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第二話
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生徒Aが一通り話し終えると、今度は無条さんが説明を始めた。
「ちなみに、試の主なルールは6つくらいあるんだよ。一つ目は、さっき説明した通り、各クラス内での競争、ということ。二つ目は、二人一組で、各クラス16組という構成で試を行う、ということ。そして三つ目は、その16組の中から抽選して、2組ずつの『TEAM』というもの……つまり、対闘相手をつくって1試合のみ行う、ということ。で、抽選方法はあみだくじなの。平等でしょ?」
「うん……」
本当にそうだろうか、と思いつつもとりあえず適当に返事をしておく。こういう厳格なルールで定められた試なのだから、まさか不正をはたらくことは不可能であろうと思う反面、厳しいがゆえに何らかの方法で不正をしようとする者がいてもおかしくはない、というのが僕の了見だった。
「で、四つ目は、対闘に勝利する条件は自分たちの相手『TEAM」のHPを0%にする、ということ」
「HPって何なの……?」
僕は感情のこもらない声で質問する。
「HPっていうのは、『精神ダメージ測定器(Spiritual Damage Judgmental)』略して『SDJ』というもので計測される、心理状態の変化の度合いのこと。『SDJ』は、対闘開始直前に自分の頭につける装置のことで、HP100%っていうのは、装着時の心理状態を表しているの。つまり、相手の感情をいかに揺さぶり、装着時とかけ離れた心理状態、HP0%にするか、というのが対闘の決着条件の一つなの」
「一つってことは、他にも条件があるの……?」
「そうだよ。もう一つの決着条件は、対闘が始まってから一時間たっても、どちらの組も全滅しなかったとき。このときは引き分け、となるの。まぁ、こんなことはめったにないけど、こうなると手に入れられるポイント、通称『FP』が少なくなってしまうの。つまり、上位には入りにくい、ということになるの」
「『FP』ってなに……」
僕が知らない言葉が次々と並べられていく中で、一つずつ整理しながら自分の中に落とし込んでいく。
「順を追って説明するね。五つ目は、順位付けについて。対闘は二人一組で行うよね。二人で相談して、その試合でどちらが『プレイヤー』で、どちらが『サポーター』かを決める。サポーターは、勝ち負けに関係なく、プレイヤーを支援した活躍度合いに応じて『SP』があたえられるの。で、プレイヤーにはさっき話した『FP』っていうのが与えられる。『FP』の得点基準は、開始から決着までにかかった時間と、その対闘で使用した『手法』、そして決着時の自分の残りHPの総合得点を用いるの。そして、各クラスで8試合が消化された時点で最もFPが高かったプレイヤーが1位、二番目に高かったプレイヤーが2位……という風に最終順位が決まるの」
そこまで説明を受けて、僕はあることに気づく。
「それって……、サポーターは昇格できないってこと……?」
「実は、昇格の方法はもう一つあって、それは、最も優秀だったサポーターに与えられる『MVSP』という特別昇格枠に選ばれること。『MVSP』をもらえるのは、各ランクの中で最も『SP』が高かった1名のみだけなの。ちなみに、昇・降格するのは、上・下位3人のプレイヤーだけだから、サポーターは降格しないっていうのも『試』の特徴なの」
彼女の詳しい説明を受けて少しずつ理解していく僕。彼女の話が進むにつれて、僕はどんどんと次の日曜日が待ち遠しくなってくるのを自覚する。
「で、さっきの話で出てきた『手法』の説明が六つ目。私たちが使用できる『手法』の条件は、『相手を殺傷してはいけない』というものだけなの」
「えっ……?」
僕は驚きをあらわにする。そりゃそうだろう。対闘で使えるのは「相手を殺傷できる」ものも含まれるのだから。つまり───
「刀や銃を、対闘に持ち込むのもOK、ということ。だから、これらの武器……とみなされるものを持ち込んだ場合は、手法の得点はあまり大きくならないの。裏を返すと、道具を持ち込まない、生身の人間の体だけで闘う手法が最も高い配点を得られるの。もっとも、私は今までにそんな生徒見たことないけどね」
まぁそうだろう、と僕は納得するわけがなく、むしろその裏をかいてやるのだ、と僕の闘争心に火が付いたところで彼女―――無条さんが僕にお誘いを持ちかけてくれた。
「でね、光地之くん。私とペアにならない?」
僕の心に迷いはなかった。
「もちろん……、よろしく……」
と、勢い込みながらも、あくまで「貧弱な光地之」のまま返答した。
「よーし。じゃあ、プレイヤーかサポーターどっちがいい?まぁ、初心者にはサポーターがおすす───」
「プレイヤーで」
僕ははっきりと言い切った。彼女の言葉を遮ってまで僕がそれを選んだ理由は直感───ではなく、僕の「唯一のもの」を最大限に活かすためだった。だが、そんなことは知らない彼女は、僕の発言に驚いて目をぱちぱちさせていた。
「えっ……、まじ……?初陣は二日後だよ?」
「うん。じゃあ無条さん、サポーター頼んだよ?」
「えっ、あぁ、うん」
僕は困惑する無条さんを置いて、自分の席へと戻っていった。
にしても、話す場所が悪すぎた、と僕はすぐに気づく。みんながいる教室のど真ん中で、転入初日の僕は少し出しゃばりすぎた。今この瞬間から僕は、無条さん以外のこのクラスの生徒たちを敵に回してしまった。
あぁ、また僕は一つ失敗した。
「ちなみに、試の主なルールは6つくらいあるんだよ。一つ目は、さっき説明した通り、各クラス内での競争、ということ。二つ目は、二人一組で、各クラス16組という構成で試を行う、ということ。そして三つ目は、その16組の中から抽選して、2組ずつの『TEAM』というもの……つまり、対闘相手をつくって1試合のみ行う、ということ。で、抽選方法はあみだくじなの。平等でしょ?」
「うん……」
本当にそうだろうか、と思いつつもとりあえず適当に返事をしておく。こういう厳格なルールで定められた試なのだから、まさか不正をはたらくことは不可能であろうと思う反面、厳しいがゆえに何らかの方法で不正をしようとする者がいてもおかしくはない、というのが僕の了見だった。
「で、四つ目は、対闘に勝利する条件は自分たちの相手『TEAM」のHPを0%にする、ということ」
「HPって何なの……?」
僕は感情のこもらない声で質問する。
「HPっていうのは、『精神ダメージ測定器(Spiritual Damage Judgmental)』略して『SDJ』というもので計測される、心理状態の変化の度合いのこと。『SDJ』は、対闘開始直前に自分の頭につける装置のことで、HP100%っていうのは、装着時の心理状態を表しているの。つまり、相手の感情をいかに揺さぶり、装着時とかけ離れた心理状態、HP0%にするか、というのが対闘の決着条件の一つなの」
「一つってことは、他にも条件があるの……?」
「そうだよ。もう一つの決着条件は、対闘が始まってから一時間たっても、どちらの組も全滅しなかったとき。このときは引き分け、となるの。まぁ、こんなことはめったにないけど、こうなると手に入れられるポイント、通称『FP』が少なくなってしまうの。つまり、上位には入りにくい、ということになるの」
「『FP』ってなに……」
僕が知らない言葉が次々と並べられていく中で、一つずつ整理しながら自分の中に落とし込んでいく。
「順を追って説明するね。五つ目は、順位付けについて。対闘は二人一組で行うよね。二人で相談して、その試合でどちらが『プレイヤー』で、どちらが『サポーター』かを決める。サポーターは、勝ち負けに関係なく、プレイヤーを支援した活躍度合いに応じて『SP』があたえられるの。で、プレイヤーにはさっき話した『FP』っていうのが与えられる。『FP』の得点基準は、開始から決着までにかかった時間と、その対闘で使用した『手法』、そして決着時の自分の残りHPの総合得点を用いるの。そして、各クラスで8試合が消化された時点で最もFPが高かったプレイヤーが1位、二番目に高かったプレイヤーが2位……という風に最終順位が決まるの」
そこまで説明を受けて、僕はあることに気づく。
「それって……、サポーターは昇格できないってこと……?」
「実は、昇格の方法はもう一つあって、それは、最も優秀だったサポーターに与えられる『MVSP』という特別昇格枠に選ばれること。『MVSP』をもらえるのは、各ランクの中で最も『SP』が高かった1名のみだけなの。ちなみに、昇・降格するのは、上・下位3人のプレイヤーだけだから、サポーターは降格しないっていうのも『試』の特徴なの」
彼女の詳しい説明を受けて少しずつ理解していく僕。彼女の話が進むにつれて、僕はどんどんと次の日曜日が待ち遠しくなってくるのを自覚する。
「で、さっきの話で出てきた『手法』の説明が六つ目。私たちが使用できる『手法』の条件は、『相手を殺傷してはいけない』というものだけなの」
「えっ……?」
僕は驚きをあらわにする。そりゃそうだろう。対闘で使えるのは「相手を殺傷できる」ものも含まれるのだから。つまり───
「刀や銃を、対闘に持ち込むのもOK、ということ。だから、これらの武器……とみなされるものを持ち込んだ場合は、手法の得点はあまり大きくならないの。裏を返すと、道具を持ち込まない、生身の人間の体だけで闘う手法が最も高い配点を得られるの。もっとも、私は今までにそんな生徒見たことないけどね」
まぁそうだろう、と僕は納得するわけがなく、むしろその裏をかいてやるのだ、と僕の闘争心に火が付いたところで彼女―――無条さんが僕にお誘いを持ちかけてくれた。
「でね、光地之くん。私とペアにならない?」
僕の心に迷いはなかった。
「もちろん……、よろしく……」
と、勢い込みながらも、あくまで「貧弱な光地之」のまま返答した。
「よーし。じゃあ、プレイヤーかサポーターどっちがいい?まぁ、初心者にはサポーターがおすす───」
「プレイヤーで」
僕ははっきりと言い切った。彼女の言葉を遮ってまで僕がそれを選んだ理由は直感───ではなく、僕の「唯一のもの」を最大限に活かすためだった。だが、そんなことは知らない彼女は、僕の発言に驚いて目をぱちぱちさせていた。
「えっ……、まじ……?初陣は二日後だよ?」
「うん。じゃあ無条さん、サポーター頼んだよ?」
「えっ、あぁ、うん」
僕は困惑する無条さんを置いて、自分の席へと戻っていった。
にしても、話す場所が悪すぎた、と僕はすぐに気づく。みんながいる教室のど真ん中で、転入初日の僕は少し出しゃばりすぎた。今この瞬間から僕は、無条さん以外のこのクラスの生徒たちを敵に回してしまった。
あぁ、また僕は一つ失敗した。
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