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第一部 新しい居場所
第一のネズミ
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あの後、ミラー公爵は情報をアンドレウ大公と共有した後、自らモラン伯爵邸に乗り込んだ。しかし、モラン伯爵邸にはセドリックとアデリナ・モラン伯爵令嬢の姿は見当たらなかった。
モラン伯爵一家に話を聞くと、朝、出かけたっきり姿を見た者はいないとのことだった。モラン伯爵との共謀ではなく、アデリナ・モラン伯爵令嬢と誰かによる犯行。
ミラー公爵はモラン伯爵に脅しという名の協力を仰ぎ、今は令嬢とセドリックの捜索中だ。
情報を共有した時にはすっかり日も暮れており、ミラー公爵のご厚意もあってユースティアとメアリーはアンドレウ大公と一緒に、今夜はミラー公爵邸で泊まることになった。
夕食を食べた後、それぞれの部屋に戻ったが、ユースティアは眠れなかった。だから、ユースティアは散歩をすること決め、ストールを羽織って、部屋を出た。
向かう先は幻想的な雰囲気を漂わせる庭園。メアリー曰く、とてもきれいだと有名な庭園らしい。
ユースティアは歩みを進める。上を見上げると、アンドレウ大公が泊まる部屋に明かりがついていた。
(部屋が騒がしいな)
きっと夜は本格的にアンドレウ大公自ら捜索に出るのだろう。ユースティアはまだ子供だからと、気を遣われたのだと思われる。
ユースティアはふと、アンドレウ大公に聞かれたことを思い出した。それは夕食を済ませ、部屋に戻るときのこと。
「嬢ちゃん、魔法をどうして継続させているんだ?」
「……メアリーと約束したから」
「メアリーはそう言う意味で言ったんじゃあねぇと思うぞ」
アンドレウ大公の言う通り、メアリーは魔法を自力でと解くのはやめてほしいという意味で言っていた。
ユースティアも本当はそれが分かっていたが、一つ目に言われたお願いが、解いたらきけなくなると本能で理解してしまい、能力をずっと自分にかけていたのだった。
「分かってる。でも、解いたら私は、自分を自分で制御できないと思った」
「……そうか。野暮なことを聞いたな。ゆっくり休むんだぞ」
「うん」
その会話を最後に、それぞれ部屋へと戻った。
思い出している内に庭園へとたどり着く。
白い花と青い花が咲き乱れている。月がその花々を照らし、幻想的な雰囲気をよりいっそうかき立てていた。まるで、精霊の国に迷い込んだ気分だ。
「きれいな花。シュウも見たことあるのかな。……シュウ、無事でいてくれないと私…………」
ユースティアの瞳から静かに雫がこぼれ落ちる。
「あれ、おかしいな。魔法はまだ効いているはずなのに、どうして涙が出るんだろう……。それに――――」
どうしてこんなにもシュウのことを心配しているのだろう。
あのとき、人を信用するのはやめたはずだ。理想を夢見るのはやめたはずだ。現実は、醜く、きれいなものはないのだと。それはシュウも例外じゃないはずだ。そうじゃなきゃ、ユースティアが村を壊したのは何のためだったのか。人を信用するなら最後まで村人のことを信じ続ける愚者であり続けなければいけなかったのではないか?
シュウを助けても助けなくてもユースティアにとってどうでもいいはずだ。シュウが死のうが生きようがそういうこともあると割り切らなきゃ、誰にも心を許さず、強者であると示さなきゃ、またユースティアは傷つく、傷つけられる。シュウだっていつユースティアを傷つけるか、裏切るか分からない。また、ユースティアは繰り返すの?
脳内で自問自答を繰り返す。ここにきて、魔法を継続させたツケが回ってきたのだ。冷静になりすぎて、余計な思考が頭を支配する。
ユースティアはしゃがみ込み、白い一輪の花を手折る。そして、上に掲げ、月明かりに照らした。花が青みを帯びて光ったようにユースティアには感じた。
答えの出ないまま、ただ、無為に時間は過ぎていく。もう、帰ろうと思ったそのとき。
手負いの男がこの幻想的な庭園へと入り込んだのをユースティアは察知した。
庭園には似合わない腹から血を流した、黒いフードをかぶった少年はユースティアの視線に気づき、姿を消す。一瞬でユースティアの視界から消えた少年は次の瞬間、ユースティアの眼前にナイフを突きつけた。
しかし、相手は手負い。
ユースティアはそのスピードについてこられないわけがなく、最小限の動きでナイフを躱した。
少年は驚きで目を見開き、ユースティアから距離をとった。
「何者だ?」
「それはこちらのセリフだ。あなたこそ何者だ?」
少年の問いにユースティアは問いで返す。少年は警戒したまま、じっとユースティアを見つめる。しかし腹が痛んだのか、少年はその場でうずくまった。
ユースティアは警戒する猫に近づくようにゆっくりと少年に近づく。
「怪我してるな。治してやろうか?」
ユースティアは少年と目線を合わせるためにしゃがみ込み、首をかしげた。
「……」
「黙り込んでどうした?」
ユースティアは少年の目の前でお~いと上下に振った。
硬直していた少年は真っ赤な顔を腕で隠し、ずるずると後ろに数歩下がった。
「危機感がなさすぎっしょ?! 君、普通の令嬢じゃないな。メイドか? ……いやでも、こんなきれいなメイドいるわけ……」
驚いたと思ったら、ブツブツと独り言を呟く少年。ユースティアは、熱でもあるのかと思い、ゆっくりと恐怖心を抑えながら少年の額に触れた。
「熱はないな」
「君には羞恥心というものがないの?!」
悲鳴を上げながら少年は、顔を左右に振り、ユースティアの手を額からはがす。行き場の失った手は肩に羽織っていたストールへと移動する。
「驚いてばかりだな。傷に障るぞ?」
「誰のせいだと……! はあ、警戒しているのも馬鹿らしくなったわ」
「怪我、治すか?」
「タダで治してくれるっていうなら、やってくれる?」
ふてくされたように言う少年は子供のように見えた。ユースティアはクスクスと笑いながら、魔法を唱えた。
『ヒール』
少年の腹の傷が瞬時に塞がれる。そして何事もなかったかのように傷は元通りになった。
己の腹を見た少年はまたしても驚いた表情になった。
「普通、回復魔法でもこんなにきれいに治らないって。回復魔法を使える人自体少ないし。回復薬でさえ、治るのに時間かかって痕とか残っちゃう人多いって言うのに……」
「傷跡は残らないに越したことないだろう。――それよりも、君は誰だ?」
「治してから聞くとか……。よっぽど箱入り娘って感じ?」
「違う」
即座に否定する。ユースティアが箱入り娘なら箱入り娘なんか湧いて出るほどいるだろう。箱入り娘に失礼だ。
「まあどっちでもいいけど、とりあえず座んない?」
少年が指さした方向に視線を向ける。そこにはガゼボがあった。ずっとしゃがんでいるのも疲れるのでその提案にユースティアは素直に乗った。
二人はガゼボへと移動し、イスに座ると、自己紹介から始めた。
「俺の名前はレナード・イグレシアス。暗殺者の里出身の何でも屋って言ったところ」
「そうか。私はユースティア・ロペス。よろしく」
「こちらこそ。――それで? ユースティアちゃんはどうしてこんな時間にこんなところにいるの?」
「眠れなくて散歩。えっと……」
「ああ、好きに呼んで。レナードでもイグレシアスでも」
「分かった、レナード。レナードはどうして?」
「俺はね、金を集めてんの」
「金?」
「そうそう金。それでちょっと仕事しながら金を集めているってわけ。金さえもらえれば何でもするのが俺の仕事だから」
「どうしてそんなに金を集めているんだ?」
得意げに話すレナードにユースティアは疑問を呈した。
金を集めて何をしたいのだろうか。ユースティアには関係のない話だったが、金の行き先に興味がわいた。
「う~ん。笑わない?」
「それは聞かないと分からない」
「ま、いっか。傷、治してもらったしね。――俺はね、金風呂をやってみたいの」
「金風呂?」
「そ。そして、その金を高い建物からばらまいてみたい」
「ばらまいてもつまらないんじゃないか?」
「つまらなくてもいいの。それに、やってみないと本当につまらないかどうかは分からないっしょ。案外やってみたら楽しいってこともあるかも」
「そういうもの?」
「そういうもの」
「レナードは何でも屋って言ったな。やっぱり頼むと高いのか?」
おちゃらけた雰囲気が一変する。ユースティアは真剣な顔でレナードに尋ねた。
「なあに? ユースティアちゃん、俺に頼みたいこととかあるの?」
「ああ」
「ユースティアちゃんには多大なる恩があるから、初回は無料にしてあげる」
「それはありがたい。――レナードはもし、人は醜いから、信用することは間違っているとして、それでも人を信用して一緒にいたいと、優しくしたい、助けたいと思ったらどうする?」
レナードは意外、とでも言うように目をぱちくりさせるとわざとらしく考える仕草をして、ゆっくりと口を開いた。
「ユースティアちゃんは純粋で極端なんだな」
「純粋で極端?」
ユースティアは首をかしげた。自分には当てはまらないように思えたからだ。
レナードは順に説明してあげる、といった表情をユースティアに向ける。
「そうさ。俺からしたら信用するっている考えが間違い」
「じゃあ、信用しないのが正しい? 人に優しくしないのが正しいこと?」
「違う。まずもってユースティアちゃんは信用と信頼をはき違えている。人は信用するとかしないとかの問題じゃない。自分がこの人になら傷つけられてもいいやって思う人がその人に取っての信頼できる人。信用は裏切られる前提にあると思った方がいいね」
「どうして?」
「人はどうしても知らず知らずのうちに期待を裏切っているもの。それで信用が崩れる。でも崩れないものはある。それが信頼だ。自分からやめない限り信頼は続く」
「だから、ユースティアちゃんがするべきことは信頼できる相手か見極めること。あと、優しくするのは信用、信頼とか、損得抜きにやった方がユースティアちゃんにとってはぜったい、楽だね」
会って数十分なのに、ユースティアのことを分かったような口ぶりで話すレナードにユースティアは少々不満げな顔をした。
最初の方は納得したが最後のは蛇足だ。確信したような表情のレナードに少しイラッときた。見た感じ少し年上ではあるが、そんなに年は離れていないように思う。子供扱いされているように思えてしまいイラッときてしまった。
レナードはそんなユースティアの心情を読んだのか、ヘラヘラと謝った。
「そんなに怒んなって。ごめん、ごめん」
「許す」
「俺はそろそろ帰るけどユースティアちゃんはどうするの?」
「私もそろそろ帰ろうかな。レナードのおかげで気持ちの整理ができた」
「それはよかった。――ああ、これは無効にしとくわ。こんなのは俺の仕事じゃないし」
「じゃあ、これあげる」
ユースティアは肩に羽織っていたストールを外し、背伸びをしてレナードの肩に乗せた。
「ストール?」
「そう」
「見た感じ、手作りだけどいいの?」
片方の口角を上げ、悪い顔をしたレナードにユースティアは穏やかな顔で応える。
「私が編んだ。だからまた編めばいい」
「そ。なら、遠慮なくもらうわ。――何か頼みたいことがあったら闇の世界に足を踏み入れること。俺が足を洗えば別の話だけど……、まあ当分その予定はない。またな」
ユースティアは手を振り、レナードを見送った。
レナードと話したことでユースティアの心の中はどこかスッキリしていた。
モラン伯爵一家に話を聞くと、朝、出かけたっきり姿を見た者はいないとのことだった。モラン伯爵との共謀ではなく、アデリナ・モラン伯爵令嬢と誰かによる犯行。
ミラー公爵はモラン伯爵に脅しという名の協力を仰ぎ、今は令嬢とセドリックの捜索中だ。
情報を共有した時にはすっかり日も暮れており、ミラー公爵のご厚意もあってユースティアとメアリーはアンドレウ大公と一緒に、今夜はミラー公爵邸で泊まることになった。
夕食を食べた後、それぞれの部屋に戻ったが、ユースティアは眠れなかった。だから、ユースティアは散歩をすること決め、ストールを羽織って、部屋を出た。
向かう先は幻想的な雰囲気を漂わせる庭園。メアリー曰く、とてもきれいだと有名な庭園らしい。
ユースティアは歩みを進める。上を見上げると、アンドレウ大公が泊まる部屋に明かりがついていた。
(部屋が騒がしいな)
きっと夜は本格的にアンドレウ大公自ら捜索に出るのだろう。ユースティアはまだ子供だからと、気を遣われたのだと思われる。
ユースティアはふと、アンドレウ大公に聞かれたことを思い出した。それは夕食を済ませ、部屋に戻るときのこと。
「嬢ちゃん、魔法をどうして継続させているんだ?」
「……メアリーと約束したから」
「メアリーはそう言う意味で言ったんじゃあねぇと思うぞ」
アンドレウ大公の言う通り、メアリーは魔法を自力でと解くのはやめてほしいという意味で言っていた。
ユースティアも本当はそれが分かっていたが、一つ目に言われたお願いが、解いたらきけなくなると本能で理解してしまい、能力をずっと自分にかけていたのだった。
「分かってる。でも、解いたら私は、自分を自分で制御できないと思った」
「……そうか。野暮なことを聞いたな。ゆっくり休むんだぞ」
「うん」
その会話を最後に、それぞれ部屋へと戻った。
思い出している内に庭園へとたどり着く。
白い花と青い花が咲き乱れている。月がその花々を照らし、幻想的な雰囲気をよりいっそうかき立てていた。まるで、精霊の国に迷い込んだ気分だ。
「きれいな花。シュウも見たことあるのかな。……シュウ、無事でいてくれないと私…………」
ユースティアの瞳から静かに雫がこぼれ落ちる。
「あれ、おかしいな。魔法はまだ効いているはずなのに、どうして涙が出るんだろう……。それに――――」
どうしてこんなにもシュウのことを心配しているのだろう。
あのとき、人を信用するのはやめたはずだ。理想を夢見るのはやめたはずだ。現実は、醜く、きれいなものはないのだと。それはシュウも例外じゃないはずだ。そうじゃなきゃ、ユースティアが村を壊したのは何のためだったのか。人を信用するなら最後まで村人のことを信じ続ける愚者であり続けなければいけなかったのではないか?
シュウを助けても助けなくてもユースティアにとってどうでもいいはずだ。シュウが死のうが生きようがそういうこともあると割り切らなきゃ、誰にも心を許さず、強者であると示さなきゃ、またユースティアは傷つく、傷つけられる。シュウだっていつユースティアを傷つけるか、裏切るか分からない。また、ユースティアは繰り返すの?
脳内で自問自答を繰り返す。ここにきて、魔法を継続させたツケが回ってきたのだ。冷静になりすぎて、余計な思考が頭を支配する。
ユースティアはしゃがみ込み、白い一輪の花を手折る。そして、上に掲げ、月明かりに照らした。花が青みを帯びて光ったようにユースティアには感じた。
答えの出ないまま、ただ、無為に時間は過ぎていく。もう、帰ろうと思ったそのとき。
手負いの男がこの幻想的な庭園へと入り込んだのをユースティアは察知した。
庭園には似合わない腹から血を流した、黒いフードをかぶった少年はユースティアの視線に気づき、姿を消す。一瞬でユースティアの視界から消えた少年は次の瞬間、ユースティアの眼前にナイフを突きつけた。
しかし、相手は手負い。
ユースティアはそのスピードについてこられないわけがなく、最小限の動きでナイフを躱した。
少年は驚きで目を見開き、ユースティアから距離をとった。
「何者だ?」
「それはこちらのセリフだ。あなたこそ何者だ?」
少年の問いにユースティアは問いで返す。少年は警戒したまま、じっとユースティアを見つめる。しかし腹が痛んだのか、少年はその場でうずくまった。
ユースティアは警戒する猫に近づくようにゆっくりと少年に近づく。
「怪我してるな。治してやろうか?」
ユースティアは少年と目線を合わせるためにしゃがみ込み、首をかしげた。
「……」
「黙り込んでどうした?」
ユースティアは少年の目の前でお~いと上下に振った。
硬直していた少年は真っ赤な顔を腕で隠し、ずるずると後ろに数歩下がった。
「危機感がなさすぎっしょ?! 君、普通の令嬢じゃないな。メイドか? ……いやでも、こんなきれいなメイドいるわけ……」
驚いたと思ったら、ブツブツと独り言を呟く少年。ユースティアは、熱でもあるのかと思い、ゆっくりと恐怖心を抑えながら少年の額に触れた。
「熱はないな」
「君には羞恥心というものがないの?!」
悲鳴を上げながら少年は、顔を左右に振り、ユースティアの手を額からはがす。行き場の失った手は肩に羽織っていたストールへと移動する。
「驚いてばかりだな。傷に障るぞ?」
「誰のせいだと……! はあ、警戒しているのも馬鹿らしくなったわ」
「怪我、治すか?」
「タダで治してくれるっていうなら、やってくれる?」
ふてくされたように言う少年は子供のように見えた。ユースティアはクスクスと笑いながら、魔法を唱えた。
『ヒール』
少年の腹の傷が瞬時に塞がれる。そして何事もなかったかのように傷は元通りになった。
己の腹を見た少年はまたしても驚いた表情になった。
「普通、回復魔法でもこんなにきれいに治らないって。回復魔法を使える人自体少ないし。回復薬でさえ、治るのに時間かかって痕とか残っちゃう人多いって言うのに……」
「傷跡は残らないに越したことないだろう。――それよりも、君は誰だ?」
「治してから聞くとか……。よっぽど箱入り娘って感じ?」
「違う」
即座に否定する。ユースティアが箱入り娘なら箱入り娘なんか湧いて出るほどいるだろう。箱入り娘に失礼だ。
「まあどっちでもいいけど、とりあえず座んない?」
少年が指さした方向に視線を向ける。そこにはガゼボがあった。ずっとしゃがんでいるのも疲れるのでその提案にユースティアは素直に乗った。
二人はガゼボへと移動し、イスに座ると、自己紹介から始めた。
「俺の名前はレナード・イグレシアス。暗殺者の里出身の何でも屋って言ったところ」
「そうか。私はユースティア・ロペス。よろしく」
「こちらこそ。――それで? ユースティアちゃんはどうしてこんな時間にこんなところにいるの?」
「眠れなくて散歩。えっと……」
「ああ、好きに呼んで。レナードでもイグレシアスでも」
「分かった、レナード。レナードはどうして?」
「俺はね、金を集めてんの」
「金?」
「そうそう金。それでちょっと仕事しながら金を集めているってわけ。金さえもらえれば何でもするのが俺の仕事だから」
「どうしてそんなに金を集めているんだ?」
得意げに話すレナードにユースティアは疑問を呈した。
金を集めて何をしたいのだろうか。ユースティアには関係のない話だったが、金の行き先に興味がわいた。
「う~ん。笑わない?」
「それは聞かないと分からない」
「ま、いっか。傷、治してもらったしね。――俺はね、金風呂をやってみたいの」
「金風呂?」
「そ。そして、その金を高い建物からばらまいてみたい」
「ばらまいてもつまらないんじゃないか?」
「つまらなくてもいいの。それに、やってみないと本当につまらないかどうかは分からないっしょ。案外やってみたら楽しいってこともあるかも」
「そういうもの?」
「そういうもの」
「レナードは何でも屋って言ったな。やっぱり頼むと高いのか?」
おちゃらけた雰囲気が一変する。ユースティアは真剣な顔でレナードに尋ねた。
「なあに? ユースティアちゃん、俺に頼みたいこととかあるの?」
「ああ」
「ユースティアちゃんには多大なる恩があるから、初回は無料にしてあげる」
「それはありがたい。――レナードはもし、人は醜いから、信用することは間違っているとして、それでも人を信用して一緒にいたいと、優しくしたい、助けたいと思ったらどうする?」
レナードは意外、とでも言うように目をぱちくりさせるとわざとらしく考える仕草をして、ゆっくりと口を開いた。
「ユースティアちゃんは純粋で極端なんだな」
「純粋で極端?」
ユースティアは首をかしげた。自分には当てはまらないように思えたからだ。
レナードは順に説明してあげる、といった表情をユースティアに向ける。
「そうさ。俺からしたら信用するっている考えが間違い」
「じゃあ、信用しないのが正しい? 人に優しくしないのが正しいこと?」
「違う。まずもってユースティアちゃんは信用と信頼をはき違えている。人は信用するとかしないとかの問題じゃない。自分がこの人になら傷つけられてもいいやって思う人がその人に取っての信頼できる人。信用は裏切られる前提にあると思った方がいいね」
「どうして?」
「人はどうしても知らず知らずのうちに期待を裏切っているもの。それで信用が崩れる。でも崩れないものはある。それが信頼だ。自分からやめない限り信頼は続く」
「だから、ユースティアちゃんがするべきことは信頼できる相手か見極めること。あと、優しくするのは信用、信頼とか、損得抜きにやった方がユースティアちゃんにとってはぜったい、楽だね」
会って数十分なのに、ユースティアのことを分かったような口ぶりで話すレナードにユースティアは少々不満げな顔をした。
最初の方は納得したが最後のは蛇足だ。確信したような表情のレナードに少しイラッときた。見た感じ少し年上ではあるが、そんなに年は離れていないように思う。子供扱いされているように思えてしまいイラッときてしまった。
レナードはそんなユースティアの心情を読んだのか、ヘラヘラと謝った。
「そんなに怒んなって。ごめん、ごめん」
「許す」
「俺はそろそろ帰るけどユースティアちゃんはどうするの?」
「私もそろそろ帰ろうかな。レナードのおかげで気持ちの整理ができた」
「それはよかった。――ああ、これは無効にしとくわ。こんなのは俺の仕事じゃないし」
「じゃあ、これあげる」
ユースティアは肩に羽織っていたストールを外し、背伸びをしてレナードの肩に乗せた。
「ストール?」
「そう」
「見た感じ、手作りだけどいいの?」
片方の口角を上げ、悪い顔をしたレナードにユースティアは穏やかな顔で応える。
「私が編んだ。だからまた編めばいい」
「そ。なら、遠慮なくもらうわ。――何か頼みたいことがあったら闇の世界に足を踏み入れること。俺が足を洗えば別の話だけど……、まあ当分その予定はない。またな」
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