いつになく緊張していることが伝わってくる。
メアリーを思ってくれるその気持ちが嬉しくて、僕は素直にうなずいた。
広間は招待客でいっぱいになり、異様な熱気につつまれている。
商人の男から、アーノルド様は夜会にはでないだろうと情報は得ているが、目が勝手に探してしまう。
見渡した感じはアーノルド様らしき人物は見つからなくて、ほっとした時だった。
広間の奥の扉が開いた。
にぎやかだった広間が、水をうったように静まった。
国王様と王妃様を先頭に、今回の夜会の主役である第二王子オズワルド様と王子妃になられたリンダ様、そのほかの王族の方々が入ってこられた。
夜会の始まりだ。
あまりにも美しくて、目が釘付けになる。
同時に、不安がわきおこってきた。
メアリーのドレスが、いつも以上に鮮やかなブルーだったから。
こんな特別な夜会に着て行くのもブルーなのか……。
もちろん、ただ単に、ブルーがメアリーの好きな色で、ブルーのドレスが多いということは知っている。
以前、僕が夜会用のドレスを贈りたいと言った時、「ドレスは結婚したあとにプレゼントしてもらうわ。だから、その費用は結婚後に貯めておいて」と、僕の懐を気づかって言ってくれた。
今、メアリーが夜会に着ていっているドレスはどれも以前から持っていたものばかりだそう。
つまり、この鮮やかなブルーのドレスも僕と婚約してから作ったドレスじゃない。
だから、僕の色が入っていないのは当たり前だ。
なにより、メアリーの輝くような金色の髪に、ブルーのドレスはよく映えて美しいと心の底から思う。
それなのに、どうしても、金色に輝く髪と鮮やかなブルーの瞳をしたあの人物を思い浮かべてしまう。
いろんな思いが、ぐちゃぐちゃになって、僕は美しいメアリーを見つめたまま動けなくなった。
「ジョイスは、メアリーさんがあまりに美しくて、固まってるのね。出発までに少しだけ時間があるから、メアリーさんの美しさに慣れておいて。見とれたままだと、エスコートできないわよ。……じゃあ、ふたりとも、またあとでね」
ローラさんは笑いながらそう言うと、僕たちふたりを残して部屋からでていった。
メアリーが僕の前にたち、おもむろに後ろを向いた。
「ねえ、見て、ジョイス。この新しい髪飾り、どうかしら?」
メアリーの後ろ髪には、花の形をした髪飾りがついていた。
「メアリーの金色の髪によく似合ってる」
「それだけ? 髪飾りについている緑色の石をよく見て。ジョイスの瞳の色みたいでしょう?」
「え? 僕の瞳の色……?」
「ええ、そうよ。だから、買ったの」
僕のほうに向きなおり、微笑むメアリー。
メアリーにしたら何気ない言葉だったのだろうけれど、僕には衝撃だった。
「メアリー……。君は、僕の瞳の色を身に着けてもいいと思ってくれたのか……?」
茫然とつぶやく僕に、メアリーがくすくすと笑った。
「まあ、ジョイスったら、おかしなことを聞くのね?」
そう言うと、僕に顔をのぞきこんできた。
「ジョイスの瞳は深い緑色でとてもきれいだわ」
「僕の瞳の色がきれい……?」
「ええ、とってもきれいよ」
そう言ったあと、ふっとメアリーが真顔になり、僕の瞳をじっと見た。
「そうね……深い深い森の奥みたい。滅多に人が入ってこないような木々の生い茂る森……。神秘的で、とても静かで、木々に守られているようで気持ちがいいけれど、……でも、少しだけ怖い……。なんだか、自分自身のことを忘れてしまいそうになるから。……でも、なにもかも忘れて、ずっとここにいられたら……ううん、最初からこの森しか知らなかったら……」
聞き取りにくいほど小さい声で、メアリーがつぶやいている。
どういう意味だ……?
僕が必死で耳をかたむけていると、はっとしたように、メアリーが僕を見た。
「私ったら、何を言っているのかしら……。やっぱり、王家主催の夜会だから緊張してるみたい。よくわからないことを口走っただけだから、気にしないで、ジョイス」
いつものように、きれいな笑みを浮かべたメアリー。
でも、僕の心は不安でいっぱいになった。
◇ ◇ ◇
父とローラさん、僕とメアリーの4人一緒に王宮にきた。
通された広間は、想像以上に華やかな雰囲気で、今まで参加してきた夜会とは別物だと肌で感じ、一気に緊張がたかまった。
メアリーも緊張しているのか、どこか、張り詰めたような笑顔を浮かべている。
すぐに、ローラさんが寄ってきて、緊張をほぐすように、にこやかにメアリーに話しかけ始めた。
その間、父が僕を呼び、メアリーに聞こえないよう小声で忠告してきた。
「いいか、ジョイス。国王様をはじめ王家の方々は広間の奥にある壇上にあがられる。今はまだ来られていないようだが、公爵家の方々も、王家の方々の近く、おそらく、広間の奥のほうにおられることになるだろう。自由に動ける時間になっても、おまえとメアリー嬢は広間の奥のほうには絶対に近づくな。夜会が終わるまで、このあたりにいて、適当にまぎれておけ」
父の口ぶりは真剣で、メアリーを心配して、いつになく緊張していることが伝わってくる。
メアリーを思ってくれるその気持ちが嬉しくて、僕は素直にうなずいた。
広間は招待客でいっぱいになり、異様な熱気につつまれている。
商人の男から、アーノルド様は夜会にはでないだろうと情報は得ているが、目が勝手に探してしまう。
見渡した感じはアーノルド様らしき人物は見つからなくて、ほっとした時だった。
広間の奥の扉が開いた。
にぎやかだった広間が、水をうったように静まった。
国王様と王妃様を先頭に、今回の夜会の主役である第二王子オズワルド様と王子妃になられたリンダ様、そのほかの王族の方々が入ってこられた。
夜会の始まりだ。
700
あなたにおすすめの小説
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
【本編完結・番外編不定期更新】
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
身代わりーダイヤモンドのように
Rj
恋愛
恋人のライアンには想い人がいる。その想い人に似ているから私を恋人にした。身代わりは本物にはなれない。
恋人のミッシェルが身代わりではいられないと自分のもとを去っていった。彼女の心に好きという言葉がとどかない。
お互い好きあっていたが破れた恋の話。
一話完結でしたが二話を加え全三話になりました。(6/24変更)
私たちの離婚幸福論
桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
【受賞&本編完結】たとえあなたに選ばれなくても【改訂中】
神宮寺 あおい
恋愛
人を踏みつけた者には相応の報いを。
伯爵令嬢のアリシアは半年後に結婚する予定だった。
公爵家次男の婚約者、ルーカスと両思いで一緒になれるのを楽しみにしていたのに。
ルーカスにとって腹違いの兄、ニコラオスの突然の死が全てを狂わせていく。
義母の願う血筋の継承。
ニコラオスの婚約者、フォティアからの横槍。
公爵家を継ぐ義務に縛られるルーカス。
フォティアのお腹にはニコラオスの子供が宿っており、正統なる後継者を望む義母はルーカスとアリシアの婚約を破棄させ、フォティアと婚約させようとする。
そんな中アリシアのお腹にもまた小さな命が。
アリシアとルーカスの思いとは裏腹に2人は周りの思惑に振り回されていく。
何があってもこの子を守らなければ。
大切なあなたとの未来を夢見たいのに許されない。
ならば私は去りましょう。
たとえあなたに選ばれなくても。
私は私の人生を歩んでいく。
これは普通の伯爵令嬢と訳あり公爵令息の、想いが報われるまでの物語。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
読む前にご確認いただけると助かります。
1)西洋の貴族社会をベースにした世界観ではあるものの、あくまでファンタジーです
2)作中では第一王位継承者のみ『皇太子』とし、それ以外は『王子』『王女』としています
→ただ今『皇太子』を『王太子』へ、さらに文頭一文字下げなど、表記を改訂中です。
そのため一時的に『皇太子』と『王太子』が混在しております。
よろしくお願いいたします。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
誤字を教えてくださる方、ありがとうございます。
読み返してから投稿しているのですが、見落としていることがあるのでとても助かります。
アルファポリス第18回恋愛小説大賞 奨励賞受賞
私の好きな人は異母妹が好き。だと思っていました。
棗
恋愛
帝国の公爵令嬢アマビリスには片思いをしている相手がいた。
青みがかった銀髪と同じ瞳の色の第二皇子アルマン。何故かアマビリスにだけ冷たく、いつも睨んでばかりでアマビリスの異母妹リンダには優しい瞳を向ける。片思いをしている相手に長年嫌われていると思っているアマビリスは、嫌っているくせに婚約が決まったと告げたアルマンを拒絶して、とある人の許へ逃げ出した。
そこでアルマンを拒絶してしまった事、本当は嬉しかったのにと泣いてしまい、泣き付かれたアマビリスは眠ってしまう。
今日は屋敷に帰らないと決めたアマビリスの許にアルマンが駆け付けた。
※小説家になろうさんにも公開しています。
前世と今世の幸せ
夕香里
恋愛
【商業化予定のため、時期未定ですが引き下げ予定があります。詳しくは近況ボードをご確認ください】
幼い頃から皇帝アルバートの「皇后」になるために妃教育を受けてきたリーティア。
しかし聖女が発見されたことでリーティアは皇后ではなく、皇妃として皇帝に嫁ぐ。
皇帝は皇妃を冷遇し、皇后を愛した。
そのうちにリーティアは病でこの世を去ってしまう。
この世を去った後に訳あってもう一度同じ人生を繰り返すことになった彼女は思う。
「今世は幸せになりたい」と
※小説家になろう様にも投稿しています
いつも隣にいる
はなおくら
恋愛
心の感情を出すのが苦手なリチアには、婚約者がいた。婚約者には幼馴染がおり常にリチアの婚約者の後を追う幼馴染の姿を見ても羨ましいとは思えなかった。しかし次第に婚約者の気持ちを聞くうちに変わる自分がいたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる