私にかまわないでください

雨夜澪良

文字の大きさ
4 / 38
零章 旅人との出会い

一時の別れ

しおりを挟む
「起きろ、起きて」

 ユースティアの声でアランは目をこする。

 太陽が昇ろうとしていた。普通だったら起きるのには少しばかり早い時間。アランはまだ寝ぼけているのか、ユースティアを再び抱き枕にして目をつぶる。それをユースティアが受け入れるわけもなく……。

「いいから、起きろ。早く戻らないと村人に怪しまれるぞ!」

 寝起きが悪いのかアランはなかなか起きなかった。だからユースティアは魔法で水をアランにかぶせた。

「冷たっ!!」

「やっと起きたか」

「水かけることないじゃんか。ああ、お嬢さんまで濡れちゃってるじゃん。風邪ひくよ? まだ朝は冷えるんだからさ」

「早く、戻れ」

 アランは魔法で水に濡れた自分とユースティアの体を乾かそうとしたがやめた。上にお湯を魔法で出現させる。ユースティアはアランが魔法を使ったことに気づき、上を見る。

「お前、まさか」

「そのまさかだ」

 アランはいたずらを思いついた子供のように、にやりと口角を上げた。

 お湯が二人にバシャバシャと降り注ぐ。降り注いだのはどのくらいか。バケツ一個分どころではない。ユースティアたちの周りが水浸しになる。

「あはは、結構汚れてるな、俺たち」

「悪かったな、二年も牢屋に入っていたもので」

「でもスッキリしたろ? あとは風呂にゆっくり入るんだな」

 暖かい風が二人を包み、濡れた体を乾燥させる。

「……ありがとう」

「どういたしまして。――俺は戻るから。お嬢さんはあの変態男につかまらないように逃げるんだな」

「ああ、いろいろお世話になったな」

 こうして二人は別れた。二人はすぐに会うことになるのだが。





「アラン様、例の物が準備できました」

 アランが宿の自室に戻り、刀を磨いていたときだった。村長の娘が部屋のドアをノックしたのは。

「分かった。取りに行く。あなたは先に自分の家に戻っていい」

「あの、私のこと名前で呼んでくれませんか?」

「聞こえなかったか? 俺は戻れと言った。それと、名前を呼ぶことを許した覚えはない」

「ごめんなさい」

 ドア越しでも分かる程の不機嫌さ。村長の娘はびくりと肩を揺らし、宿の外に出た。


 爪をかみ、今にも地団駄をふみそうな勢いの彼女。かわいい顔が憤激に歪む。

「何よ、何よ、何よ。私がああ言っているのにっ!! どうして私のこと振り向いてくれないの? 私よりきれいな子はもうこの村に私しかいないはずなのに!! ――もしかしてあの子に会った? でもどうやって? だってあの子の元には変態男がいるはずよね?」

 いつもなら彼女が一人で歩いているだけで甘い香りに誘われた虫のように寄ってくる村の人たちはいつもと違う様子の彼女を遠目で見ていた。

「もしかして変態男はあの子に手を出していなくてきれいなままなのかしら? それにあの子の存在はあの人に言っていないはず!! 違うわよね。違うわ。きっとまだ私のかわいさに気づいていないだけよ」

 彼女は無理矢理自分を納得させた。そしていつものように私かわいいでしょ? とアピールするがごとく堂々と村の中を歩く。

 村の人もいつもの彼女に戻ったと安心し、彼女の元へ寄ってくる。それがより彼女の気分を良くした。



 アランはそれを窓越しから見ていた。

「お嬢さんはあんな小物にやられたのか。案外かわいいところもあるんだな。――あの娘、無意識に能力を使っているな。俺が能力を使えなくしてやってもいいが。どうすっかな」

 アランはただ王子としての役目でこの村に来ていると言えば来ているのだが、ある物を代わりに取りに来ただけだった。気ままに旅をしている最中に王様に頼まれた、つまり仕事の範疇ではなく、この村がどうなろうと知ったことではないのだ。

 それに、おそらくお嬢さんは村を滅ばす気だ。あの目、憎悪が宿っていた。話したのは少しだけだが性格的にもおそらく。

「これは様子見かな」

 アランは刀を鞘にしまうと能力を発動した。そして一匹の金鳥が姿を現した。

「お嬢さんの様子見、してきてくれないか?」

 アランは手を合わせて姿を現した金鳥に懇願した。金鳥は一瞬、嫌そうな顔をする。そして、片方の翼を、指を指すようにアランに向けた。

「お前は私を小間使いと何かと勘違いしていないか? 私がやる義理はないな」

「そこをなんとか頼むよ。この村が滅びるなら滅びるで、王様に報告しないといけないだろ?」

「お前、調子いいな。まあいい、今回は王に免じてやってやろう。王には仮があるからな。――お前は何もするなよ」

 念を押すように言うと窓から姿を消し、飛んでいった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...