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1.ギルドに入り込んだのはお嬢様
しおりを挟むこの状況をどう説明すればいいのだろうか。
マリアンヌは、金棒やら大きな金槌のような物を持ったいかつい男達に囲まれていた。
360度どこを見渡しても、無駄に筋肉ばかりついているむさ苦しい男達しか見当たらない。
その真ん中に置かれた椅子にぽつりと座るのは、リボンやらフリルやらで着飾られた貴族令嬢。
マリアンヌの存在の違和感のいったら尋常なものではなかった。
大きな身体をした男達が目をまんまるくしてマリアンヌの事を不思議そうにジロジロと見つめている。
「本当にお客さんで間違いないのか?」
「そうだろうよ、だってあの言葉を言ったんだからな」
でっかい男達が小さな声何やらひそひそと話し合ったと思えば、男らが皆、納得しかのように顔を見合わせ頷き合っていた。
マリアンヌはというと、恐怖で周りが見えずただ一点を見つめ、硬直していた。
何故私はここにいるのだろう。
どうしてこんなガタイのいい男達に囲まれているのだろう。でも、彼らのお目めはキュルキュルしていて純粋そうだな…
まぁそんな事を考えながら恐怖に怯えていたマリアンヌ。
彼女にとって、こんな狭い場所は初めてであり、こんな…正直いうと変な男達に会ったのがこれが初めてだ。おまけに、この壊れそうなおんぼろ椅子に座ったのも初めてである。
何故ならマリアンヌはこの帝国唯一の公爵令嬢の溺愛娘だからなのだ。
公爵は巷で威厳のあり賢い人と謳われてきたが、娘の前では公爵をやめろとデモが起きても仕方がないくらいにバカだと言われている。
例えば、マリアンヌの髪が一本抜けるとお医者様を呼べと馬鹿騒ぎし、マリアンヌが物を失くすとその無くした物必ず探し出し、目の前にもってこいと命令するらしい。マリアンヌを困らせた物は全て燃やし尽くすためだとか。
娘のためならなんでもする「狂人的な親バカ」なのだ。
これも最初からこうだったのではなく、マリアンヌの母が彼女の幼少期に亡くなってしまってからだという。
「おい、嬢ちゃん!そのふりふりしたやつどこで買ったんだ?俺にも教えてくれよ…!」
1人のガタイのいい男がすごく嬉しそうな笑顔でマリアンヌに話しかけてきた。
マリアンヌは一瞬ギョッとしたが、一つ疑問になり質問した。
「それを知ってどうするの?これは、貴方にはちょっと…」
そういい、私はその男の筋肉しかない頭から爪先まで見下ろし、ハハハと少し苦笑いした。
その男は私が笑いかけたと勘違いしたのかその男も二ヒヒと笑った。
「違うよお嬢ちゃん、アントニスは恋人にあげるつもりなんだよ。」
近くにいた男が声を上げた。
このふりふりを欲しがっている男の名はアントニスというらしい。
「そういえば、そろそろ恋人が戻ってくるはずなんだが…」
そう言い、辺りをキョロキョロと見渡したアントニス。
「あっ来た…!」
そういい目を輝かせたアントニスの視線の先には驚くべき光景が広がっていた。
「えっっ」
マリアンヌは思わずその人を見るなり二度見をしてしまう。
なんとそこには、アントニスと似たようなガタイがよく、ツルピカな頭には小さなリボンをつけた男がいるではないか!
「もしかして…」
「あぁそうだ!こいつが俺の恋人さ」
そう誇らしげにアントニスは言い、その恋人やらと2人で顔を見合わせ、筋肉男達は恥ずかしそうにモジモジと顔を赤くした。
だが何やらマリアンヌの様子がおかしい。
俯いてプルプルと震えている。
「お、お嬢ちゃん、大丈夫か?」
そういい恐る恐るアントニスが近寄るとマリアンヌばっと勢いよく顔をあげ、アントニスの手をがっしりと掴んだ。
「なんで素敵なのかしらっ…!」
「えっ…えっ?!」
ガタイの大きい男達がざわつくのもお構いなしに、マリアンヌはウルウルとした目で彼の手を握り、興奮のあまりアントニスの手をぶんぶんと振った。アントニスは驚きのあまりよろけてしまう。
「私、お二人の恋、とても素敵だと思うわっ!お話で読んだの…!一人の男が友達の男に恋をしてしまって、葛藤の末愛を告白するっ…まさに禁じられた恋ねっ…!」
そういいマリアンヌは一人でぴょんぴょんと飛び跳ね、アントニスとその恋人を羨望の眼差しで見つめた。
さっきまで何も喋らずツンとしていたお嬢様に何があったのかと男達は動揺する。
だがそれも無理はないだろう。マリアンヌは超がつくほどの夢想家なのだ。
過保護すぎる父に育てられたせいか、あまり外出はせず家の中で本ばかり読む生活をしていたら、恋愛小説やBL小説にどハマりしてしまった公爵令嬢様。
「よく分からないが…ありがとう…!俺たちのことを最初からよく思ってくれる人は少ないんだ…君はいい人だな…!」
そういいガハハハと笑いまたアントニスもぶんぶんと嬉しそうにマリアンヌの手をふった。
「じゃあ特別に、ブティックを教えてあげなくもないわっ」
そういい、すっかりとご機嫌になったマリアンヌは、男達に向かってブティックのプレゼンを始めたのであった。
怖さなどもうとっくにどこかへ消え、マリアンヌの瞳はキラキラと輝きみるみる笑顔になってゆく。興奮しきったマリアンヌは、椅子の上に立ち上がりまるで演説かのように話し始めた。男達はまるで小さな子供になったかのように、未知の世界の話をお利口さんで聞いている。
あまりに白熱したせいか、乗っている椅子がおんぼろ椅子だったこともマリアンヌは忘れていた。
ガタンっ
その音がなったかと思えば、椅子の足は折れ、マリアンヌは一瞬宙に浮いたのだった。
思わずマリアンヌは目をぎゅっとつぶり身構えた。このままではお尻が真っ赤になりしばらくは立てないだろうと諦めていたその時だった。
何かにぎゅっと受け止められ、マリアンヌは思わず声を出す。お尻が痛くない事に歓喜して目を開けると、そこには今まで見たことのないくらいの美しい美男子の顔があった。
「イケ…メン…」
まるで、恋愛小説から出てきた王子様みたいだとマリアンヌは目をハートにして彼に見惚れていた。これがもしや、マリアンヌにも訪れた運命の出会いなのだろうかと。だが、彼の心痛な一言でそのムードは台無しになった。
「重い」
彼は満面の笑みでマリアンヌをみて一言そう言い放った。マリアンヌは、表情と言ってることが違いすぎて聞き間違えかと顔を顰める。
「この子は聞こえないのか、重い」
またイケメンスマイルで私にそう言った。
いくらなんでもレディに対してそんな直球な言葉はないだろう。マリアンヌは腹を立てたが、必死に自分を抑えた。
あぁこの人は笑いながら怒るタイプの人なのだろうとマリアンヌは気まずそうに彼の腕からするっと飛び降りた。
「あ、ありがとう受け止めてくれて…」
一応お礼を言うのが礼儀かと思いそう言ったが次の言葉でマリアンヌは言ったことを酷く後悔した。
「何かとんできたから、身の安全のため掴んだだけだ」
まるで物のようないいようをする彼にマリアンヌは今にも殴りかかりそうな目でおほほほと睨みつけてやった。だが、彼はまんざらでもない顔をしている。それがまたマリアンヌの心を煮え繰り返す。彼がイケメンという気持ちを脳内でゴミ箱に捨て、マリアンヌが彼を本当に一発殴ってやろうかと思ったその時だった。
さっきまで一緒に騒いでいた男達が嘘のように静かになり縮こまっている。
「ご主人様、いらっしゃいましたか…」
そういい男どもはペコペコと頭を下げた。
さっきの威勢はどこへ行ったのだろうか、まるで小さな雛鳥のようだ。
「何やら楽しそうだったな」
そのイケメンな男が相変わらず微笑みながらそう言った。するとでかい男達はざわつき一人が口を開く。
「いいえ、お客様と個人的に仲良くするなど滅相もございません…」
いかつい男のうちの一人がそう言うと、マリアンヌはきぃっとそいつ顔を睨みつけてやった。
こんないかつい男がひょろい男にこんな怯えるなんて、やっぱり人は見た目によらずねとマリアンヌ一人で納得していた。
「それでお嬢さん、今日はどう言った取引で?」
そう言いイケメン顔の男が不思議そうに私の答えを待っていた。マリアンヌはよく分からず周りを見渡すが、いかつい男達もまた同じように不思議そうに私の答えを待っている。だが、マリアンヌの頭の中ははてなだらけ。取引とは一体何の事だろうか。そういえば…
「ここどこ!?そんでもって、貴方は誰よ…?!」
一気に忘れていた疑問がマリアンヌの頭の中にどっと流れ出した。
男達との話に夢中になっていた彼女は、肝心な事を忘れていたのだ。
「ここが何処かもわからずに来ただと…?」
そうイケメンは顔を顰めふっと笑った。
「まぁいいだろう。合言葉を知っているお嬢さんだ。あらためて自己紹介しよう。俺は、ここの主人のカイルードだ。ようこそギルドへ」
そう言ってカイルードは、マリアンヌに握手を求め手を差し出した。
だが、マリアンヌはイケメンに握手を求められていることなど今は眼中に無かった。
「へっ…?今ここが何処って…ギ…ギ…」
マリアンヌがオロオロしていると、一人のいかつい男がマリアンヌに声をかけた。
「お嬢ちゃん、ここはギルドだぜ?」
「ギ…ギルドおおおおお?!」
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