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第一作戦 千葉防衛
04
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久々に感じる銃の反動。
懐かしい気もするけど、最近のような気もする不思議な感覚。
「少しは離したけど……」
加賀谷がちょっかいを出せば、デドリィは大きな魔力に、今まで相手にしていた第三中隊を無視し、加賀谷を追いかけてきた。
完全に餌扱いだ。だが、傷ついた中隊を逃がすには、これが最善だっただろう。
「とはいえ」
この場所で、全力で戦うわけにはいかない。
ここは、復興中の県境。かつて、デドリィの侵攻に遭い、ようやくその残渣を除去し、人が住み始めた場所だ。
魔力を放出しすぎて、凍土にしていいものでもない。
前とは違う戦い。丁寧に、周りを見ながら。
――あぁ、重いなぁ。
腕に収まる銃の重さに、音もなくため息をついた。
*****
「選定基準の理由?」
契約魔導士の部隊の志願者を募集していると聞いて、食いついた魔導士は多い。無論、その試験は厳しいものとなる。
射撃の腕、体力、気力はもちろんだが、特出して気になったのは、機動力の試験。
他の技術に比べて、難易度は高く、契約魔導士の部隊に志願した魔導士のほとんどが、この機動力の試験で落ちた。
「それはな」
夏目准将の答えた言葉に、当時の自分は理解できていなかった。
『アイツ止められる奴が必要だからな』
あの時は、契約魔導士の足を引っ張らない兵を選んでいるのだと思った。戦闘技術ではなく、機動力で。
だからこそ、止められるという意味が分からなかった。
契約魔導士をどうして、止めなければいけない? 共に戦う仲間を、先陣を切る彼らをどうして、止める必要があるのか。
だが、今、わかった。
飛び立った、あの小さな弱気だった彼女。
たった一人で、あの怪物と戦うつもりで、俺たちを巻き込まないように。
勇ましい、その姿は、自分たちが想像する契約魔導士だ。
だが、だが、彼女は――
「動ける隊員で隊を再編! 再編後、隊長のフォローに向かう!!」
自分の事が見えていない。
動ける隊員とケガを確認していると、ある共通点があった。
*****
視界を覆うように迫ってくる炎の塊。
本来なら、相手より低い位置で受けることが良しとされる攻撃。
なぜなら、デドリィの炎を吐き出す攻撃には、溶岩が含まれ、空気中で冷え固まった溶岩が、別の人間へ降り注ぐからだ。
だが、加賀谷は、デドリィより上空にいた。
しかも、防壁魔術を展開せずに、銃を構えた状態で。
「……」
一度目は、坪田たちが巻き込まれた時。
二度目は、定石通り、低い位置で避けた時。
三度目は、今。
保険に防壁魔術を展開するべきだろうか。
大丈夫。きっと、必要ない。
視界が赤一色に染まり、肌が焼けるような熱。
「はぁ……」
大きく息を吐き出せば、その呼吸は白から赤へ染まった。
音を立てて空を焼く炎は、銃弾に切り裂かれ、消えた。
炎が消え、見下ろす先のデドリィに、先程まで存在したはずの腕はなくなっていた。
「やっぱり」
白い息を吐き出す加賀谷は、黒かったはずの髪は氷のように白く、瞳は青白く輝く姿で、何事もなかったように、平然とその場に立っていた。
サイズや魔力量からして、モホロビ級のデドリィであることは間違いない。
だが、モホロビ級の中でも、確実に”弱い”部類だ。
質量を持っていない。
魔力に見合った質量が無く、外殻だけはしっかりしているが、外へ放出するほどの余裕は本来ないのだろう。溶岩を放出すれば、自分が保てなくなる。
通常の魔導士にとって、炎を吐かれるだけでも十分に脅威ではあるが、加賀谷にとって、溶岩の混じっていない炎は、避ける必要すらない攻撃だった。
「単独で、単調」
それなら、もう一方の腕が届かない位置から、コアを撃ち砕く弾丸を撃ち込めばいいだけ。
銃を構え、貫通術式を展開する。
しっかりと、今度はブレない様に。
射撃は、正直、得意ではない。
訓練を受けていた時は、幼すぎて、筋力とか体格とか、いろいろな問題があった。いくつかは魔術で補完できるが、できないものもある。
――普通は魔力を大事にするが、お前は一発に相手を殺せるだけの魔力を詰め込めばいい。
強みで弱さを補填できて、強みが余るのだから、それでいいだろうと笑われた。
疑惑は確証に代わり、心配事はなくなった。
貫通術式に、誘導術式、敵のコアに触れた瞬間、コアを凍り付かせ、砕くだけの魔力を込めて。
デドリィはその魔力に、もう一度口の中に炎を発生させた。
炎を吐かれたところで、周辺の空気を冷やせば、炎の熱は加賀谷を焼くことはできない。
強いて上げるなら、炎で視界が失われるくらいだ。だが、静止射撃に、誘導術式だ。コアの位置を確実に撃てるはず。
「――ぇ゛」
炎で視界が失われる直前、デドリィの残った腕が、落ちた腕を掴み、加賀谷に向かって投げた。
視界を埋める炎の向こうに、確実に迫ってきているはずの元腕の溶岩。
油断してた。
いくら契約魔導士とはいえ、魔術は魔術演算装置MPCのスペック頼りだ。
今からでは防壁術式は、間に合わない。
炎から現れた加賀谷は、デドリィに足を向け、銃口を両足の隙間から出すようにしながら、小さくなっていた。
足に何度か溶岩がぶつかった衝撃はあったが、銃弾で砕いたからか、それほど大きな衝撃ではなかった。
戦闘に問題があるケガにはならずに済んだようだ。
「――――!!!!」
デドリィの雄たけびを聞きながら、加賀谷は体制を立て直す。
部隊の、他人を守りながら戦う戦い方。今まで知らなかったし、これから知らないといけない戦い方。
けど、それをしようとして、この有り様では、契約魔導士としてダメだ。
「やっぱり、難しいなぁ」
瞼を閉じてこぼした言葉は、再び開いた時には消え去る。
握りしめた銃に魔力を回す。倒すのを試すのは終わり。倒そう。
加賀谷がデドリィへ接近しようとした、その時だ。
嫌な音が響いた。
「へ……?」
妙に軽くなった靴底が、暴れ馬のように体を反転させて、地面に突っ込もうとする。
自分の魔力とはいえ、突然、思っていた方向とは別の方向へ視界が回転し、すぐに体制が直せずにいれば、視界に映る赤い影。
どうやら、デドリィも、今が隙と思ったらしい。
赤黒く光る腕が、こちらに迫っていた。
迫る腕へ氷を張ろうとした、その瞬間。
「テェーーッッ!!!」
デドリィの腕を叩き落す、銃弾の雨。
加賀谷が見下ろす先にいたのは、新たに編成し直された第二中隊。
「べぶっ……」
そして、加速しながら地面に叩きつけられそうになっていた加賀谷は、空中で抱きとめられた。
「無事ですね。装備の損傷は……辛うじてコードだけ繋がってる状態か」
久保の言葉に釣られるように、足の装置を見れば、足の裏に固定していたはずの留め具が外れ、魔力供給用のコードが剥き出しで繋がっている。
「あー……」
どうやら、先程の溶岩は、運悪く飛行装置を破壊していたらしい。
確認し終えると、久保は素早く逆さまになっていた加賀谷の体を元に戻す。
「隊長。足のサイズは?」
「24です。え゛?」
突然の質問に、抱えられながら驚いて振り返えれば、久保は第一中隊を見渡している。
首を横に振る隊員の中で、声を上げたひとりがいた。
「自分は25cmですので、一番近いかと」
「仕方ない。包帯詰めてなんとかする」
「なにが!? え!? 靴交換するの!?」
「察しが良くて助かります。この状態では、戦えないでしょう」
今、加賀谷に戦線を離脱されるより、隊員がひとり減ってでも戦ってもらう方が、被害は減る。
高度を落とし始めた久保に、加賀谷は慌てて、壊れた方の足に装備を押し当てる。
「大丈夫です! くっついてれば問題ないです!」
慌てて叫ぶ声に、久保も理解できないように眉をひそめたが、氷で接着された靴と確かに軽くなった体重に、そっと手を離す。
先程までの暴走はなく、しっかりと空中に浮遊している。
本人も、ね? と伺うように小首をかしげていて、久保は眉を顰める。
「壊れたら、作戦に支障が」
「出しません。絶対に」
意見を言うタイプでも、ましてや否定や拒否をすることもせず、困ったように笑うだけだったというのに、今ははっきりと拒否した。
なにより、目が、テコでも動かないと語っていた。
「……わかりました」
意外にも頑固者の加賀谷に、渋々了承する。
「隊長。このモホロビ級は、質量が少ない個体です。おそらく、本体、両腕の形成で限界。魔力の貯蔵は多いですが、熱量からして、核は口の最深部。
まだ群れではなく単体です。群れへ合流する前に、倒す必要があります」
通信で坪田の分析が届く。
加賀谷よりも交戦時間は少なかったはずだが、的確にかつ正確な分析だった。
「腕の届かない距離であれば、脅威は炎のみ。範囲は広いですが、炎を吐いている間、奴は動きません。
ですから、一部隊が注意を引き、その間にもう一部隊が、奴のコアを叩くのが良いと思われます」
「なら、私が注意を引きます」
普通の魔導士は、防壁術式を発動している状態で炎に焼かれても傷を負う。無傷で対処できるのは、加賀谷くらいだ。
とても簡単なリスクの問題。
坪田も頷く。モホロビ級の外壁は貫通術式で貫けるだろう。
だが、あの炎を完全に防げるかと言われれば、不意打ちではない今ですら、完全に防げるかは怪しい。
「では、隊長。お願いします」
「はい」
作戦は決まった。
加賀谷たちが動こうとした時だ。
降りてこない加賀谷たちに、デドリィはまた口の中に炎を貯め始めた。
それと同時に、一回り小さくなる左腕。数人がそれに気が付き、加賀谷は真っ先に急降下し、左腕を切断した。
だが、予想に反し、大きな瞳は加賀谷ではなく、空を睨んでいた。
加賀谷は銃口をその目に向かって構えると、すぐさま引き金を引いた。
目玉の上部が弾け飛ぶ。
その断面は黒く、絶え間なく湯気を上げている。
そして、すぐに黒い断面の一部が、赤く色づき始めた。
デドリィ内で最も熱を持つ、コアだ。
「貫通術式用意!!」
それを見逃す隊員は、ここにはいない。
「目標、モホロビ級デドリィ コア!」
坪田の号令を共に、部隊全員が、銃をコアに向ける。
「撃てェェェエエッッッ!!!」
*****
土埃が晴れると、抉れた目で動かなくなったモホロビ級のデドリィ。
「目標沈黙。魔力消失も確認」
坪田の言葉に、歓喜の声を上げた隊員たち。加賀谷も安心したように、息を吐き出した。
「お前たち、ザコはまだ片付いていないぞ。気を抜くな。これより、掃討戦に移行します。隊長、よろしいですね?」
「え、あ、はい」
話を振られると思っていなかった加賀谷は、反射的に頷いてしまったが、内容そのものは特に間違っていることでもない。
「でしたら、私も手伝いま、す……?」
ここでわざわざ断る理由も、帰れと言われる理由もないだろう。むしろ、このまま強敵倒したから、ザコに興味ないと去るのもどうかと思う。
そう思い、提案したのだが、言い終わる前、妙な音が聞こえた。足元から。
とてつもない嫌な予感に、足を見れば凍りついたままの靴。
壊れていない。
だが、浮力が消えた。
「うわぁぁぁ!? ダメだったァ!!」
魔力のコードが切れた。
いくら精霊と契約したところで、空は飛べない。
契約している精霊次第では飛べるのもいるが、少なくとも加賀谷は飛べない。
「隊長!?」
坪田の慌てた声とすぐあとに感じた衝撃。
本日二度目の、久保の腕の中だった。
「す、すみません!!」
「パズーの気分ですね」
「すみ、すみま、すみません」
「落ち着いてください。しっかり掴んで。地上に降ります。坪田大尉。隊長の脚部装置が損傷。第一部隊は装備交換後、合流します」
先程とは打って変わり、動揺しながら謝っている加賀谷に、久保は小さく眉をひそめながら、地上へ降りた。
懐かしい気もするけど、最近のような気もする不思議な感覚。
「少しは離したけど……」
加賀谷がちょっかいを出せば、デドリィは大きな魔力に、今まで相手にしていた第三中隊を無視し、加賀谷を追いかけてきた。
完全に餌扱いだ。だが、傷ついた中隊を逃がすには、これが最善だっただろう。
「とはいえ」
この場所で、全力で戦うわけにはいかない。
ここは、復興中の県境。かつて、デドリィの侵攻に遭い、ようやくその残渣を除去し、人が住み始めた場所だ。
魔力を放出しすぎて、凍土にしていいものでもない。
前とは違う戦い。丁寧に、周りを見ながら。
――あぁ、重いなぁ。
腕に収まる銃の重さに、音もなくため息をついた。
*****
「選定基準の理由?」
契約魔導士の部隊の志願者を募集していると聞いて、食いついた魔導士は多い。無論、その試験は厳しいものとなる。
射撃の腕、体力、気力はもちろんだが、特出して気になったのは、機動力の試験。
他の技術に比べて、難易度は高く、契約魔導士の部隊に志願した魔導士のほとんどが、この機動力の試験で落ちた。
「それはな」
夏目准将の答えた言葉に、当時の自分は理解できていなかった。
『アイツ止められる奴が必要だからな』
あの時は、契約魔導士の足を引っ張らない兵を選んでいるのだと思った。戦闘技術ではなく、機動力で。
だからこそ、止められるという意味が分からなかった。
契約魔導士をどうして、止めなければいけない? 共に戦う仲間を、先陣を切る彼らをどうして、止める必要があるのか。
だが、今、わかった。
飛び立った、あの小さな弱気だった彼女。
たった一人で、あの怪物と戦うつもりで、俺たちを巻き込まないように。
勇ましい、その姿は、自分たちが想像する契約魔導士だ。
だが、だが、彼女は――
「動ける隊員で隊を再編! 再編後、隊長のフォローに向かう!!」
自分の事が見えていない。
動ける隊員とケガを確認していると、ある共通点があった。
*****
視界を覆うように迫ってくる炎の塊。
本来なら、相手より低い位置で受けることが良しとされる攻撃。
なぜなら、デドリィの炎を吐き出す攻撃には、溶岩が含まれ、空気中で冷え固まった溶岩が、別の人間へ降り注ぐからだ。
だが、加賀谷は、デドリィより上空にいた。
しかも、防壁魔術を展開せずに、銃を構えた状態で。
「……」
一度目は、坪田たちが巻き込まれた時。
二度目は、定石通り、低い位置で避けた時。
三度目は、今。
保険に防壁魔術を展開するべきだろうか。
大丈夫。きっと、必要ない。
視界が赤一色に染まり、肌が焼けるような熱。
「はぁ……」
大きく息を吐き出せば、その呼吸は白から赤へ染まった。
音を立てて空を焼く炎は、銃弾に切り裂かれ、消えた。
炎が消え、見下ろす先のデドリィに、先程まで存在したはずの腕はなくなっていた。
「やっぱり」
白い息を吐き出す加賀谷は、黒かったはずの髪は氷のように白く、瞳は青白く輝く姿で、何事もなかったように、平然とその場に立っていた。
サイズや魔力量からして、モホロビ級のデドリィであることは間違いない。
だが、モホロビ級の中でも、確実に”弱い”部類だ。
質量を持っていない。
魔力に見合った質量が無く、外殻だけはしっかりしているが、外へ放出するほどの余裕は本来ないのだろう。溶岩を放出すれば、自分が保てなくなる。
通常の魔導士にとって、炎を吐かれるだけでも十分に脅威ではあるが、加賀谷にとって、溶岩の混じっていない炎は、避ける必要すらない攻撃だった。
「単独で、単調」
それなら、もう一方の腕が届かない位置から、コアを撃ち砕く弾丸を撃ち込めばいいだけ。
銃を構え、貫通術式を展開する。
しっかりと、今度はブレない様に。
射撃は、正直、得意ではない。
訓練を受けていた時は、幼すぎて、筋力とか体格とか、いろいろな問題があった。いくつかは魔術で補完できるが、できないものもある。
――普通は魔力を大事にするが、お前は一発に相手を殺せるだけの魔力を詰め込めばいい。
強みで弱さを補填できて、強みが余るのだから、それでいいだろうと笑われた。
疑惑は確証に代わり、心配事はなくなった。
貫通術式に、誘導術式、敵のコアに触れた瞬間、コアを凍り付かせ、砕くだけの魔力を込めて。
デドリィはその魔力に、もう一度口の中に炎を発生させた。
炎を吐かれたところで、周辺の空気を冷やせば、炎の熱は加賀谷を焼くことはできない。
強いて上げるなら、炎で視界が失われるくらいだ。だが、静止射撃に、誘導術式だ。コアの位置を確実に撃てるはず。
「――ぇ゛」
炎で視界が失われる直前、デドリィの残った腕が、落ちた腕を掴み、加賀谷に向かって投げた。
視界を埋める炎の向こうに、確実に迫ってきているはずの元腕の溶岩。
油断してた。
いくら契約魔導士とはいえ、魔術は魔術演算装置MPCのスペック頼りだ。
今からでは防壁術式は、間に合わない。
炎から現れた加賀谷は、デドリィに足を向け、銃口を両足の隙間から出すようにしながら、小さくなっていた。
足に何度か溶岩がぶつかった衝撃はあったが、銃弾で砕いたからか、それほど大きな衝撃ではなかった。
戦闘に問題があるケガにはならずに済んだようだ。
「――――!!!!」
デドリィの雄たけびを聞きながら、加賀谷は体制を立て直す。
部隊の、他人を守りながら戦う戦い方。今まで知らなかったし、これから知らないといけない戦い方。
けど、それをしようとして、この有り様では、契約魔導士としてダメだ。
「やっぱり、難しいなぁ」
瞼を閉じてこぼした言葉は、再び開いた時には消え去る。
握りしめた銃に魔力を回す。倒すのを試すのは終わり。倒そう。
加賀谷がデドリィへ接近しようとした、その時だ。
嫌な音が響いた。
「へ……?」
妙に軽くなった靴底が、暴れ馬のように体を反転させて、地面に突っ込もうとする。
自分の魔力とはいえ、突然、思っていた方向とは別の方向へ視界が回転し、すぐに体制が直せずにいれば、視界に映る赤い影。
どうやら、デドリィも、今が隙と思ったらしい。
赤黒く光る腕が、こちらに迫っていた。
迫る腕へ氷を張ろうとした、その瞬間。
「テェーーッッ!!!」
デドリィの腕を叩き落す、銃弾の雨。
加賀谷が見下ろす先にいたのは、新たに編成し直された第二中隊。
「べぶっ……」
そして、加速しながら地面に叩きつけられそうになっていた加賀谷は、空中で抱きとめられた。
「無事ですね。装備の損傷は……辛うじてコードだけ繋がってる状態か」
久保の言葉に釣られるように、足の装置を見れば、足の裏に固定していたはずの留め具が外れ、魔力供給用のコードが剥き出しで繋がっている。
「あー……」
どうやら、先程の溶岩は、運悪く飛行装置を破壊していたらしい。
確認し終えると、久保は素早く逆さまになっていた加賀谷の体を元に戻す。
「隊長。足のサイズは?」
「24です。え゛?」
突然の質問に、抱えられながら驚いて振り返えれば、久保は第一中隊を見渡している。
首を横に振る隊員の中で、声を上げたひとりがいた。
「自分は25cmですので、一番近いかと」
「仕方ない。包帯詰めてなんとかする」
「なにが!? え!? 靴交換するの!?」
「察しが良くて助かります。この状態では、戦えないでしょう」
今、加賀谷に戦線を離脱されるより、隊員がひとり減ってでも戦ってもらう方が、被害は減る。
高度を落とし始めた久保に、加賀谷は慌てて、壊れた方の足に装備を押し当てる。
「大丈夫です! くっついてれば問題ないです!」
慌てて叫ぶ声に、久保も理解できないように眉をひそめたが、氷で接着された靴と確かに軽くなった体重に、そっと手を離す。
先程までの暴走はなく、しっかりと空中に浮遊している。
本人も、ね? と伺うように小首をかしげていて、久保は眉を顰める。
「壊れたら、作戦に支障が」
「出しません。絶対に」
意見を言うタイプでも、ましてや否定や拒否をすることもせず、困ったように笑うだけだったというのに、今ははっきりと拒否した。
なにより、目が、テコでも動かないと語っていた。
「……わかりました」
意外にも頑固者の加賀谷に、渋々了承する。
「隊長。このモホロビ級は、質量が少ない個体です。おそらく、本体、両腕の形成で限界。魔力の貯蔵は多いですが、熱量からして、核は口の最深部。
まだ群れではなく単体です。群れへ合流する前に、倒す必要があります」
通信で坪田の分析が届く。
加賀谷よりも交戦時間は少なかったはずだが、的確にかつ正確な分析だった。
「腕の届かない距離であれば、脅威は炎のみ。範囲は広いですが、炎を吐いている間、奴は動きません。
ですから、一部隊が注意を引き、その間にもう一部隊が、奴のコアを叩くのが良いと思われます」
「なら、私が注意を引きます」
普通の魔導士は、防壁術式を発動している状態で炎に焼かれても傷を負う。無傷で対処できるのは、加賀谷くらいだ。
とても簡単なリスクの問題。
坪田も頷く。モホロビ級の外壁は貫通術式で貫けるだろう。
だが、あの炎を完全に防げるかと言われれば、不意打ちではない今ですら、完全に防げるかは怪しい。
「では、隊長。お願いします」
「はい」
作戦は決まった。
加賀谷たちが動こうとした時だ。
降りてこない加賀谷たちに、デドリィはまた口の中に炎を貯め始めた。
それと同時に、一回り小さくなる左腕。数人がそれに気が付き、加賀谷は真っ先に急降下し、左腕を切断した。
だが、予想に反し、大きな瞳は加賀谷ではなく、空を睨んでいた。
加賀谷は銃口をその目に向かって構えると、すぐさま引き金を引いた。
目玉の上部が弾け飛ぶ。
その断面は黒く、絶え間なく湯気を上げている。
そして、すぐに黒い断面の一部が、赤く色づき始めた。
デドリィ内で最も熱を持つ、コアだ。
「貫通術式用意!!」
それを見逃す隊員は、ここにはいない。
「目標、モホロビ級デドリィ コア!」
坪田の号令を共に、部隊全員が、銃をコアに向ける。
「撃てェェェエエッッッ!!!」
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土埃が晴れると、抉れた目で動かなくなったモホロビ級のデドリィ。
「目標沈黙。魔力消失も確認」
坪田の言葉に、歓喜の声を上げた隊員たち。加賀谷も安心したように、息を吐き出した。
「お前たち、ザコはまだ片付いていないぞ。気を抜くな。これより、掃討戦に移行します。隊長、よろしいですね?」
「え、あ、はい」
話を振られると思っていなかった加賀谷は、反射的に頷いてしまったが、内容そのものは特に間違っていることでもない。
「でしたら、私も手伝いま、す……?」
ここでわざわざ断る理由も、帰れと言われる理由もないだろう。むしろ、このまま強敵倒したから、ザコに興味ないと去るのもどうかと思う。
そう思い、提案したのだが、言い終わる前、妙な音が聞こえた。足元から。
とてつもない嫌な予感に、足を見れば凍りついたままの靴。
壊れていない。
だが、浮力が消えた。
「うわぁぁぁ!? ダメだったァ!!」
魔力のコードが切れた。
いくら精霊と契約したところで、空は飛べない。
契約している精霊次第では飛べるのもいるが、少なくとも加賀谷は飛べない。
「隊長!?」
坪田の慌てた声とすぐあとに感じた衝撃。
本日二度目の、久保の腕の中だった。
「す、すみません!!」
「パズーの気分ですね」
「すみ、すみま、すみません」
「落ち着いてください。しっかり掴んで。地上に降ります。坪田大尉。隊長の脚部装置が損傷。第一部隊は装備交換後、合流します」
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チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
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