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【三章】技術大国プラセリア
57.再戦
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「……よかったなリン。ケイタに幸せにしてもらうんだぞ」
カティアが俯きがちにそう言った。
よく見ると、その表情には若干だが影が差しているようだった。
「……ん? なに言ってるんだ、カティアもいっしょに決まってるだろ。なぁリン?」
まさかとは思うが、これでリンと別れることになると勘違いしてるのか?
もちろん俺はふたりを引き離すつもりなど毛頭ない。リンと家族になるということは、カティアも同様に家族になるということだ。
確認の意味も込めて、俺はリンに同意を求める。
「ケーくんといっしょなのは嬉しいけど、カーちゃんもいっしょじゃなきゃ、リンやだよ!」
やはりというか、リンはカティアと別れるなどと、これっぽっちも考えていないようだ。
「だよなあ。カティアお前まさか、『ひとりになっちゃう……』とか思ってたのか?」
「おまっ! いや、だってよ……」
「だってもへちまもないわ! 俺は、カティアにもそばにいて欲しいと思ってるよ」
「――っ! そ、そうかよ……」
カティアは俺に背を向けるが、否定の言葉はなかった。……というか、尻尾がぶんぶんと揺れてるんだが。いやあ、獣人ってのは感情表現の方法が豊かで、わかりやすくて助かるわぁ。
「ほら、家も壊されちゃっただろ。だから俺の家に来るといい、部屋も余ってるしな。……まあ国を出れるかどうかはわからないけど、その辺は落ち着いてから考えるとしよう」
「わ、わかったよ――」
カティアが照れ臭そうにしながら振り返ったと思ったら、瞬時に表情が一変し、血の気が引いたように顔が青ざめていた。
「……ん? 影……?」
太陽に雲がかかった程度の暗さじゃない。まるでビル影にでもいるような暗闇が俺たちを覆った。
「――ッ! 危ねぇ、避けろっ!」
ぐいっとカティアに思い切り引っ張られ、リンとともに前方数メートル先へと身を投げ出された。その直後、大きく地面が揺れる。
「――くっ、もう起きたのか!?」
たたらを踏みながら体勢を整え、背後を振り返る。そこには、上半身だけになった巨人がいた。
最初よりかはずいぶん小さくなってはいるが、上半身のみにも関わらず一般的な魔動人形と同程度の大きさがあった。
その腕が、今まさに俺たちがいた位置に振り下ろされていたのだ。
「あっ、ぶねっ……!」
まさに間一髪。あと一秒でも動くのが遅ければ、間違いなくぺしゃんこになっていただろう。
突然のことに心臓が早鐘を打つが、こんなときにこそ冷静に、だ。一呼吸おいて心を落ち着かせると、ひとつの違和感に気付いた。
イマジナリークラフターはリンといっしょに吐き出されたはずだ。イマジナリークラフターを取り込んでいないというのに、あの巨人の姿を形成できるはずがない。
そして、今腕が振り落とされた場所、そこにはリンが閉じ込められていた球体……その中にはイマジナリークラフターがあったんだ。そんなだいじなものごと叩き潰したのはなぜだ?
……いや、どちらかというと、俺たちよりもイマジナリークラフターの方を狙ったようにも思える。
くそっ、わからないことだらけだ……!
「ハ……ハハハッ!」
巨人から声が響く。低く重厚な響き……ガオウの声だ。笑っていたが、その声色には怒気がふんだんに練り込まれている。
「ああ……ああ! この我輩をここまで追い詰めたのは誉めてやろう。……だが、そんな奇跡もこれまでだ。この全能の力は既に我が物となった!」
「な……に……!? どういうことだ!?」
全能の力……おそらくはイマジナリークラフターのことだろう。しかしそれはたった今、自らの手で破壊したはずだ。
「フン……冥土の土産に教えてやろう。イマジナリークラフターはもうひとつあるのだよ。そして解析は終了した、もうそんな不純物のガキなど必要としない」
バカな……もうひとつのイマジナリークラフターだと!?
そんでもって、今までは解析を進めながら戦ってたってことは、本気じゃなかったってことか!?
そんな会話をしている間にも、巨人はゆっくりとその姿を取り戻しつつある。
さっき腕を振り下ろした位置が射程ギリギリのようだが、徐々に力を取り戻しているならばそう安心もしていられない。それこそ魔力弾のひとつでも撃たれたらおしまいだ。
「くっ、シルバライザーはいけるか……!?」
魔動人形を再び顕現させるためのクールタイムが終わっていることを祈りながら、俺はスマホの画面を確認する。
すると、さっき見た桃色の光が現れ、スマホに吸い込まれるように消えていった。突然のことなので驚きはしたが、なんだか暖かいものを感じる。
きっと悪いものではないだろう。思えば、リンを助けたのもこの光だ。もしかしたら、リンの両親が魂となって……?
……いや、今はそれどころじゃない。気持ちを切り替え、改めてスマホの画面を覗くと、見慣れない表示が浮かんでいた。
「――っ、これは!」
表示されていたのは新機能追加の文字。その名は『イマジナリークラフト』。説明など読まず、俺はスマホをタップする。
「イマジナリークラフト起動。素体としてシルバライザーを選択……追加機能? 素材……? ええい、ままよ!」
説明を見ないまま、直感で次々とタップしていく。そして最後に『完了』のアイコンがでかでかと表示されたので、それをタップする。
「カティア、リン!」
俺はふたりの手を取り、クールタイムが明けていたシルバライザーを起動させた。
「人形接続っ!」
その宣言と同時に、ポケットにねじ込んでいたシルバライザーが巨大化した姿で顕現する。
そしてそのコックピットであるコアの中には、俺とカティア、そしてリンの姿があった。
魔動人形を起動する際に搭乗者に触れていると、他者も同時にコアの中へと転移することができるのだ。前に本で読んだのを、とっさに思い出せてよかった。
ただ、さすがに一人用のコックピットに三人もいると結構狭苦しくなるな。だからといって外に放っておくわけにもいかないし、ここにいたほうが安全だろう。
それに、ふたりを巻き込んだのには理由がある。
「フン、いまさらたった一体の魔動人形でなにができる! 武装すら持っていないではないか!」
ガオウの言うとおり、シルバライザーの手には武器はひとつも握られていなかった。魔轟砲はチャージに時間がかかりすぎるので、あらかじめ外してある。
だが問題はない。俺の予想通りなら、奴と同じことができるはずだからな……!
「よいしょお!」
俺はシルバライザーを跪かせ、両手を地面……いや、地面に散乱した『泥』へと触れさせた。
すると、海の底のように真っ黒だった泥は、シルバライザーを中心に、じわじわと純白へ色を変えていった。
「な……に!?」
「悪いな! 使わせてもらうぜ!」
白へと変わった泥は、こちらの制御下に入った証だ。なぜ色が変わるかはわからないけど、わかりやすくていいな。
「まさか、貴様も……!? ええい、させるものか!」
黒い泥が急速にガオウの元へと集束していく。
……ちっ、さすがに完全に向こうの制御下にある分は奪えないようだ。だが地面に散乱していた泥の半分ぐらいはこっちのものにした。これなら戦える……!
「――おおおおおっ!!」
ガオウの咆哮とともに、泥の巨人はひとつの球体へと変貌した。そしてその中からエクスドミネーターの本体が姿を現す。
そのあとすぐに、球体から蛇のように数本の触手が伸び、エクスドミネーターへと絡み付く。
それはぐねぐねと蠢きながら、やがて分厚い装甲を象った。そのせいで、どちらかといえば細身だったエクスドミネーターは、ごてごてとしてずいぶんとマッシブな機体に生まれ変わっている。
「へっ、フルアーマー化……ってとこか?」
泥の量が足りなかったからか、巨人の姿になるよりも、既存の魔動人形を強化する方針をとったようだな。
確かに巨人の姿だと機動力に難があるからな。単純な強化に使ったのは合理的な判断だと言える。
「でもな、そんなことができるのはもうお前だけじゃないんだぜ?」
――俺は、目の前の相手を打倒するべくイメージを膨らませた。
カティアが俯きがちにそう言った。
よく見ると、その表情には若干だが影が差しているようだった。
「……ん? なに言ってるんだ、カティアもいっしょに決まってるだろ。なぁリン?」
まさかとは思うが、これでリンと別れることになると勘違いしてるのか?
もちろん俺はふたりを引き離すつもりなど毛頭ない。リンと家族になるということは、カティアも同様に家族になるということだ。
確認の意味も込めて、俺はリンに同意を求める。
「ケーくんといっしょなのは嬉しいけど、カーちゃんもいっしょじゃなきゃ、リンやだよ!」
やはりというか、リンはカティアと別れるなどと、これっぽっちも考えていないようだ。
「だよなあ。カティアお前まさか、『ひとりになっちゃう……』とか思ってたのか?」
「おまっ! いや、だってよ……」
「だってもへちまもないわ! 俺は、カティアにもそばにいて欲しいと思ってるよ」
「――っ! そ、そうかよ……」
カティアは俺に背を向けるが、否定の言葉はなかった。……というか、尻尾がぶんぶんと揺れてるんだが。いやあ、獣人ってのは感情表現の方法が豊かで、わかりやすくて助かるわぁ。
「ほら、家も壊されちゃっただろ。だから俺の家に来るといい、部屋も余ってるしな。……まあ国を出れるかどうかはわからないけど、その辺は落ち着いてから考えるとしよう」
「わ、わかったよ――」
カティアが照れ臭そうにしながら振り返ったと思ったら、瞬時に表情が一変し、血の気が引いたように顔が青ざめていた。
「……ん? 影……?」
太陽に雲がかかった程度の暗さじゃない。まるでビル影にでもいるような暗闇が俺たちを覆った。
「――ッ! 危ねぇ、避けろっ!」
ぐいっとカティアに思い切り引っ張られ、リンとともに前方数メートル先へと身を投げ出された。その直後、大きく地面が揺れる。
「――くっ、もう起きたのか!?」
たたらを踏みながら体勢を整え、背後を振り返る。そこには、上半身だけになった巨人がいた。
最初よりかはずいぶん小さくなってはいるが、上半身のみにも関わらず一般的な魔動人形と同程度の大きさがあった。
その腕が、今まさに俺たちがいた位置に振り下ろされていたのだ。
「あっ、ぶねっ……!」
まさに間一髪。あと一秒でも動くのが遅ければ、間違いなくぺしゃんこになっていただろう。
突然のことに心臓が早鐘を打つが、こんなときにこそ冷静に、だ。一呼吸おいて心を落ち着かせると、ひとつの違和感に気付いた。
イマジナリークラフターはリンといっしょに吐き出されたはずだ。イマジナリークラフターを取り込んでいないというのに、あの巨人の姿を形成できるはずがない。
そして、今腕が振り落とされた場所、そこにはリンが閉じ込められていた球体……その中にはイマジナリークラフターがあったんだ。そんなだいじなものごと叩き潰したのはなぜだ?
……いや、どちらかというと、俺たちよりもイマジナリークラフターの方を狙ったようにも思える。
くそっ、わからないことだらけだ……!
「ハ……ハハハッ!」
巨人から声が響く。低く重厚な響き……ガオウの声だ。笑っていたが、その声色には怒気がふんだんに練り込まれている。
「ああ……ああ! この我輩をここまで追い詰めたのは誉めてやろう。……だが、そんな奇跡もこれまでだ。この全能の力は既に我が物となった!」
「な……に……!? どういうことだ!?」
全能の力……おそらくはイマジナリークラフターのことだろう。しかしそれはたった今、自らの手で破壊したはずだ。
「フン……冥土の土産に教えてやろう。イマジナリークラフターはもうひとつあるのだよ。そして解析は終了した、もうそんな不純物のガキなど必要としない」
バカな……もうひとつのイマジナリークラフターだと!?
そんでもって、今までは解析を進めながら戦ってたってことは、本気じゃなかったってことか!?
そんな会話をしている間にも、巨人はゆっくりとその姿を取り戻しつつある。
さっき腕を振り下ろした位置が射程ギリギリのようだが、徐々に力を取り戻しているならばそう安心もしていられない。それこそ魔力弾のひとつでも撃たれたらおしまいだ。
「くっ、シルバライザーはいけるか……!?」
魔動人形を再び顕現させるためのクールタイムが終わっていることを祈りながら、俺はスマホの画面を確認する。
すると、さっき見た桃色の光が現れ、スマホに吸い込まれるように消えていった。突然のことなので驚きはしたが、なんだか暖かいものを感じる。
きっと悪いものではないだろう。思えば、リンを助けたのもこの光だ。もしかしたら、リンの両親が魂となって……?
……いや、今はそれどころじゃない。気持ちを切り替え、改めてスマホの画面を覗くと、見慣れない表示が浮かんでいた。
「――っ、これは!」
表示されていたのは新機能追加の文字。その名は『イマジナリークラフト』。説明など読まず、俺はスマホをタップする。
「イマジナリークラフト起動。素体としてシルバライザーを選択……追加機能? 素材……? ええい、ままよ!」
説明を見ないまま、直感で次々とタップしていく。そして最後に『完了』のアイコンがでかでかと表示されたので、それをタップする。
「カティア、リン!」
俺はふたりの手を取り、クールタイムが明けていたシルバライザーを起動させた。
「人形接続っ!」
その宣言と同時に、ポケットにねじ込んでいたシルバライザーが巨大化した姿で顕現する。
そしてそのコックピットであるコアの中には、俺とカティア、そしてリンの姿があった。
魔動人形を起動する際に搭乗者に触れていると、他者も同時にコアの中へと転移することができるのだ。前に本で読んだのを、とっさに思い出せてよかった。
ただ、さすがに一人用のコックピットに三人もいると結構狭苦しくなるな。だからといって外に放っておくわけにもいかないし、ここにいたほうが安全だろう。
それに、ふたりを巻き込んだのには理由がある。
「フン、いまさらたった一体の魔動人形でなにができる! 武装すら持っていないではないか!」
ガオウの言うとおり、シルバライザーの手には武器はひとつも握られていなかった。魔轟砲はチャージに時間がかかりすぎるので、あらかじめ外してある。
だが問題はない。俺の予想通りなら、奴と同じことができるはずだからな……!
「よいしょお!」
俺はシルバライザーを跪かせ、両手を地面……いや、地面に散乱した『泥』へと触れさせた。
すると、海の底のように真っ黒だった泥は、シルバライザーを中心に、じわじわと純白へ色を変えていった。
「な……に!?」
「悪いな! 使わせてもらうぜ!」
白へと変わった泥は、こちらの制御下に入った証だ。なぜ色が変わるかはわからないけど、わかりやすくていいな。
「まさか、貴様も……!? ええい、させるものか!」
黒い泥が急速にガオウの元へと集束していく。
……ちっ、さすがに完全に向こうの制御下にある分は奪えないようだ。だが地面に散乱していた泥の半分ぐらいはこっちのものにした。これなら戦える……!
「――おおおおおっ!!」
ガオウの咆哮とともに、泥の巨人はひとつの球体へと変貌した。そしてその中からエクスドミネーターの本体が姿を現す。
そのあとすぐに、球体から蛇のように数本の触手が伸び、エクスドミネーターへと絡み付く。
それはぐねぐねと蠢きながら、やがて分厚い装甲を象った。そのせいで、どちらかといえば細身だったエクスドミネーターは、ごてごてとしてずいぶんとマッシブな機体に生まれ変わっている。
「へっ、フルアーマー化……ってとこか?」
泥の量が足りなかったからか、巨人の姿になるよりも、既存の魔動人形を強化する方針をとったようだな。
確かに巨人の姿だと機動力に難があるからな。単純な強化に使ったのは合理的な判断だと言える。
「でもな、そんなことができるのはもうお前だけじゃないんだぜ?」
――俺は、目の前の相手を打倒するべくイメージを膨らませた。
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