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番外編
ある子息の初恋 15
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いつもの夜会よりずっと華やかに装ったメアリー。
あまりにも美しくて、目が釘付けになる。
同時に、不安がわきおこってきた。
メアリーのドレスが、いつも以上に鮮やかなブルーだったから。
こんな特別な夜会に着て行くのもブルーなのか……。
もちろん、ただ単に、ブルーがメアリーの好きな色で、ブルーのドレスが多いということは知っている。
以前、僕が夜会用のドレスを贈りたいと言った時、「ドレスは結婚したあとにプレゼントしてもらうわ。だから、その費用は結婚後に貯めておいて」と、僕の懐を気づかって言ってくれた。
今、メアリーが夜会に着ていっているドレスはどれも以前から持っていたものばかりだそう。
つまり、この鮮やかなブルーのドレスも僕と婚約してから作ったドレスじゃない。
だから、僕の色が入っていないのは当たり前だ。
なにより、メアリーの輝くような金色の髪に、ブルーのドレスはよく映えて美しいと心の底から思う。
それなのに、どうしても、金色に輝く髪と鮮やかなブルーの瞳をしたあの人物を思い浮かべてしまう。
いろんな思いが、ぐちゃぐちゃになって、僕は美しいメアリーを見つめたまま動けなくなった。
「ジョイスは、メアリーさんがあまりに美しくて、固まってるのね。出発までに少しだけ時間があるから、メアリーさんの美しさに慣れておいて。見とれたままだと、エスコートできないわよ。……じゃあ、ふたりとも、またあとでね」
ローラさんは笑いながらそう言うと、僕たちふたりを残して部屋からでていった。
メアリーが僕の前にたち、おもむろに後ろを向いた。
「ねえ、見て、ジョイス。この新しい髪飾り、どうかしら?」
メアリーの後ろ髪には、花の形をした髪飾りがついていた。
「メアリーの金色の髪によく似合ってる」
「それだけ? 髪飾りについている緑色の石をよく見て。ジョイスの瞳の色みたいでしょう?」
「え? 僕の瞳の色……?」
「ええ、そうよ。だから、買ったの」
僕のほうに向きなおり、微笑むメアリー。
メアリーにしたら何気ない言葉だったのだろうけれど、僕には衝撃だった。
「メアリー……。君は、僕の瞳の色を身に着けてもいいと思ってくれたのか……?」
茫然とつぶやく僕に、メアリーがくすくすと笑った。
「まあ、ジョイスったら、おかしなことを聞くのね?」
そう言うと、僕に顔をのぞきこんできた。
「ジョイスの瞳は深い緑色でとてもきれいだわ」
「僕の瞳の色がきれい……?」
「ええ、とってもきれいよ」
そう言ったあと、ふっとメアリーが真顔になり、僕の瞳をじっと見た。
「そうね……深い深い森の奥みたい。滅多に人が入ってこないような木々の生い茂る森……。神秘的で、とても静かで、木々に守られているようで気持ちがいいけれど、……でも、少しだけ怖い……。なんだか、自分自身のことを忘れてしまいそうになるから。……でも、なにもかも忘れて、ずっとここにいられたら……ううん、最初からこの森しか知らなかったら……」
聞き取りにくいほど小さい声で、メアリーがつぶやいている。
どういう意味だ……?
僕が必死で耳をかたむけていると、はっとしたように、メアリーが僕を見た。
「私ったら、何を言っているのかしら……。やっぱり、王家主催の夜会だから緊張してるみたい。よくわからないことを口走っただけだから、気にしないで、ジョイス」
いつものように、きれいな笑みを浮かべたメアリー。
でも、僕の心は不安でいっぱいになった。
◇ ◇ ◇
父とローラさん、僕とメアリーの4人一緒に王宮にきた。
通された広間は、想像以上に華やかな雰囲気で、今まで参加してきた夜会とは別物だと肌で感じ、一気に緊張がたかまった。
メアリーも緊張しているのか、どこか、張り詰めたような笑顔を浮かべている。
すぐに、ローラさんが寄ってきて、緊張をほぐすように、にこやかにメアリーに話しかけ始めた。
その間、父が僕を呼び、メアリーに聞こえないよう小声で忠告してきた。
「いいか、ジョイス。国王様をはじめ王家の方々は広間の奥にある壇上にあがられる。今はまだ来られていないようだが、公爵家の方々も、王家の方々の近く、おそらく、広間の奥のほうにおられることになるだろう。自由に動ける時間になっても、おまえとメアリー嬢は広間の奥のほうには絶対に近づくな。夜会が終わるまで、このあたりにいて、適当にまぎれておけ」
父の口ぶりは真剣で、メアリーを心配して、いつになく緊張していることが伝わってくる。
メアリーを思ってくれるその気持ちが嬉しくて、僕は素直にうなずいた。
広間は招待客でいっぱいになり、異様な熱気につつまれている。
商人の男から、アーノルド様は夜会にはでないだろうと情報は得ているが、目が勝手に探してしまう。
見渡した感じはアーノルド様らしき人物は見つからなくて、ほっとした時だった。
広間の奥の扉が開いた。
にぎやかだった広間が、水をうったように静まった。
国王様と王妃様を先頭に、今回の夜会の主役である第二王子オズワルド様と王子妃になられたリンダ様、そのほかの王族の方々が入ってこられた。
夜会の始まりだ。
あまりにも美しくて、目が釘付けになる。
同時に、不安がわきおこってきた。
メアリーのドレスが、いつも以上に鮮やかなブルーだったから。
こんな特別な夜会に着て行くのもブルーなのか……。
もちろん、ただ単に、ブルーがメアリーの好きな色で、ブルーのドレスが多いということは知っている。
以前、僕が夜会用のドレスを贈りたいと言った時、「ドレスは結婚したあとにプレゼントしてもらうわ。だから、その費用は結婚後に貯めておいて」と、僕の懐を気づかって言ってくれた。
今、メアリーが夜会に着ていっているドレスはどれも以前から持っていたものばかりだそう。
つまり、この鮮やかなブルーのドレスも僕と婚約してから作ったドレスじゃない。
だから、僕の色が入っていないのは当たり前だ。
なにより、メアリーの輝くような金色の髪に、ブルーのドレスはよく映えて美しいと心の底から思う。
それなのに、どうしても、金色に輝く髪と鮮やかなブルーの瞳をしたあの人物を思い浮かべてしまう。
いろんな思いが、ぐちゃぐちゃになって、僕は美しいメアリーを見つめたまま動けなくなった。
「ジョイスは、メアリーさんがあまりに美しくて、固まってるのね。出発までに少しだけ時間があるから、メアリーさんの美しさに慣れておいて。見とれたままだと、エスコートできないわよ。……じゃあ、ふたりとも、またあとでね」
ローラさんは笑いながらそう言うと、僕たちふたりを残して部屋からでていった。
メアリーが僕の前にたち、おもむろに後ろを向いた。
「ねえ、見て、ジョイス。この新しい髪飾り、どうかしら?」
メアリーの後ろ髪には、花の形をした髪飾りがついていた。
「メアリーの金色の髪によく似合ってる」
「それだけ? 髪飾りについている緑色の石をよく見て。ジョイスの瞳の色みたいでしょう?」
「え? 僕の瞳の色……?」
「ええ、そうよ。だから、買ったの」
僕のほうに向きなおり、微笑むメアリー。
メアリーにしたら何気ない言葉だったのだろうけれど、僕には衝撃だった。
「メアリー……。君は、僕の瞳の色を身に着けてもいいと思ってくれたのか……?」
茫然とつぶやく僕に、メアリーがくすくすと笑った。
「まあ、ジョイスったら、おかしなことを聞くのね?」
そう言うと、僕に顔をのぞきこんできた。
「ジョイスの瞳は深い緑色でとてもきれいだわ」
「僕の瞳の色がきれい……?」
「ええ、とってもきれいよ」
そう言ったあと、ふっとメアリーが真顔になり、僕の瞳をじっと見た。
「そうね……深い深い森の奥みたい。滅多に人が入ってこないような木々の生い茂る森……。神秘的で、とても静かで、木々に守られているようで気持ちがいいけれど、……でも、少しだけ怖い……。なんだか、自分自身のことを忘れてしまいそうになるから。……でも、なにもかも忘れて、ずっとここにいられたら……ううん、最初からこの森しか知らなかったら……」
聞き取りにくいほど小さい声で、メアリーがつぶやいている。
どういう意味だ……?
僕が必死で耳をかたむけていると、はっとしたように、メアリーが僕を見た。
「私ったら、何を言っているのかしら……。やっぱり、王家主催の夜会だから緊張してるみたい。よくわからないことを口走っただけだから、気にしないで、ジョイス」
いつものように、きれいな笑みを浮かべたメアリー。
でも、僕の心は不安でいっぱいになった。
◇ ◇ ◇
父とローラさん、僕とメアリーの4人一緒に王宮にきた。
通された広間は、想像以上に華やかな雰囲気で、今まで参加してきた夜会とは別物だと肌で感じ、一気に緊張がたかまった。
メアリーも緊張しているのか、どこか、張り詰めたような笑顔を浮かべている。
すぐに、ローラさんが寄ってきて、緊張をほぐすように、にこやかにメアリーに話しかけ始めた。
その間、父が僕を呼び、メアリーに聞こえないよう小声で忠告してきた。
「いいか、ジョイス。国王様をはじめ王家の方々は広間の奥にある壇上にあがられる。今はまだ来られていないようだが、公爵家の方々も、王家の方々の近く、おそらく、広間の奥のほうにおられることになるだろう。自由に動ける時間になっても、おまえとメアリー嬢は広間の奥のほうには絶対に近づくな。夜会が終わるまで、このあたりにいて、適当にまぎれておけ」
父の口ぶりは真剣で、メアリーを心配して、いつになく緊張していることが伝わってくる。
メアリーを思ってくれるその気持ちが嬉しくて、僕は素直にうなずいた。
広間は招待客でいっぱいになり、異様な熱気につつまれている。
商人の男から、アーノルド様は夜会にはでないだろうと情報は得ているが、目が勝手に探してしまう。
見渡した感じはアーノルド様らしき人物は見つからなくて、ほっとした時だった。
広間の奥の扉が開いた。
にぎやかだった広間が、水をうったように静まった。
国王様と王妃様を先頭に、今回の夜会の主役である第二王子オズワルド様と王子妃になられたリンダ様、そのほかの王族の方々が入ってこられた。
夜会の始まりだ。
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