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【三章】技術大国プラセリア

29.ビューティフル

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 ゴードンじいさんが敵機のヘイトを一身に集めていたため、残る俺たちはかなり近い距離まで接近することができていた。

「あと少しだ。俺が全ての攻撃を受け止める盾になる、そのまま突っ込むぞ……!」

「了解!」

 ゴリさんの機体、ヘビーディックは普通の魔動人形より一回り大きい。更には巨大な盾を構えることで、この距離ならば真後ろに追従する俺とキールの動向を察知するのは困難だろう。
 
「小癪なぁっ! そんなもの、まとめて吹き飛ばしてあげるわっ!」

 ある程度接近したとはいえ、近接攻撃を仕掛けるにはまだ距離がある。あと数秒の時間をかせがねばならない。
 だがその時間を敵が許容するはずもなく、三本の触手の先端を一点に集中させ、魔力を収束させている。

 全コアから収束された魔力量は、今までの攻撃の比ではないのは一目見て明らかだった。
 
「オラァァァァッ!」

「――数秒はもたせる! 後は任せたぞ!」

 一点に集まった魔力は、極太のレーザーとなり放たれた。ヘビーディックは盾を地面に突き刺し、それを正面から受け止める。
 エーテルコーティングが施されている分厚い盾ではあるが、ゴリさんの言うとおりもって数秒だろう。迫り来る光からは、そう思わせるだけの圧力を感じる。

 激しい音と光が感覚を奪う。次の一手を打たねばならないのに、もう一歩がなかなか踏み出せない。

「――何をグズグズしてやがる。悪いが俺が先に行かせてもらうぞ」

「キール……!?」

 キールの機体、『ブルーテンペスト』がヘビーディックを踏み台にして大きく跳んだ。ブルーテンペストは無駄な装甲を削減し、さらには空気抵抗を考慮してか流線型をしている。
 その理由は至極単純、『少しでも長く空を飛ぶため』だ。

 跳び上がったブルーテンペストは、スラスターを全開にしながら背部のウイングバインダーを巧みに操り上空へと飛ぶ。
 
 現存する魔動人形で完全な飛行能力をもつものは存在しない。だがキールの所属するカンパニーでは、長年の研究の成果もあり、僅かな時間であるが飛行を可能にしたのだ。

「――っ!? と、飛んだの!?」

 ブルーテンペストは、会場に張り巡らされたシールドの高度ギリギリまであっという間に上昇してみせた。
 真上に位置取られたピーコックキマイラは、慌ててレーザーの照準をブルーテンペストへと向ける。

 しかし上空から即座に背後へと回り込んだブルーテンペストの動きに、触手がついてこれないでいた。

「その慌てよう……背後を取られるとはこれっぽっちも思っていなかったようだな!!」

 この戦いの中、ピーコックキマイラは一歩も動いていない。いや、まともに動けないのだ。
 多くのコアを無理矢理継ぎ接ぎしているため、機体重量は相当に重い。多少移動するならともかく、瞬時に方向転換するのは不可能であった。

 武器の二刀を抜き放ち、ブルーテンペストは無防備な敵の背中へと突撃する。

 一瞬のうちにブルーテンペストがピーコックキマイラへと肉薄する。この距離まで近付けばバリアは関係ない。

「――はぁぁぁっ!」

「……このっ! ナメるんじゃないわよっ!!」

 しかし、交差するように放たれた二つの斬撃が敵を切り裂くことはなかった。
 胴体部を狙った必殺の一撃だったが、ピーコックキマイラが触手を無造作に背後に突き出した内の一つ、その一つに機体を貫かれ、すんでのところで攻撃が止まってしまっていた。

「フフ……ハハハッ! 惜しかったわねぇ! このワタシにここまで近付けるとはね! でも残念、ここまでみたいね」

 触手を槍に見立てて魔力を纏わせ、恐らくは当てずっぽうで放ったであろう攻撃は、不幸なことにブルーテンペストを貫いた。
 
「ケッ……おいしいとこ持っていきやがって」

「……? 何を言って……ハッ!?」

 ピーコックキマイラが触手を全て背後に突き出したその瞬間、俺は限界突破リミットブレイクを発動させながら全力で突っ込んでいた。

 ヘビーディックはレーザーを貫通させることなく受けきった。そのおかげで背後にいた俺は無傷で済み、今こうして動けている。

「ゴリさん……ありがとうございます!」

 レーザーを貫通こそさせなかったが、機能を停止させ粒子化するヘビーディック。そして見事な空中機動を見せ、大きな隙を作ってくれたブルーテンペスト。
 この二機が与えてくれた最後のチャンスを逃さないよう、俺は全力でスラスターを噴かす。

「しぶとく生き残っていたのね! でもアンタに何ができるって言うのかしら!?」

 ありがたいことに奴はサイクロプスを侮っているようだ。まあ、さっきまでの攻防で、見た目的には完全な無手、サイクロプスは全ての武装を失っている。

「ところがどっこい!」

 確かに格闘攻撃を仕掛けるにはまだ距離がある。限界突破で速度が劇的に上昇しているとはいえ、ブルーテンペストを投げ捨て、触手で迎撃するのは十分に可能だろう。
 だが、それはサイクロプスが本当に非武装だったらの話だ。

 サイクロプスの右腕を引き、何もない空間へと拳を放つ。

「――喰らえっ! 鉄拳爆発、ロケットパァーーーンチッ!!」

 右腕を突き出すのと同時に、前腕部に搭載されたスラスターを全開にする。前回の戦いで使った拳速を増すギミックを更に強化し、拳自体を飛ばせるようにスラスターをかなり増設している。
 
 正直リンがこのアイデアを出してきた時は驚いた。
 俺のいた日本では、ロボットアニメ好きには結構ポピュラーな武装なのだが、まさか異世界でこの発想が出てくるとは思わなかった。恐らくは魔動人形では初の攻撃手段であり、相手の虚を突くにはもってこいだろう。

 現に飛んでくる拳に全く対応しきれずに、まともにくらっている。

「ぐあっ!?」

 魔力を用いた攻撃ではないため、バリアは無意味だ。ロケットパンチは相手の頭部に直撃し、その衝撃で上体を捻らせる。
 
 残念ながら頭部を吹き飛ばすほどの威力は出なかったようだ。

「もういっちょ!」

 ギギギという音を立てながら捻った上半身をこちらへと向きなおそうとしているところに、今度は左腕のロケットパンチを飛ばす。
 
 ガァァァンッ!

 左腕はまたしても頭部にクリーンヒットし、更に体勢を崩した。

「このぉぉぉっ!! ――っ!?」

 ピーコックキマイラが姿勢を戻した時、既にサイクロプスはピーコックキマイラの懐へと、体勢低くしながら潜り込んでいた。
 急に視界から外れたので、まるで消えたかのように錯覚しただろう。ターゲットを見失って一瞬ではあるが硬直していた。

「これで終わらせる!」

 この至近距離ではその一瞬の隙が命取りとなる。

 俺は間髪をいれずに、もう一つ仕込んでおいたギミックを発動させた。
 
 前腕部はロケットパンチの使用で失われていたが、その接続部だった肘間接部分には、ロケットパンチ発射の際の起爆剤とするための魔力が噴出する機能が組み込まれている。
 その機能に限界突破で過剰に魔力を注ぎ込むと、噴出する魔力はぐんぐんと伸びていき、まるで剣のような形状をとった。

「はぁぁぁっ!」

 一閃、また一閃とピーコックキマイラの装甲を容易く引き裂き、その歪な姿はバラバラと崩壊していった。

「そ、そんな……このワタシが……?」
 
 崩れ落ち、移ろいゆく視界の中でパヴォローヌが見たのは、黄金に輝く魔動人形の姿。
 そこには、彼が憧れ続けていた美しさがあった。装飾など無くても、様々なものを継ぎ接ぎしなくても感じる美しさ。
 全ての無駄を削ぎ落としたような究極の『美』。自分の目指すところはここなのだと、認識した。
 
美しいビューティフル……!」

 そう言い残し、ピーコックキマイラは大量の粒子と化した。
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