私にかまわないでください

雨夜澪良

文字の大きさ
28 / 38
第一部 新しい居場所

被害者であり加害者 (レヴィ侯爵サイド)

しおりを挟む
 月明かりが真っ暗な部屋を照らす。皆が眠りについただろう時間に二つの人影があった。

「そなたには二つの選択肢がある。一つは私に事実を告白し、楽になること。もう一つは、私に事実を暴かれ苦しむことだ」

「何を、言っているのですか……?」

 リュスティ・オリアン男爵に深夜に来るように言われていた男爵家の家臣、マルティは部屋に入った途端、小さな悲鳴を上げた。

 入った途端に勝手に閉まるドア。明かりをつけようとしても首から下の全てが金縛りにあったようにピクリとも動けない自分。目前には月を眺めながらワインを転がす宰相閣下。マルティにはこの状況が理解しがたいものだった。先ほどレヴィ侯爵が放った言葉もそうだ。マルティには何のことを言っているのか分からなかった。

「本当に分からないのか?」

「さっきからなんなんですか! レヴィ侯爵の言っている意味が僕には分かりかねます!」

 レヴィ侯爵はマルティをいちべつすると、興味がないかのように月を再び眺め始めた。そんな態度のレヴィ侯爵にマルティはイライラをつのらせた。

「リリアーヌ」

 その名にマルティは動揺する。しかし、その動揺を隠すように怒鳴った。

「いい加減にしてください! こんな夜更けになんなんですか!」

「今、動揺したな」

「っ……!」

「君が今、頭によぎったことを教えてあげよう。『その名を聞きたくなかった』」

 マルティの心臓は跳ね上がった。マルティ自身を見ている訳でもないのに、怒鳴り声だけでレヴィ侯爵はマルティの動揺を、心情を読み取ったのである。

「あなたは、いったい――――」

 マルティが続きを紡ぐ前にレヴィ侯爵がその続きを告げる。

「何を知っているのか、だろう?」

「なっ?!」

「私は全てを知っている。――今一度問おう。事実を自分の口で告白するか否か」

 マルティは黙り込み、思考を巡らせた。

 もし、レヴィ侯爵の言うことが本当ならどちらにしろ、罪は暴かれる。その場合、自分から自白した方が、罪が軽くなる。でもそれは通常だったらの話だ。アンドレウ大公が許すとは到底思えない。
 もし、レヴィ侯爵が知っているのが嘘だったら? 罪に問われないだろう。今までだって罪に問われなかったんだ。きっと時効にだって……。そうだ、時効だ。

 マルティはしらをきり通すことに決めた。

「君は臆病で卑怯者だな」

「……そうですか、話はそれだけですか?」

(なんとでも言えばいい。僕は今までそうやって生きてきた。自分がそんなのよく分かってんだよ!!)

「罪悪感、呪術師、セドリック」

 マルティの心臓が再び跳ね上がり、冷や汗が背中をつたった。

 一方でレヴィ侯爵は先ほどから何も変わっていなかった。だからこそレヴィ侯爵の考えが全く読めない。それがマルティの動揺をさらに煽っていくのは至極当然のことだった。レヴィ侯爵は一歩も動かずに追い打ちをかけるようにマルティの心を暴いていく。

「君はずっと罪悪感が消えなかった。そしてずっと恐怖心を抱いている」

「あなたに、何が分かるんですか!! 僕をもてあそんで楽しいですか!!」

「君も己の保身のためにやっているではないか、同じことを」

「っ――!」

 マルティは逆上し、レヴィ侯爵につかみかかろうとするが、体が動かない。どうやっても動かないと分かると、マルティは魔法を唱えようする。しかし、唱えようとしたところで口が糸で結ばれたように開閉できなくなった。

「ずっと、本当は言いたかったのだろう? ごめんなさい。臆病でどうしようもない僕を許してください。怖くて怖くて、仕方がないんです、と」

 瞳から涙がこぼれ落ちる。マルティの顔がくしゃくしゃに歪んでいく。
 静寂は嗚咽でかき消された。

「レヴィ侯爵のおっしゃるとおりです。僕はオリアン男爵が取引しているところを見てしまいました。それからです。僕はオリアン男爵に脅されて、オリアン男爵の商売敵だったセドリックの家に火をつけました」

 マルティが泣きながら、罪を自白する。レヴィ侯爵は窓を全開に開け、そこに腰をかけた。

 月明かりが舞台の光のようにマルティを照らす。

「セドリックは僕の友達でした。セドリックに何度も言わなきゃと思いました。でも、言えなかった。嫌われるのが怖かったんです。心のどこかで誰かがばらしてくれるのを待っていたのかも知れません」

「そうか」

「レヴィ侯爵がいなければ僕はずっと、罪悪感にとらわれていたかもしれません」

「リリアーヌに呪いをかけた奴を知っているな?」

 レヴィ侯爵は窓から、外へと移動する。そして、振り向き、マルティに鋭い視線を送った。

 その空色の瞳は何もかも見透かしているような目だった。マルティはレヴィ侯爵が宰相たる所以はこれなのだと分からせられた。

「はい。呪術師の名は――――」

 マルティが名を告げようとした瞬間。マルティの穴という穴から血が噴き出し、鮮血が部屋の中を舞った。レヴィ侯爵は壁に身を隠し、自身が血で汚れるのを防いだ。

「最初から、事実を吐けばよかったのに。最後まで、変われなかったな君は」

 そんな捨て台詞を送り、レヴィ侯爵の影はなくなった。

 最後の微かな意識も、絶望を叩きつけられ息絶える。だがその顔は穏やかにも満ちていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】私が誰だか、分かってますか?

美麗
恋愛
アスターテ皇国 時の皇太子は、皇太子妃とその侍女を妾妃とし他の妃を娶ることはなかった 出産時の出血により一時病床にあったもののゆっくり回復した。 皇太子は皇帝となり、皇太子妃は皇后となった。 そして、皇后との間に産まれた男児を皇太子とした。 以降の子は妾妃との娘のみであった。 表向きは皇帝と皇后の仲は睦まじく、皇后は妾妃を受け入れていた。 ただ、皇帝と皇后より、皇后と妾妃の仲はより睦まじくあったとの話もあるようだ。 残念ながら、この妾妃は産まれも育ちも定かではなかった。 また、後ろ盾も何もないために何故皇后の侍女となったかも不明であった。 そして、この妾妃の娘マリアーナははたしてどのような娘なのか… 17話完結予定です。 完結まで書き終わっております。 よろしくお願いいたします。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

転生皇女セラフィナ

秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。 目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。 赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。 皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。 前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。 しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。 一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。 「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」 そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。 言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。 それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。 転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。 ※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...