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①アカウント名:新人記者よち子
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①アカウント名:新人記者よち子
新人記者よち子@yochiyochiko
短い間でしたがお世話になりました。今日をもってこのアカウントを閉鎖します。
21:02 2022/08/10 Twitter for iPhone
また1人の匿名記者が死ぬ。
フォロワー数1069。享年3ヶ月。よちよち歩きの赤ちゃんカルガモのイラストアイコン。全国紙勤務の新人女性記者。5月に地方支局へ配属された直後、ツイッターアカウントを開設し、その後、急速にフォロワーを増やしてきた。
〈記者の仕事がこんなにも大変だとは思いませんでした〉
〈最近は、辛くて辞めることばかりを考えています〉
ネガティブなツイートが中心。だが、ガラス細工のような繊細さを秘めたツイートは、どこか守ってあげたいという人間の欲望をかき立てる。現に男性記者達からの返信は多かった。
〈初めは誰もが通る道です。そういう私も……〉
〈新人記者は怒られるのが仕事です。私も初配属の○○支局では……〉
自らの回想シーンを織り交ぜて、巧みにマウントを取りつつ、中年・中堅記者たちはよち子を慰め続けた。ツイートの度にフォロワー数は伸びていった。
〈わ~い。今度の夏休みに彼氏が遊びに来てくれることになりましたぁ。それを楽しみに今はお仕事頑張ってま~す〉
そんな惚気《のろけ》ツイートを投稿した際には、なんと1000いいねを獲得した。
記者業務よりもプライベートネタの方が反応が良いと味を占めたのか?その後、よち子は自らの日常を積極的に晒すようになった。
ネイルやファッション、美容関連の写真付きツイート……一人の女の子としての日常。それは、おしゃれ好きな普通の女の子が、新聞社という前時代的な組織に入社して苦悩するというストーリーをより際立たせた。
カルガモではなく、さながら特別天然記念物のトキ。皆が手厚く丁重に保護していた……はずだったが。
〈この写真のネイルとペディキュアは、私が数年前に投稿したものです。この「新人記者よち子」なるアカウントは、私に許可もなく、しかも写真をまるで自分で撮影したかのように使っています。〉
某•自称読者モデルの引用リツイートは瞬く間にツイッター内で広がった。新人記者よち子のほのぼのストーリーに、ドス黒い疑惑を運んできたのだ。
ファンが多かった分、アンチが増えるのも早かった。
〈ずっと思っていたけど、このよち子って典型的なおじさん構文だよね?〉
〈そもそもさ、今時の若い子がこの絵文字や顔文字を使うか笑〉
〈この子、本当に新人記者?明らかにネカマじゃない?〉
〈おいおい……おじさん記者がおじさん記者を必死に励ましてたってこと?地獄絵図かよ。〉
それから、よち子の更新はピタリと止まった。
森羅万象。生きとし生けるもの。日々、匿名記者アカウントは生まれては消える。
〈短い間でしたがお世話になりました。今日をもってこのアカウントを閉鎖します。〉
一連の騒動から1週間後の8月10日。久しぶりのツイートは別れの呟きだった。メッセージを1時間ほど晒して、十分に拡散されたのを確認した22時。よち子アカウントの持ち主は今、鼻から息をスッと吐き出した。口角は上がり、歪な笑みを象っていた。
「大丈夫。またすぐに生まれ変われるから」
自分自身に言い聞かせるようにそう呟いてから、アカウント削除ボタンを押す。その瞬間、新人記者よち子はツイッターの世界から昇天したのである。
新人記者よち子@yochiyochiko
短い間でしたがお世話になりました。今日をもってこのアカウントを閉鎖します。
21:02 2022/08/10 Twitter for iPhone
また1人の匿名記者が死ぬ。
フォロワー数1069。享年3ヶ月。よちよち歩きの赤ちゃんカルガモのイラストアイコン。全国紙勤務の新人女性記者。5月に地方支局へ配属された直後、ツイッターアカウントを開設し、その後、急速にフォロワーを増やしてきた。
〈記者の仕事がこんなにも大変だとは思いませんでした〉
〈最近は、辛くて辞めることばかりを考えています〉
ネガティブなツイートが中心。だが、ガラス細工のような繊細さを秘めたツイートは、どこか守ってあげたいという人間の欲望をかき立てる。現に男性記者達からの返信は多かった。
〈初めは誰もが通る道です。そういう私も……〉
〈新人記者は怒られるのが仕事です。私も初配属の○○支局では……〉
自らの回想シーンを織り交ぜて、巧みにマウントを取りつつ、中年・中堅記者たちはよち子を慰め続けた。ツイートの度にフォロワー数は伸びていった。
〈わ~い。今度の夏休みに彼氏が遊びに来てくれることになりましたぁ。それを楽しみに今はお仕事頑張ってま~す〉
そんな惚気《のろけ》ツイートを投稿した際には、なんと1000いいねを獲得した。
記者業務よりもプライベートネタの方が反応が良いと味を占めたのか?その後、よち子は自らの日常を積極的に晒すようになった。
ネイルやファッション、美容関連の写真付きツイート……一人の女の子としての日常。それは、おしゃれ好きな普通の女の子が、新聞社という前時代的な組織に入社して苦悩するというストーリーをより際立たせた。
カルガモではなく、さながら特別天然記念物のトキ。皆が手厚く丁重に保護していた……はずだったが。
〈この写真のネイルとペディキュアは、私が数年前に投稿したものです。この「新人記者よち子」なるアカウントは、私に許可もなく、しかも写真をまるで自分で撮影したかのように使っています。〉
某•自称読者モデルの引用リツイートは瞬く間にツイッター内で広がった。新人記者よち子のほのぼのストーリーに、ドス黒い疑惑を運んできたのだ。
ファンが多かった分、アンチが増えるのも早かった。
〈ずっと思っていたけど、このよち子って典型的なおじさん構文だよね?〉
〈そもそもさ、今時の若い子がこの絵文字や顔文字を使うか笑〉
〈この子、本当に新人記者?明らかにネカマじゃない?〉
〈おいおい……おじさん記者がおじさん記者を必死に励ましてたってこと?地獄絵図かよ。〉
それから、よち子の更新はピタリと止まった。
森羅万象。生きとし生けるもの。日々、匿名記者アカウントは生まれては消える。
〈短い間でしたがお世話になりました。今日をもってこのアカウントを閉鎖します。〉
一連の騒動から1週間後の8月10日。久しぶりのツイートは別れの呟きだった。メッセージを1時間ほど晒して、十分に拡散されたのを確認した22時。よち子アカウントの持ち主は今、鼻から息をスッと吐き出した。口角は上がり、歪な笑みを象っていた。
「大丈夫。またすぐに生まれ変われるから」
自分自身に言い聞かせるようにそう呟いてから、アカウント削除ボタンを押す。その瞬間、新人記者よち子はツイッターの世界から昇天したのである。
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