スキル『モデラー』で異世界プラモ無双!? プラモデル愛好家の高校生が異世界転移したら、持っていたスキルは戦闘と無関係なものたったひとつでした

大豆茶

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【一章】異世界でプラモデル

8.守りたい、この笑顔

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 馬車に揺られ、俺たちは近くの街へと到着した。

 というか馬車が用意されている時点で多分両親にはバレてるよね。よくみたら御者の人クロードさんだし。
 クロードさんと一緒なら安全だと判断したのだろうか。娘の我が儘を聞いてあげる優しいご両親だこと。

「――まあ、俺の監視も兼ねてるんだろうけどね」

「……? ケイタさん、何か言いましたか?」

 思わず口に出てしまったけど、幸いシルヴィアには聞こえていなかったようだ。
 シルヴィアはそのへん全く気付いてなさそうだ。完全にお忍びで来ていると思い込んでいる。利発そうな印象だったけど案外そうでもないのかもしれない。

「いや……なんでもないよ。それで、どこに案内してくれるのかな」

「そうですね……まずは服飾店なんてどうです? ケイタさんの格好独特で目立ちますし、新しく服を買って着替えましょう!」

「おお! それはいいね! あ、でも俺お金持ってないんだよね……」

 ジャージだけで今後過ごすことも出来ないし、服は欲しいと思ってた。ジャージ姿だと周りから浮いちゃうしさ。
 しかし無一文な俺は買い物はおろか明日の飯すら怪しい。
 
「ご心配なく。助けていただいたお礼に私がお金を出しますから!」

「本当!? ……じゃあ、お言葉に甘えちゃおうかな」

 女の子に物を買ってもらうのは男としてどうなんだと思わなくもないが、先立つものがないのでここはお言葉に甘えておこう。
 
 シルヴィアの先導のもと、俺たちは服飾店へと歩を進める。

「いらっしゃい! 今日は何がご入り用で……ってシルヴィア様!? なんでそんな格好してらっしゃるんで!?」

 店の中に入ると、店主のおっちゃんにシルヴィアの変装を速攻で看破された。
 しかし当のシルヴィアは素知らぬ振りをして、ごまかそうとしていた。

「し、シルヴィア様? 私はメイドの……えーと、シルクと申します。人違いではないでしょうか?」

 嘘つくの下手かっ!
 目は泳いでるし言葉もたどたどしい。「私は嘘をついています」と言っているようなものだ。

「は、はぁ……そうですか。失礼しました」

 店主のおっちゃんも困っている。おっちゃん、すまんがここはシルヴィアの顔を立ててやってくれ。

 以降おっちゃんは気付かないふりをしつつも、最低限敬意を払った様子で対応してくれた。
 俺は当たり障りのない一般的な布製の服を買ってもらい、早速着替えてから店を出た。

「いやーあの店主さんなかなか太っ腹だったね。買い物のおまけにこんな良さそうなベルトを付けてくれるだなんて」

 買い物のおまけとして、ベルトとホルダーが一体化したようなやつを付けてくれた。ガンホルダーに近いやつだ。
 俺の生命線でもあるスマホを入れるのにちょうどいい感じで、これがあれば不意に失くすこともないだろう。

「ええ、トーマスさんは色々な地域を旅して技術を学んだそうなんです。この街自慢の裁縫師ですよ」

 あのおっちゃんトーマスって名前なのか。多分シルヴィアの人徳あってのおまけなんだろうが、次に会うことがあればお礼しなくちゃな。


 ……そんなこんなで、シルヴィアと二人で色々な店や施設を回っていた。どこにいってもシルヴィアの変装は即見破られていたが、みんな気付かないフリをしてくれていた。
 そして驚くべきことに、シルヴィアは会う人全員の名前をちゃんと記憶していて、俺に説明をしてくれたのだ。

 この街は多分シルヴィアの家が治めているんだろうけど、道行く人たちにもよく声をかけられることから、みんなシルヴィアのことが好きで、シルヴィアもみんなのことが好きなんだなってことは伝わってきた。
 裏表のない素直な性格や、どんな人でも差別しないで接する優しさ、たかだか一日程度の付き合いしかない俺でも彼女の人の良さは感じていた。

 シルヴィアがみんなから愛されるのは至極当然だ。かく言う俺もそんな彼女に惹かれているのを自覚している。
 隣を歩く彼女の微笑みにつられて、自然と俺の口角も上がるのは致し方ないことだろう。

「それじゃあ……名残惜しいですが、結構時間も経ったのでそろそろ帰りましょうか」

「そうだね。あまり長い時間外出してるのがバレたら怒られちゃうかもだしね」

 俺としても名残惜しさはあるけど、シルヴィアの両親にあまり心配はかけたくない。
 クロードさんが後ろに付いてきてるのはチラチラと見かけたけど、危険がないわけじゃないだろうし、家の中に居るのが一番良いだろう。

 少しシルヴィアを困らせてやろうと、軽くからかうように俺が言葉を発したその時だった。

「おやぁ? シルヴィアじゃないか! こんなところで奇遇だねぇ」

「――っ! か、カマセーヌ様。お久しぶりです」

 なんか『いかにも嫌な奴』みたいな見た目をしたポッチャリ系男子が屈強な男を引き連れて、俺たちの前に立ちはだかった。
 その瞬間、あんなに楽しそうに笑っていたシルヴィアが表情を曇らせる。

「いやだなぁ、ポクと君の仲じゃないか。家名じゃなく、ザッコブってさ、呼んでくれたまえよ」

 え? 雑魚ブサ? 何言ってんのこの人。あと一人称が独特。
 シルヴィアとはどんな関係なんだ?

「ザッコブ様……今日はどうしてこちらに?」

「どうしてって……決まってるじゃないか。会場の下見に来たんだよ。明日が魔動決闘マギアデュエルの日だからね。そちらの準備はどうだい?」

 決闘……? カードゲームの試合でもあるのか?
 まさか、この世界は揉めたらカードゲームで決着をつけるルールがあるとか!?

 いや違うか。と言うかザッコブの言葉にあからさまにシルヴィアが意気消沈している。
 決闘とはそんなにヤバいものなのだろうか。

「くっ……! 卑劣な手ばかりを使っておいて、よくそんな事が言えますね!」

「おやおや、そんなこと言っちゃって~。何か証拠でもあるのかい? ヴァイシルト家ってのは侮辱が得意なのかな~?」

「――っ! い、いえ……なんでもありません。これで失礼します。……ケイタさん、行きましょう」

 シルヴィアはいまいち事情が飲み込めずに呆けていた俺の手を取り、この場を去ろうとする。
 だが、去り際にあの男は聞き捨てならないことを宣ったのだ。

「はっ、大人しく、民衆の前で恥をかかずにすんだのにねぇ! まあ、不戦敗よりかは戦って負ける方がましなのかな!? ヒョヒョヒョッ!」

 ――――今何て言った?
 大人しく誘拐されていれば?
 
 それは昨日起きたばかりの事件だ。街の人の反応を見るに、誘拐の件は公表されていないと予想できる。
 故にそれを知っているのはヴァイシルト家の人たち以外には居ないはずなのだ。つまり部外者であるザッコブがその件を知っているということは、誘拐事件が起きるように仕向けたのはほぼ間違いなく、こいつの仕業だ。

 去り際に放たれたザッコブの言葉を受けたシルヴィアの目には、うっすらと涙が浮かんでいた。
 さっきまでの明るい笑顔も消え去っている。

 ……ああ、いかん。
 湧き出る怒りを抑えきれなくなってきている。
 ここで俺がでしゃばってもろくなことにはならないだろう。

 でも、それでも、シルヴィアの笑顔がこんな奴に奪われていいはずがない。ここで何もしないなんて――男じゃない。
 
「シルヴィア、ごめん」

「ケイタ……さん?」

 俺はシルヴィアと繋いだ手を離し、ザッコブへと振り返った。
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