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【三章】技術大国プラセリア
2.実力行使
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「うーん……」
迷うところだな。これだから変に偉くなったりすると色々なしがらみがあって嫌なんだよ。
俺が返答に困っていると、それを拒否の意味と受け取ったのだろうか、カティアの雰囲気が変わったのを感じた。
「――嫌だと言うのなら、実力行使に出ることになるかもしれねぇぜ?」
そう言うとカティアは目を細め口角を上げた。まるで補食者が獲物を捕える時のような表情だ。
瞬間、張り詰めた空気が俺たちを包み込む。
息ができなくなるような緊張感と言ったらいいのだろうか、少しでも動けば命を失う。そんな感覚だ。
今この場に居る誰よりも強い者が誰であるのか、それをはっきりと感じた。
「――あなた、何を考えていますの? 旦那様に何かあれば国際問題に――」
「承知の上だぜ」
そう言うとカティアはいつの間にか懐から取り出した何かを床へと放り投げた。
すると、辺り一帯に煙が立ち込め、視界を奪われる。
「うおっ、煙玉か!?」
「……そうだぜ、しかも無臭の特製品さ。おかげで鼻の良いオレはアンタの位置を特定できるってワケさ」
背後からカティアの声!? いつの間にそんな位置へ移動したんだ!?
「わりィな」
「ぐっ……!」
不意に後頭部へ衝撃を受け、意識が朦朧とし始めた。
薄れ行く意識の中、俺の体はカティアに抱えあげられる。このまま連れ去られるのだろうか……。
――あ、獣人って言っても獣臭いわけじゃくて、普通にいい匂いだなぁ。
そんなどうでもいいことを考えながら、俺の意識は暗闇へと落ちていくのであった。
◇
◇
【シルヴィア視点】
◇
◇
「――嫌だと言うのなら、実力行使に出ることになるかもしれねぇぜ?」
プラセリアからの使者の方、カティア・リーヴォルフさんがそう言った瞬間、私は思わず一瞬怯んでしまいました。
彼女から発せられたのは明確な敵意……それも幾多の戦場を潜り抜けてきた猛者を思わせるぐらいの鋭さでした。
プレッシャーを放つことで得た一瞬の隙を突くように、カティアさんは煙玉を放ちました。
……この後取ったの私の行動が不適切極まりなかったことを深く反省しています。
あろうことか私は自分の身を守ることだけに意識を削がれ、大切な人……ケイタさんの安全が二の次になってしまっていたのです。
「――はっ!? ケイタさん、ケイタさん!?」
案の定、煙が消えた後ケイタさんの姿はどこにも見当たりませんでした。
「ああ、そんな……まさか……」
誘拐された……?
あの時私がケイタさんのことを何よりも優先して守っていれば……自分の身の安全など気にしなければこんなことには……!
「落ち着きなさいシルヴィア。旦那様は無事ですわよ」
いつの間にか開けられた大きな窓から遠くを眺めながら、フラムローゼさんはそう言いました。
「どうしてそんなことが言えるんですか!? ケイタさんが連れ去られて、フラムローゼさんは悔しくないのですか!?」
「……そりゃあ悔しいですわよ。彼女をここへ通したのはわたくしですからね。あの状況で動けなかったのも事実ですし」
「フラムローゼさん……」
そう……ですね。フラムローゼさんもケイタさんを愛しているのですもの、悔しくないはずないのに、私ったら意地悪なことを言ってしまいました……。
「もし暗殺が目的ならこの場で殺していたはずですわ。彼女にはそれだけの実力がありました。……つまり、彼女の目的は話していたとおり、旦那様を自らが所属するカンパニーへと連れていくこと、という可能性が高いですわね」
「ではすぐプラセリアに向かいましょう! 今からなら間に合うはずです!」
「落ち着きなさいと言いましたでしょう。わたくしたちが騒ぎ立ててこの件を公にすれば本当に国際問題に発展しかねませんわ」
そんな……ケイタさんは見知らぬ土地に一人できっと心細いはずです。
ですがフラムローゼさんの言うことはもっともです。事は私たち二人だけかつ秘密裏に進める必要がありますね。
「わかりました……それではまずはここ暫くは留守にしても大丈夫なぐらいの仕事を片付けるとしましょう」
まずは私たちが自由に動ける時間が必要ですからね。
領地の仕事を前倒しで片付け、最低でも一月ぐらいは何もないようにしないとです。
「フフ……それでこそシルヴィア。さあ……わたくしたちを虚仮にしたこと、存分に後悔させて差し上げましょうか」
この時、私とフラムローゼさんの気持ちが、共通の敵を得たことで出会ってから初めて一つになりました。
「「フフ……」」
待っていてくださいケイタさん。必ず私たちが迎えにいきますので、辛いでしょうが耐えてくださいね……!
迷うところだな。これだから変に偉くなったりすると色々なしがらみがあって嫌なんだよ。
俺が返答に困っていると、それを拒否の意味と受け取ったのだろうか、カティアの雰囲気が変わったのを感じた。
「――嫌だと言うのなら、実力行使に出ることになるかもしれねぇぜ?」
そう言うとカティアは目を細め口角を上げた。まるで補食者が獲物を捕える時のような表情だ。
瞬間、張り詰めた空気が俺たちを包み込む。
息ができなくなるような緊張感と言ったらいいのだろうか、少しでも動けば命を失う。そんな感覚だ。
今この場に居る誰よりも強い者が誰であるのか、それをはっきりと感じた。
「――あなた、何を考えていますの? 旦那様に何かあれば国際問題に――」
「承知の上だぜ」
そう言うとカティアはいつの間にか懐から取り出した何かを床へと放り投げた。
すると、辺り一帯に煙が立ち込め、視界を奪われる。
「うおっ、煙玉か!?」
「……そうだぜ、しかも無臭の特製品さ。おかげで鼻の良いオレはアンタの位置を特定できるってワケさ」
背後からカティアの声!? いつの間にそんな位置へ移動したんだ!?
「わりィな」
「ぐっ……!」
不意に後頭部へ衝撃を受け、意識が朦朧とし始めた。
薄れ行く意識の中、俺の体はカティアに抱えあげられる。このまま連れ去られるのだろうか……。
――あ、獣人って言っても獣臭いわけじゃくて、普通にいい匂いだなぁ。
そんなどうでもいいことを考えながら、俺の意識は暗闇へと落ちていくのであった。
◇
◇
【シルヴィア視点】
◇
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「――嫌だと言うのなら、実力行使に出ることになるかもしれねぇぜ?」
プラセリアからの使者の方、カティア・リーヴォルフさんがそう言った瞬間、私は思わず一瞬怯んでしまいました。
彼女から発せられたのは明確な敵意……それも幾多の戦場を潜り抜けてきた猛者を思わせるぐらいの鋭さでした。
プレッシャーを放つことで得た一瞬の隙を突くように、カティアさんは煙玉を放ちました。
……この後取ったの私の行動が不適切極まりなかったことを深く反省しています。
あろうことか私は自分の身を守ることだけに意識を削がれ、大切な人……ケイタさんの安全が二の次になってしまっていたのです。
「――はっ!? ケイタさん、ケイタさん!?」
案の定、煙が消えた後ケイタさんの姿はどこにも見当たりませんでした。
「ああ、そんな……まさか……」
誘拐された……?
あの時私がケイタさんのことを何よりも優先して守っていれば……自分の身の安全など気にしなければこんなことには……!
「落ち着きなさいシルヴィア。旦那様は無事ですわよ」
いつの間にか開けられた大きな窓から遠くを眺めながら、フラムローゼさんはそう言いました。
「どうしてそんなことが言えるんですか!? ケイタさんが連れ去られて、フラムローゼさんは悔しくないのですか!?」
「……そりゃあ悔しいですわよ。彼女をここへ通したのはわたくしですからね。あの状況で動けなかったのも事実ですし」
「フラムローゼさん……」
そう……ですね。フラムローゼさんもケイタさんを愛しているのですもの、悔しくないはずないのに、私ったら意地悪なことを言ってしまいました……。
「もし暗殺が目的ならこの場で殺していたはずですわ。彼女にはそれだけの実力がありました。……つまり、彼女の目的は話していたとおり、旦那様を自らが所属するカンパニーへと連れていくこと、という可能性が高いですわね」
「ではすぐプラセリアに向かいましょう! 今からなら間に合うはずです!」
「落ち着きなさいと言いましたでしょう。わたくしたちが騒ぎ立ててこの件を公にすれば本当に国際問題に発展しかねませんわ」
そんな……ケイタさんは見知らぬ土地に一人できっと心細いはずです。
ですがフラムローゼさんの言うことはもっともです。事は私たち二人だけかつ秘密裏に進める必要がありますね。
「わかりました……それではまずはここ暫くは留守にしても大丈夫なぐらいの仕事を片付けるとしましょう」
まずは私たちが自由に動ける時間が必要ですからね。
領地の仕事を前倒しで片付け、最低でも一月ぐらいは何もないようにしないとです。
「フフ……それでこそシルヴィア。さあ……わたくしたちを虚仮にしたこと、存分に後悔させて差し上げましょうか」
この時、私とフラムローゼさんの気持ちが、共通の敵を得たことで出会ってから初めて一つになりました。
「「フフ……」」
待っていてくださいケイタさん。必ず私たちが迎えにいきますので、辛いでしょうが耐えてくださいね……!
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