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⑨アカウント名:ライティングマシーン
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「あっ、良かった!森藤さんなら、この時間もまだ支局に残っているんじゃないかなって思いまして」
宇都宮支局の部屋の隅。自席で私用スマホをいじっていた森藤は、ハッとして顔を上げる。
相向かいの空席に、尾崎海斗《おざき・かいと》が立っていた。県警記者クラブ所属の3年目記者。今朝の朝刊で訂正が発覚して、東京本社に謝罪行脚の旅に出ていた。県警記者クラブに16時に戻ってから、今まで仕事をしていたらしい。机上の電波時計に目をやる。既に日付は20日に変わり、0時半を示していた。
ライティングマシーン@Writing-Machine222
朝4時に上司にミスを報告。「厄介ごとを押し付けちまって悪かったな。お前のせいじゃない。これからも気にせず、どんどん原稿書いてくれ」その言葉に思わず落涙。この人が上司で本当に良かった。ずっと、ついていきたい。
16:33 2022/08/19 Twitter for iPhone
「あの……江藤キャップから、今日は森藤さんが県警記者クラブの応援に来てくれたって聞きました。私の代わりに、色々とカバーしていただいて、ありがとうございました。これ、つまらないものですが……」
そう言って、向かいの席から東京駅で買ったらしい土産を手渡してきた。
「そんな、気にしなくて良いのに……」
そう言った森藤に尾崎は返す。
「いや、ちょっと、森藤さんとお話したいこともありましたし」
その微妙なニュアンスに、森藤の眉が微かに反応する。
「俺と?」
ーこんな深夜に一体何の話だ?
「ここ、座らせてもらいますね」
了承もしていないのに、向かいの席に尾崎は座った。
ライティングマシーン@Writing-Machine222
今の時代、始末書なんて電子化できるのに、わざわざ本社まで上がらせる。しかも、万年筆で書かせて、書き損じたら一から書き直し。新聞社は考え方が古過ぎるよ。時間が本当にもったいない。
23:33 2022/08/19 Twitter for iPhone
この時間、支局員は森藤と尾崎の他には誰もいない。蛍光灯も森藤の上しかついていない。ジジジと苦しそうな音を出し、何とか森藤を照らしていた。
森藤の席は、日中でも陽光を浴びることはないし、出口からも遠い。何だかカビ臭くもある。だが、この角の席が森藤は好きだ。無論、理由は誰からもスマホを覗かれる心配がないからだ。だから、自ら選んだ。
「鳥山《とりやま》は、彼氏と那須でバカンス中ですか……」
尾崎が発する。その口の端が微かに上がっていた。
森藤の目の前の席。まさに今、尾崎が座っているのは新人記者の鳥山楓《とりやま・かえで》の席だ。尋木とともに、5月に宇都宮支局に配属されてきた新人女性記者だ。
「来週の月曜まで1週間の夏休みだってさ。そのほぼ全日程を彼氏と過ごすなんて、ホントに若いよな」
ーこんな雑談をするためにこいつはここに来たのか?
そんなことを思いつつ、森藤は笑みを作って返す。
「ねー、森藤さん……」
その瞬間、尾崎がぐいと前傾姿勢になる。それから言葉をゆっくりと吐き出す。
「先日、ツイッターから消えて話題になってた〈新人記者よち子〉って、この鳥山のことなんでしょう?そして、そのアカウントの中の人は……森藤さん、あなただったんですよね?」
その瞬間、森藤の心臓がバクンと跳ね上がる。卓上スタンドに照らされた尾崎の顔は、後輩とは思えぬ凄みがあった。
「……」
森藤は言葉が返せない。
「あと、これも……あなたのアカウントですよね?」
何か言葉を発しようともがく森藤の眼前に、スマホ画面が突き出された。その画面を見た瞬間、ハッとする。
〈ライティングマシーン@Writing-Machine222〉
そこには、そのアカウント名が表示されていた。
「あんた、俺に扮して、ずっと呟いていただろう⁉︎」
尾崎の言葉に凄みが増す。森藤には今、目の前の県警記者クラブの若手記者が本物の刑事に見えた。
宇都宮支局の部屋の隅。自席で私用スマホをいじっていた森藤は、ハッとして顔を上げる。
相向かいの空席に、尾崎海斗《おざき・かいと》が立っていた。県警記者クラブ所属の3年目記者。今朝の朝刊で訂正が発覚して、東京本社に謝罪行脚の旅に出ていた。県警記者クラブに16時に戻ってから、今まで仕事をしていたらしい。机上の電波時計に目をやる。既に日付は20日に変わり、0時半を示していた。
ライティングマシーン@Writing-Machine222
朝4時に上司にミスを報告。「厄介ごとを押し付けちまって悪かったな。お前のせいじゃない。これからも気にせず、どんどん原稿書いてくれ」その言葉に思わず落涙。この人が上司で本当に良かった。ずっと、ついていきたい。
16:33 2022/08/19 Twitter for iPhone
「あの……江藤キャップから、今日は森藤さんが県警記者クラブの応援に来てくれたって聞きました。私の代わりに、色々とカバーしていただいて、ありがとうございました。これ、つまらないものですが……」
そう言って、向かいの席から東京駅で買ったらしい土産を手渡してきた。
「そんな、気にしなくて良いのに……」
そう言った森藤に尾崎は返す。
「いや、ちょっと、森藤さんとお話したいこともありましたし」
その微妙なニュアンスに、森藤の眉が微かに反応する。
「俺と?」
ーこんな深夜に一体何の話だ?
「ここ、座らせてもらいますね」
了承もしていないのに、向かいの席に尾崎は座った。
ライティングマシーン@Writing-Machine222
今の時代、始末書なんて電子化できるのに、わざわざ本社まで上がらせる。しかも、万年筆で書かせて、書き損じたら一から書き直し。新聞社は考え方が古過ぎるよ。時間が本当にもったいない。
23:33 2022/08/19 Twitter for iPhone
この時間、支局員は森藤と尾崎の他には誰もいない。蛍光灯も森藤の上しかついていない。ジジジと苦しそうな音を出し、何とか森藤を照らしていた。
森藤の席は、日中でも陽光を浴びることはないし、出口からも遠い。何だかカビ臭くもある。だが、この角の席が森藤は好きだ。無論、理由は誰からもスマホを覗かれる心配がないからだ。だから、自ら選んだ。
「鳥山《とりやま》は、彼氏と那須でバカンス中ですか……」
尾崎が発する。その口の端が微かに上がっていた。
森藤の目の前の席。まさに今、尾崎が座っているのは新人記者の鳥山楓《とりやま・かえで》の席だ。尋木とともに、5月に宇都宮支局に配属されてきた新人女性記者だ。
「来週の月曜まで1週間の夏休みだってさ。そのほぼ全日程を彼氏と過ごすなんて、ホントに若いよな」
ーこんな雑談をするためにこいつはここに来たのか?
そんなことを思いつつ、森藤は笑みを作って返す。
「ねー、森藤さん……」
その瞬間、尾崎がぐいと前傾姿勢になる。それから言葉をゆっくりと吐き出す。
「先日、ツイッターから消えて話題になってた〈新人記者よち子〉って、この鳥山のことなんでしょう?そして、そのアカウントの中の人は……森藤さん、あなただったんですよね?」
その瞬間、森藤の心臓がバクンと跳ね上がる。卓上スタンドに照らされた尾崎の顔は、後輩とは思えぬ凄みがあった。
「……」
森藤は言葉が返せない。
「あと、これも……あなたのアカウントですよね?」
何か言葉を発しようともがく森藤の眼前に、スマホ画面が突き出された。その画面を見た瞬間、ハッとする。
〈ライティングマシーン@Writing-Machine222〉
そこには、そのアカウント名が表示されていた。
「あんた、俺に扮して、ずっと呟いていただろう⁉︎」
尾崎の言葉に凄みが増す。森藤には今、目の前の県警記者クラブの若手記者が本物の刑事に見えた。
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