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心の中で
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「ちょっと、ごめんね、アデル」
ユーリはそう言うと、私を抱きかかえたまま、私の顔に自分の顔を近づけてきた。
「え、なに、なにしてるの…? ユーリっ?!」
私の顔にひっつく寸前の、ユーリの顔。
焦る私を見て、ブルーの瞳が妖しくきらめいている。
このままでは、色々あたる! …もしや、キ、キ、キ…?!
と、パニックになっていたら、私の顔の横に、ユーリの顔がずれた。
ほっとしたのもつかの間、頬と頬がひっついた。
が、そこで、ユーリのひやっとした声。
「俺だ。聞こえてるだろ。至急、馬車をまわして」
「ん? …えっと、ひとりごとかしら?」
「部下に連絡かな」
そう言うと、ユーリは、私から顔を離した。
「…え? ここには、私以外いないのだけれど? まさか、私がユーリの部下? 私への命令?!」
「フッ…。そんなわけないでしょ。本当に、アデルはばかかわいいよね。…そうじゃなくて、俺の着てるシャツの袖口に、俺の魔力を入れた通信機がついてるの」
「え?! すごいわね?! …ああ、それで、私を抱えている腕に顔をよせたから、あんなに近づいたのね…。びっくりしたわ!」
「アデル、真っ赤になってるけど、何か期待した?」
いえいえ、なにも期待してません! っていうか、心臓に悪いので、やめてね?!
「フッ…。初めては、こんなところでしないから、安心して?」
妖艶に微笑むユーリ。何故か不機嫌から上機嫌になった魔王様。
安心する要素がまるでないわね…。
しかし、魔力で通信までできるとは、さすが魔王。
「ねえ、シャツの袖口についているユーリの通信機、どんなのかしら? 見せて」
興味津々で、私が聞く。
「今は、アデルを抱えてるから、馬車に乗ってから見せるね」
早足で歩きながら答えるユーリ。
「そういえば、さっき、ユーリの声だけで、部下の方からのお返事は聞こえなかったけど、ちゃんと聞こえてたのかしら?」
「うん、大丈夫。これは、ぼくからの指示用だから、向こうからはしゃべれないの」
「え?! じゃあ、ユーリの指示だけ聞く一方通行?! 異議を唱えたい時は?!」
「ぼくの部下に、異議を唱える奴はいないよ」
当たり前のように言うユーリ。
やはり、魔王は違うわね…。
「アデル、そんなにこれが気になる? じゃあ、極上の宝石にぼくの魔力を入れて、プレゼントしようかな?」
「いえ、結構。ユーリの指示だけ聞く通信機はいりません」
あわてて断る私。
「アデルにプレゼントするなら、もちろん、アデルと話せるようにするよ? というか、ずーっと、常に、アデルの音がぼくに聞こえるようにしててもいいよね?」
…ん? それって、前世で言うところの盗聴器になるのでは?!
「いりません!! 断固受け取り拒否!」
「そんなに遠慮しなくてもいいんだよ?」
「遠慮じゃなくて、嘘偽りのない気持ちよ!」
「じゃあ、結婚してからプレゼントするね。それまでに、最高のものを魔力をこめて作っておくから、楽しみにしててね?」
甘い声で、怖いことを言う魔王。しかも、やたらと楽しそう…。
と、建物の入口にある魔力シャワーのところまでたどり着いた。
そこに立っていた女性が、驚いたように私たちを見る。
ここで働いている方かしら、名札をつけてるもの。
「来賓の方でしょうか…?」
女性がまわりを見回した後、不審そうに聞いてきた。
横抱きにされているだけでも、目をひくのに、案内しているはずのブリジットさんとか見当たらないものね。不審な状況よね?
すみません…。
今、ブルージュ国の皆さんは、氷の壁に阻まれて、こちらへ来られません。
氷が溶けるまで、10分ほど、お待ちくださいね…。
と、心の中で伝えてみる。
すると、ユーリが、きらきらした笑顔を浮かべて言った。
「私たちだけ用ができましたので、先に失礼します。他の方々は、まだ、ドラゴンの部屋でゆっくりされてますので、10分後くらいに、退出されると思います」
「あ…、はい! ご親切に教えてくださってありがとうございます!」
女性は真っ赤になって返事をしたあと、うっとりとユーリを見た。
「こちらこそ、ありがとう」
そう言って、ユーリが外面専用の美しすぎる恐ろしい笑顔で、その女性にとどめをさした。
ふらっとよろめく女性に心の中で謝る。
あの…、ちっとも、ご親切ではない魔王のせいで、皆さん足止めされてますから…。
ほんとに、ごめんなさい。
ユーリはそう言うと、私を抱きかかえたまま、私の顔に自分の顔を近づけてきた。
「え、なに、なにしてるの…? ユーリっ?!」
私の顔にひっつく寸前の、ユーリの顔。
焦る私を見て、ブルーの瞳が妖しくきらめいている。
このままでは、色々あたる! …もしや、キ、キ、キ…?!
と、パニックになっていたら、私の顔の横に、ユーリの顔がずれた。
ほっとしたのもつかの間、頬と頬がひっついた。
が、そこで、ユーリのひやっとした声。
「俺だ。聞こえてるだろ。至急、馬車をまわして」
「ん? …えっと、ひとりごとかしら?」
「部下に連絡かな」
そう言うと、ユーリは、私から顔を離した。
「…え? ここには、私以外いないのだけれど? まさか、私がユーリの部下? 私への命令?!」
「フッ…。そんなわけないでしょ。本当に、アデルはばかかわいいよね。…そうじゃなくて、俺の着てるシャツの袖口に、俺の魔力を入れた通信機がついてるの」
「え?! すごいわね?! …ああ、それで、私を抱えている腕に顔をよせたから、あんなに近づいたのね…。びっくりしたわ!」
「アデル、真っ赤になってるけど、何か期待した?」
いえいえ、なにも期待してません! っていうか、心臓に悪いので、やめてね?!
「フッ…。初めては、こんなところでしないから、安心して?」
妖艶に微笑むユーリ。何故か不機嫌から上機嫌になった魔王様。
安心する要素がまるでないわね…。
しかし、魔力で通信までできるとは、さすが魔王。
「ねえ、シャツの袖口についているユーリの通信機、どんなのかしら? 見せて」
興味津々で、私が聞く。
「今は、アデルを抱えてるから、馬車に乗ってから見せるね」
早足で歩きながら答えるユーリ。
「そういえば、さっき、ユーリの声だけで、部下の方からのお返事は聞こえなかったけど、ちゃんと聞こえてたのかしら?」
「うん、大丈夫。これは、ぼくからの指示用だから、向こうからはしゃべれないの」
「え?! じゃあ、ユーリの指示だけ聞く一方通行?! 異議を唱えたい時は?!」
「ぼくの部下に、異議を唱える奴はいないよ」
当たり前のように言うユーリ。
やはり、魔王は違うわね…。
「アデル、そんなにこれが気になる? じゃあ、極上の宝石にぼくの魔力を入れて、プレゼントしようかな?」
「いえ、結構。ユーリの指示だけ聞く通信機はいりません」
あわてて断る私。
「アデルにプレゼントするなら、もちろん、アデルと話せるようにするよ? というか、ずーっと、常に、アデルの音がぼくに聞こえるようにしててもいいよね?」
…ん? それって、前世で言うところの盗聴器になるのでは?!
「いりません!! 断固受け取り拒否!」
「そんなに遠慮しなくてもいいんだよ?」
「遠慮じゃなくて、嘘偽りのない気持ちよ!」
「じゃあ、結婚してからプレゼントするね。それまでに、最高のものを魔力をこめて作っておくから、楽しみにしててね?」
甘い声で、怖いことを言う魔王。しかも、やたらと楽しそう…。
と、建物の入口にある魔力シャワーのところまでたどり着いた。
そこに立っていた女性が、驚いたように私たちを見る。
ここで働いている方かしら、名札をつけてるもの。
「来賓の方でしょうか…?」
女性がまわりを見回した後、不審そうに聞いてきた。
横抱きにされているだけでも、目をひくのに、案内しているはずのブリジットさんとか見当たらないものね。不審な状況よね?
すみません…。
今、ブルージュ国の皆さんは、氷の壁に阻まれて、こちらへ来られません。
氷が溶けるまで、10分ほど、お待ちくださいね…。
と、心の中で伝えてみる。
すると、ユーリが、きらきらした笑顔を浮かべて言った。
「私たちだけ用ができましたので、先に失礼します。他の方々は、まだ、ドラゴンの部屋でゆっくりされてますので、10分後くらいに、退出されると思います」
「あ…、はい! ご親切に教えてくださってありがとうございます!」
女性は真っ赤になって返事をしたあと、うっとりとユーリを見た。
「こちらこそ、ありがとう」
そう言って、ユーリが外面専用の美しすぎる恐ろしい笑顔で、その女性にとどめをさした。
ふらっとよろめく女性に心の中で謝る。
あの…、ちっとも、ご親切ではない魔王のせいで、皆さん足止めされてますから…。
ほんとに、ごめんなさい。
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