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【三章】技術大国プラセリア
1.プラセリアからの使者
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突然だが俺は家を手に入れた。
今俺が住んでいるのはザッコブが治めていた土地、『アステイル』にある領主館。
前にお世話になっていたヴァイシルトの館に比べればこじんまりとしているが、一庶民だった俺からしたら十分すぎる豪邸だ。
なぜ庶民の俺がここに住んでいるのかというと、決闘の結果ザッコブが失脚したことで、なぜだか俺が後釜としてここの領主としての任に就くことになった。
まあ領主といっても名ばかりで、実際に領地のあれこれを取り仕切っているのは別の人間だ。
その人物とは二人の少女、『シルヴィア』と『フラムローゼ』だ。ちなみに二人とも俺の嫁である。
その一人のフラムローゼ……おっと、愛称で呼ばないと機嫌を損ねるんだった。
フラムは元王族であり、決闘による報酬で俺の嫁さんになった子だ。
俺との結婚のために王族であることを捨てるほどの思いきりのよさと、強気でサバサバとした性格が特徴の女の子だ。
紅葉のように映える赤髪と整った顔立ち……更にははち切れんばかりのワガママボディを持つ美少女が嫁に来るって言うんだ、男としては光栄の一言に尽きる。
もう一人の少女、シルヴィアは俺がこの世界に来て初めて知り合った女の子だ。
セミロングの美しい金髪に青空のように澄んだ碧眼、真面目な性格の女の子だ。
ヴァイシルト家という由緒ある家の生まれでありながら、驕らず謙虚で堅実、礼儀正しい子というのが俺の印象だった。
でも俺がフラムと結婚するという流れになったとき、顔を真っ赤にして『待った』をかけてきたときはさすがに驚いたな。
そしてなぜだかシルヴィアまで俺の嫁になったのだ。
なんだ……俺はここで一生分の運を使い果たしたのか?
こんな可愛い子が二人も同時に嫁に来るとか、下手したら来世の分まで運気を持ってかれてるかもしれないな。
――とまぁなんやかんやで三人の共同生活が始まったんだが、俺はトラブルを招く体質なのか……また面倒な事態に陥りそうな出来事が起きた。
ある日三大大国の一つである『プラセリア共和国』より、俺に会いに来たという客人が一人来訪したのだ。
初見で受けた真面目そうな印象から一変、急に自由奔放な振る舞いをする狼の獣人の女性、カティア・リーヴォルフを前に狼狽していた。
「……ん? なんだァその顔は? 今更さっきの言葉を取り下げるだなんて言ったって聞かねぇぞオレは」
「……あ、いやちょっと驚いちゃってね」
確かにさっき楽にしていいとは言ったけど、限度ってものがあるでしょうよ。態度そのものが変わっちゃってるもの。
まあ、多分こっちの不遜な性格の方が素で、さっきまでは無理して体裁を整えていたんだろうな。
俺としては直接的な被害がなければどっちでもいいんだが……。
「ちょっとあなた、ここはわたくしたちの家でしてよ。家主である旦那様に対してその態度は失礼じゃなくて!?」
あ、やっぱりフラムは怒るよね。
初対面のうえ他人の家の中で取る態度じゃないし、フラムが怒るのも無理はないが……何か被害を受けたわけじゃないし、わざわざ波風を立てるほどでもない。
これ以上険悪な雰囲気になる前に止めておこう。
俺はフラムを手で静止させ、耳打ちする。
「フラム、大丈夫だから。ここはきっと俺の器の大きさの見せ所だよ。だから俺の顔を立てると思って……ね?」
「旦那様……わかりましたわ」
フラムは納得してくれたようで、冷静さを取り戻したようだった。
シルヴィアも俺の意図を汲んでくれたようで、目配せをすると静かに頷き返してくれた。
「ハッ、内緒話は終わりか? なんだ、このオレもあんたのハーレムに加えようって魂胆か?」
「えっ!? ケイタさん……本当ですか!?」
シルヴィアさん!? さっきのアイコンタクトはなんだったの!?
カティアさんの発言に心底驚いたような表情をするシルヴィア。俺のことをなんだと思ってらっしゃるのでしょうか。
確かに長身でモデルさんみたいだなーとか、尻尾と耳をモフモフしたいとか、見た目クール系の美人が荒い性格なのもギャップがあっていいなーとか思っていたけど、嫁に迎えたいとはほんの少ししか思ってないからね!
「ち、違うからねシルヴィア。……カティアさんも無駄に挑発するようなこと言わないでいただきたい!」
「……あァ、すまねぇすまねぇ。少しからかいたくなってよ。それと、呼び捨てでかまわねぇよ。オレもそうすっから」
「……わかったよカティア。――それで、今日ここへ来た用件はなんだ?」
わざわざ国を跨いでまで俺個人に会いに来たってことは、それなりの理由があるのだろう。
俺は固唾を呑みながら返答を待った。
「おう、まどろっこしいことは嫌いだから簡潔に言うぜ? ケイタ、あんたの腕をウチのボスが欲している。少しでいいんだ、わりぃがプラセリアまで来てくんねぇかな?」
「――ボス? 何かの組織なのか?」
共和国というからには王政国家ではないはずだ。ということは国そのものからの働きかけではないだろう。
もしヤバい組織からのお誘いだったらお断り一択だ。カティアの返答次第では即座に帰っていただくことになるな。
「安心しな、ウチは至極まっとうなカンパニーだよ。オレはまぁ……こんな性格だがそこは信用してほしい」
カンパニー……会社か。
そういや前にプラセリアについて少し調べたっけな。
プラセリアでは数多くのカンパニーが立ち上げられ、それぞれが覇権を争い合っているんだったか。
ふむ……正直に言うと是が非でも行きたい。この世界における最高峰のプラモデル制作技術ってのを見てみたいし、吸収できるところがあれば取り入れたいしね。
でも一応俺も今は領主やってるし、国から出るのって絶対なんかしらの手続きいるよね?
それにいつ帰ってこれるかもわからないし、アークライト王国への魔動人形の納品ノルマもあるしなぁ……。
俺の前向きな気持ちとは裏腹に、実際はしがらみだらけだ。
――はて、どうしたものか。
今俺が住んでいるのはザッコブが治めていた土地、『アステイル』にある領主館。
前にお世話になっていたヴァイシルトの館に比べればこじんまりとしているが、一庶民だった俺からしたら十分すぎる豪邸だ。
なぜ庶民の俺がここに住んでいるのかというと、決闘の結果ザッコブが失脚したことで、なぜだか俺が後釜としてここの領主としての任に就くことになった。
まあ領主といっても名ばかりで、実際に領地のあれこれを取り仕切っているのは別の人間だ。
その人物とは二人の少女、『シルヴィア』と『フラムローゼ』だ。ちなみに二人とも俺の嫁である。
その一人のフラムローゼ……おっと、愛称で呼ばないと機嫌を損ねるんだった。
フラムは元王族であり、決闘による報酬で俺の嫁さんになった子だ。
俺との結婚のために王族であることを捨てるほどの思いきりのよさと、強気でサバサバとした性格が特徴の女の子だ。
紅葉のように映える赤髪と整った顔立ち……更にははち切れんばかりのワガママボディを持つ美少女が嫁に来るって言うんだ、男としては光栄の一言に尽きる。
もう一人の少女、シルヴィアは俺がこの世界に来て初めて知り合った女の子だ。
セミロングの美しい金髪に青空のように澄んだ碧眼、真面目な性格の女の子だ。
ヴァイシルト家という由緒ある家の生まれでありながら、驕らず謙虚で堅実、礼儀正しい子というのが俺の印象だった。
でも俺がフラムと結婚するという流れになったとき、顔を真っ赤にして『待った』をかけてきたときはさすがに驚いたな。
そしてなぜだかシルヴィアまで俺の嫁になったのだ。
なんだ……俺はここで一生分の運を使い果たしたのか?
こんな可愛い子が二人も同時に嫁に来るとか、下手したら来世の分まで運気を持ってかれてるかもしれないな。
――とまぁなんやかんやで三人の共同生活が始まったんだが、俺はトラブルを招く体質なのか……また面倒な事態に陥りそうな出来事が起きた。
ある日三大大国の一つである『プラセリア共和国』より、俺に会いに来たという客人が一人来訪したのだ。
初見で受けた真面目そうな印象から一変、急に自由奔放な振る舞いをする狼の獣人の女性、カティア・リーヴォルフを前に狼狽していた。
「……ん? なんだァその顔は? 今更さっきの言葉を取り下げるだなんて言ったって聞かねぇぞオレは」
「……あ、いやちょっと驚いちゃってね」
確かにさっき楽にしていいとは言ったけど、限度ってものがあるでしょうよ。態度そのものが変わっちゃってるもの。
まあ、多分こっちの不遜な性格の方が素で、さっきまでは無理して体裁を整えていたんだろうな。
俺としては直接的な被害がなければどっちでもいいんだが……。
「ちょっとあなた、ここはわたくしたちの家でしてよ。家主である旦那様に対してその態度は失礼じゃなくて!?」
あ、やっぱりフラムは怒るよね。
初対面のうえ他人の家の中で取る態度じゃないし、フラムが怒るのも無理はないが……何か被害を受けたわけじゃないし、わざわざ波風を立てるほどでもない。
これ以上険悪な雰囲気になる前に止めておこう。
俺はフラムを手で静止させ、耳打ちする。
「フラム、大丈夫だから。ここはきっと俺の器の大きさの見せ所だよ。だから俺の顔を立てると思って……ね?」
「旦那様……わかりましたわ」
フラムは納得してくれたようで、冷静さを取り戻したようだった。
シルヴィアも俺の意図を汲んでくれたようで、目配せをすると静かに頷き返してくれた。
「ハッ、内緒話は終わりか? なんだ、このオレもあんたのハーレムに加えようって魂胆か?」
「えっ!? ケイタさん……本当ですか!?」
シルヴィアさん!? さっきのアイコンタクトはなんだったの!?
カティアさんの発言に心底驚いたような表情をするシルヴィア。俺のことをなんだと思ってらっしゃるのでしょうか。
確かに長身でモデルさんみたいだなーとか、尻尾と耳をモフモフしたいとか、見た目クール系の美人が荒い性格なのもギャップがあっていいなーとか思っていたけど、嫁に迎えたいとはほんの少ししか思ってないからね!
「ち、違うからねシルヴィア。……カティアさんも無駄に挑発するようなこと言わないでいただきたい!」
「……あァ、すまねぇすまねぇ。少しからかいたくなってよ。それと、呼び捨てでかまわねぇよ。オレもそうすっから」
「……わかったよカティア。――それで、今日ここへ来た用件はなんだ?」
わざわざ国を跨いでまで俺個人に会いに来たってことは、それなりの理由があるのだろう。
俺は固唾を呑みながら返答を待った。
「おう、まどろっこしいことは嫌いだから簡潔に言うぜ? ケイタ、あんたの腕をウチのボスが欲している。少しでいいんだ、わりぃがプラセリアまで来てくんねぇかな?」
「――ボス? 何かの組織なのか?」
共和国というからには王政国家ではないはずだ。ということは国そのものからの働きかけではないだろう。
もしヤバい組織からのお誘いだったらお断り一択だ。カティアの返答次第では即座に帰っていただくことになるな。
「安心しな、ウチは至極まっとうなカンパニーだよ。オレはまぁ……こんな性格だがそこは信用してほしい」
カンパニー……会社か。
そういや前にプラセリアについて少し調べたっけな。
プラセリアでは数多くのカンパニーが立ち上げられ、それぞれが覇権を争い合っているんだったか。
ふむ……正直に言うと是が非でも行きたい。この世界における最高峰のプラモデル制作技術ってのを見てみたいし、吸収できるところがあれば取り入れたいしね。
でも一応俺も今は領主やってるし、国から出るのって絶対なんかしらの手続きいるよね?
それにいつ帰ってこれるかもわからないし、アークライト王国への魔動人形の納品ノルマもあるしなぁ……。
俺の前向きな気持ちとは裏腹に、実際はしがらみだらけだ。
――はて、どうしたものか。
応援ありがとうございます!
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