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【三章】技術大国プラセリア
56.家族になろう
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「「リンっ!」」
ガンガンと球体を叩きながら、カティアとふたりで何度も名前を呼ぶ。
「リン、返事をしてくれ。リンっ!」
――そして、何度目の呼び掛けだったろうか。ふと、球体の中から声が聞こえた気がした。
「――んぅ」
「――っ!? リン? リン! 気がついたのか!?」
うめき声のような、起き抜けの一言のような、どちらともつかないニュアンスを含んだ微かな声が確かに聞こえた。
「リン、オレだ! ケイタも一緒だぞ! 迎えに来たんだ!」
「ここは……? カーちゃん……ケーくん……?」
呆けてるような声色だが、この声は間違いなくリンだ。やった……やったぞ。リンに声が届いたんだ。
俺たちのことを認識できているみたいだし、ちゃんと頭は回っているようだな。
「リン、大丈夫だったか? どこか痛いところはないか?」
「……うん、だいじょぶ。でも、ここはどこなの?」
よかった……怪我とかはないみたいだな。しかし状況がわからずに混乱しているみたいだ。
「そうか、それはよかった……! それでな、リン。今リンは牢屋みたいなのに閉じ込められているんだ。俺たちはリンをそこから出してやりたいんだけど、外からじゃびくともしなくてさ。内側からなにかできないか試してくれないか?」
「ろうや……」
リンが深刻そうに呟く。いつもの明るい調子とは真逆のトーンだ。怪我はしてないと言ってたけど、やはり不安やらなんやらで錯乱状態になっているのだろうか。
「リン、オレたちがすぐにそこから出してやる。だから落ち着いて中の状況を教えてくれ」
「……ごめんなさい」
「「え……?」」
カティアはリンを落ち着かせようと声をかけたが、返ってきた言葉は、謝罪の言葉だった。
想定外の事態に、俺たちはつい言葉を失ってしまう。
「……かってにいなくなっちゃって、ごめんなさい。リンのせいで、いっぱいいっぱい迷惑かけちゃって、ごめんなさい。……リンが悪い子だから牢屋に入れられたんだよね」
ああ……そうか、なんとなくわかった。リンは罪を感じているんだ。
あの日、確かにケンカ別れみたいな感じでひとりで走り去ってしまったこと。そのせいで俺やカティアに迷惑をかけてしまったのだと。
「違う! リンは悪くねぇ、全部GODSの連中がやらかしたことだ。お前が罪の意識を背負うことじゃねぇよ!」
カティアの言うとおりだ。悪いのはGODSのやつらで、リンが謝ることなんてひとつもない。
「でも、リンのせいでカーちゃんがいっぱいなぐられて、血があんなに出て……死にそうになっちゃって……! だから、ごめんなさい」
「――ふざけるなっ!」
「――っ!」
カティアが声を荒らげる。しかし強い語気とは裏腹に、その瞳にはうっすらと涙が滲んでいた。
「迷惑だぁ……? そんなもんいくらでもかけろ! リンが困ってたら身体張って助けるし、間違ってることをしたら本気でぶん殴ってでも止める。どんなときだって持ちつ持たれつの関係だ……そういうもんだろ、"家族”ってのは!」
「カーちゃん……」
「お前はオレのこと、家族だって思ってなかったのかよ、リンっ!!」
ふたりの血は繋がっていない。しかし、共に過ごした時間や記憶は、家族と呼べるほど濃密だったであろうことは、ふたりの日常を見ていた俺には容易に想像ができる。
それはリンの返答からも明らかだった。
「そんなことない、そんなことないよっ! カーちゃんはとっても大切で……とっても大好きだよ!」
「なら謝る必要なんてねぇだろ? 家族を支えるのは当たり前なんだからな。いいかリン、んなときはこう言うんだよ」
「……?」
「――『ありがとう』ってな」
コツン、とカティアが優しく球体に拳を当てる。
「――うん、うん。ありがとうね、カーちゃん……ありがとう……!」
外からじゃ中の様子は見えないけれど、リンが内側からカティアの手に触れた……気がした。壁越しだけど、確かに。
その瞬間、桜が舞うかのごとく桃色の閃光が走る。
「っ!? なんだ!?」
閃光と同時に、ピシッ、というなにかが割れる音がした。
まさかと思いリンが囚われている球体を調べる。するとさっきまでは傷ひとつなかったというのに、なにやら切れ目のようなものが入っていたのだった。
「カティア、これは……!」
「ああ、多分いけるぞ。……リン、危ねぇから少し屈んでいてくれ」
切れ目は真横に続いている。もし球体の外殻が切断されているのならば、上の部分を持ち上げることができるかもしれない。
俺とカティアは互いに向かい合うようにポジショニングし、掛け声とともに目一杯力を込めた。
「「せーのっ……!」」
ガタン!
さすがに重かったが、切断された箇所をずり落とすことができた。
重労働を終え呼吸を整えていると、球体の中からひょこっと猫耳が姿を現す。
淡い水色の毛並み……ああ、間違いなくリンだ。
そのあとリンは恐る恐る顔を覗かせる。久々に陽の光を浴びたからか、眩しそうに目を細めていた。
「リンっ!」
カティアが両手を広げて待っているのを見たリンは、迷わずにその胸めがけ飛び込んだ。
「カーちゃんっ!」
「リンっ、よかった……! 無事でいてくれて、本当に……!」
「うん、ありがとうねカーちゃん」
そう言ってリンは満面の笑みを俺たちに見せてくれた。出会ったころの、あの屈託のない笑顔を。
よかった、本当によかった……。
離れていた心の距離を縮めるように、ふたりは互いをぎゅっと抱き締めあっている。やっぱり家族っていいもんだよな。
――家族、か。
実は前々から思っていたことがある。本当ならコンペティションが終わったあとにでも話そうかと思っていたんだけど、この状況だしうやむやになるだろう。
なら、今このタイミングで言ってしまったほうがいいかもしれないな。ちょっと恥ずかしいけど、俺の素直な気持ちを伝えよう。
「リン、あのな……」
「あっ、ケーくん……ごめんなさい。リンのせいでいっぱい迷惑かけちゃって……」
リンはカティアから離れ、俺へと向き直る。そして、申し訳なさそうに眉尻を下げながら俺へ謝罪した。
俺には『ごめんなさい』か。
そりゃそうだよな。自分で望んだことではないとはいえ、赤の他人……とまではいかないが、仲の良い友達レベルの相手に、ボロボロになるほどの苦労をかけさせてさしまったんだ。
……でも、俺の気持ちは違う。迷惑だなんて思っていない、身体だっていくらでも張ってやる。出会って間もないのに、おこがましいかもしれないけど、『家族』であるカティアと同じ気持ちでこの戦いに臨んだんだ。
「あのなリン、その……俺にも『ありがとう』って、言って欲しいんだ」
俯くリンの頭に触れ、軽く撫でてやる。
しかしリンは言葉の真意を理解できていないようで、不思議そうな顔で俺を見上げていた。
「その……つまりな、俺と『家族』になって欲しいんだ」
俺の本心を、恥ずかしがらずにより明確でわかりやすい言葉にしてリンへと伝える。
どうやら意図が伝わったようで、リンは耳をピンと立て、目を見開いた。
「か、ぞく……? リンと、ケーくんが……?」
「ああ、嫌か?」
「いやじゃない! いやじゃないよ! うれしい……リンもそうなったらいいな、って思ってたの!」
リンは俺の頭を軽く越えるぐらい高くジャンプして俺に飛び付いてきた。相変わらずすごい身体能力だけど、見た目のとおり軽いので俺でもなんとか受け止めることができる。
「うおっと! はは、じゃあオッケーってことか?」
「うん、おーけーおーけーっ!」
いつの間にかリンは俺の肩に乗っかり、両足をぱたぱたとさせていた。いわゆる肩車ってやつだ。
ぺちぺちと俺の頭を叩くリン。この状態だと顔は見えないが、きっと満開の花を咲かせていることだろう。こんなに喜んでもらえるなら、思いきって提案したかいがあるというものだ。
ガンガンと球体を叩きながら、カティアとふたりで何度も名前を呼ぶ。
「リン、返事をしてくれ。リンっ!」
――そして、何度目の呼び掛けだったろうか。ふと、球体の中から声が聞こえた気がした。
「――んぅ」
「――っ!? リン? リン! 気がついたのか!?」
うめき声のような、起き抜けの一言のような、どちらともつかないニュアンスを含んだ微かな声が確かに聞こえた。
「リン、オレだ! ケイタも一緒だぞ! 迎えに来たんだ!」
「ここは……? カーちゃん……ケーくん……?」
呆けてるような声色だが、この声は間違いなくリンだ。やった……やったぞ。リンに声が届いたんだ。
俺たちのことを認識できているみたいだし、ちゃんと頭は回っているようだな。
「リン、大丈夫だったか? どこか痛いところはないか?」
「……うん、だいじょぶ。でも、ここはどこなの?」
よかった……怪我とかはないみたいだな。しかし状況がわからずに混乱しているみたいだ。
「そうか、それはよかった……! それでな、リン。今リンは牢屋みたいなのに閉じ込められているんだ。俺たちはリンをそこから出してやりたいんだけど、外からじゃびくともしなくてさ。内側からなにかできないか試してくれないか?」
「ろうや……」
リンが深刻そうに呟く。いつもの明るい調子とは真逆のトーンだ。怪我はしてないと言ってたけど、やはり不安やらなんやらで錯乱状態になっているのだろうか。
「リン、オレたちがすぐにそこから出してやる。だから落ち着いて中の状況を教えてくれ」
「……ごめんなさい」
「「え……?」」
カティアはリンを落ち着かせようと声をかけたが、返ってきた言葉は、謝罪の言葉だった。
想定外の事態に、俺たちはつい言葉を失ってしまう。
「……かってにいなくなっちゃって、ごめんなさい。リンのせいで、いっぱいいっぱい迷惑かけちゃって、ごめんなさい。……リンが悪い子だから牢屋に入れられたんだよね」
ああ……そうか、なんとなくわかった。リンは罪を感じているんだ。
あの日、確かにケンカ別れみたいな感じでひとりで走り去ってしまったこと。そのせいで俺やカティアに迷惑をかけてしまったのだと。
「違う! リンは悪くねぇ、全部GODSの連中がやらかしたことだ。お前が罪の意識を背負うことじゃねぇよ!」
カティアの言うとおりだ。悪いのはGODSのやつらで、リンが謝ることなんてひとつもない。
「でも、リンのせいでカーちゃんがいっぱいなぐられて、血があんなに出て……死にそうになっちゃって……! だから、ごめんなさい」
「――ふざけるなっ!」
「――っ!」
カティアが声を荒らげる。しかし強い語気とは裏腹に、その瞳にはうっすらと涙が滲んでいた。
「迷惑だぁ……? そんなもんいくらでもかけろ! リンが困ってたら身体張って助けるし、間違ってることをしたら本気でぶん殴ってでも止める。どんなときだって持ちつ持たれつの関係だ……そういうもんだろ、"家族”ってのは!」
「カーちゃん……」
「お前はオレのこと、家族だって思ってなかったのかよ、リンっ!!」
ふたりの血は繋がっていない。しかし、共に過ごした時間や記憶は、家族と呼べるほど濃密だったであろうことは、ふたりの日常を見ていた俺には容易に想像ができる。
それはリンの返答からも明らかだった。
「そんなことない、そんなことないよっ! カーちゃんはとっても大切で……とっても大好きだよ!」
「なら謝る必要なんてねぇだろ? 家族を支えるのは当たり前なんだからな。いいかリン、んなときはこう言うんだよ」
「……?」
「――『ありがとう』ってな」
コツン、とカティアが優しく球体に拳を当てる。
「――うん、うん。ありがとうね、カーちゃん……ありがとう……!」
外からじゃ中の様子は見えないけれど、リンが内側からカティアの手に触れた……気がした。壁越しだけど、確かに。
その瞬間、桜が舞うかのごとく桃色の閃光が走る。
「っ!? なんだ!?」
閃光と同時に、ピシッ、というなにかが割れる音がした。
まさかと思いリンが囚われている球体を調べる。するとさっきまでは傷ひとつなかったというのに、なにやら切れ目のようなものが入っていたのだった。
「カティア、これは……!」
「ああ、多分いけるぞ。……リン、危ねぇから少し屈んでいてくれ」
切れ目は真横に続いている。もし球体の外殻が切断されているのならば、上の部分を持ち上げることができるかもしれない。
俺とカティアは互いに向かい合うようにポジショニングし、掛け声とともに目一杯力を込めた。
「「せーのっ……!」」
ガタン!
さすがに重かったが、切断された箇所をずり落とすことができた。
重労働を終え呼吸を整えていると、球体の中からひょこっと猫耳が姿を現す。
淡い水色の毛並み……ああ、間違いなくリンだ。
そのあとリンは恐る恐る顔を覗かせる。久々に陽の光を浴びたからか、眩しそうに目を細めていた。
「リンっ!」
カティアが両手を広げて待っているのを見たリンは、迷わずにその胸めがけ飛び込んだ。
「カーちゃんっ!」
「リンっ、よかった……! 無事でいてくれて、本当に……!」
「うん、ありがとうねカーちゃん」
そう言ってリンは満面の笑みを俺たちに見せてくれた。出会ったころの、あの屈託のない笑顔を。
よかった、本当によかった……。
離れていた心の距離を縮めるように、ふたりは互いをぎゅっと抱き締めあっている。やっぱり家族っていいもんだよな。
――家族、か。
実は前々から思っていたことがある。本当ならコンペティションが終わったあとにでも話そうかと思っていたんだけど、この状況だしうやむやになるだろう。
なら、今このタイミングで言ってしまったほうがいいかもしれないな。ちょっと恥ずかしいけど、俺の素直な気持ちを伝えよう。
「リン、あのな……」
「あっ、ケーくん……ごめんなさい。リンのせいでいっぱい迷惑かけちゃって……」
リンはカティアから離れ、俺へと向き直る。そして、申し訳なさそうに眉尻を下げながら俺へ謝罪した。
俺には『ごめんなさい』か。
そりゃそうだよな。自分で望んだことではないとはいえ、赤の他人……とまではいかないが、仲の良い友達レベルの相手に、ボロボロになるほどの苦労をかけさせてさしまったんだ。
……でも、俺の気持ちは違う。迷惑だなんて思っていない、身体だっていくらでも張ってやる。出会って間もないのに、おこがましいかもしれないけど、『家族』であるカティアと同じ気持ちでこの戦いに臨んだんだ。
「あのなリン、その……俺にも『ありがとう』って、言って欲しいんだ」
俯くリンの頭に触れ、軽く撫でてやる。
しかしリンは言葉の真意を理解できていないようで、不思議そうな顔で俺を見上げていた。
「その……つまりな、俺と『家族』になって欲しいんだ」
俺の本心を、恥ずかしがらずにより明確でわかりやすい言葉にしてリンへと伝える。
どうやら意図が伝わったようで、リンは耳をピンと立て、目を見開いた。
「か、ぞく……? リンと、ケーくんが……?」
「ああ、嫌か?」
「いやじゃない! いやじゃないよ! うれしい……リンもそうなったらいいな、って思ってたの!」
リンは俺の頭を軽く越えるぐらい高くジャンプして俺に飛び付いてきた。相変わらずすごい身体能力だけど、見た目のとおり軽いので俺でもなんとか受け止めることができる。
「うおっと! はは、じゃあオッケーってことか?」
「うん、おーけーおーけーっ!」
いつの間にかリンは俺の肩に乗っかり、両足をぱたぱたとさせていた。いわゆる肩車ってやつだ。
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