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【三章】技術大国プラセリア
61.天に届く拳
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「殺ったぞ――」
やられた。ガオウが勝利を確信したのと時を同じくして、俺は敗北を悟っていた。
しかし、カティアの口からは、そんな俺たちの思惑を否定する言葉が発せられる。
「――と、思ったよな?」
「っ、負け惜しみを――」
カティアの台詞を強がりだと受け取ったガオウかが、エクスドミネーターに力強く次の一歩を踏み出させる。だが俺が衝撃に耐えようと目を細めたその瞬間、なぜかエクスドミネーターの姿が消えた。
「なっ、消えた……? ――あっ」
一拍おいてグレイウルフが向き直り、目の前にあるものを見て、エクスドミネーターがどうなったのか納得がいった。
……バネだ。バネのおもちゃのようなものが、びょいんばいんと嘲笑うかのように揺れている。これによって打ち上げられ、エクスドミネーターは姿を消したのだ。
しかし、いつこんなものを……?
「――っ、あれか!」
リンが最初に出した謎の物体。あの座布団みたいなのがこのトラップだったんだ。
いままでの行動は、すべてこのトラップを踏ませるための布石。それを理解した瞬間、鳥肌が立った。
よくよく見ると、トリモチ弾はわざと外したのだとわかる。ガオウが嫌がるのを見越して、一筋の道ができるように着弾点をコントロールしていたのだ。
そして、わざと隙を見せることによって、その道の先に仕掛けたトラップへと誘導した。最後の仕上げとして、着地の際の砂埃でトラップの視認性を下げながら。
「ケイタっ! 最後は任せたぞ!」
「ケーくん! やっちゃおー!」
「――っ!」
そうだ、感心してる場合じゃない。エクスドミネーターは中空へと高く打ち上げられている。おおよそ百メートルは飛んでいるだろうか。
ぞしかも踏み方が悪かったのか、キリモミ回転しながらだ。あれではまともに回避行動はとれないだろう、叩くなら今だ。
俺は頭を左右に軽く振って、気持ちを切り替えた。
「っしゃ! アレでぶん殴ってやる。カティア、腕を敵に向けてくれ!」
「あいよっ!」
「リン、サポート頼む!」
「はーい!」
具体的に説明はしなくとも、了解の返事がくる。ふたりとも、俺に対して全幅の信頼を寄せてくれていることが伝わり、俺は感動で胸が熱くなるのを感じた。
期待に応えるため、俺は目を閉じ、思考のリソースすべてを想像へと充てる。
……思い描くのは巨大な拳。残りのリソースを全部つっこんで、右腕に集中させる。
パズルのピースがはまるかのように、金属片がカタカタと右手の先に集中していく。それはやがて、巨大な握り拳を象るにまで至る。
より大きく、より遠くへ、より最速へ。それだけを考えて、俺の知識と想像力のありったけを込める。
そうして完成した巨大な拳は、グレイウルフの全長を優に超える。いまは形成中だからか、重量は無視されているようだが、完成した瞬間、自重で潰されてしまうかもしれない。
そうならないために、俺はひとつの判断を下す。
「――っし、頼んだぞカティア! 俺が後押しする!」
最後の仕上げとして、俺は『限界突破』を発動させる。今までの戦いの影響で、俺の魔力は残り僅かだが、この拳を撃ち込むまでならなんとかなるだろう。
「おおおおおおっ!!」
カティアの咆哮と同時に、拳の周囲のパネルカバーが一斉に開き、内部にあった数基のブースターが展開され、魔力の火を吹く。
限界突破による黄金の輝きを纏ったグレイウルフが、ギギギと軋みながら巨大な拳ごと腕を引く。
弓を引き絞るかのように、ブースターの出力は徐々に上昇していき、やがて臨界へと達した。
「いくぜ――――」
振るうは悪を打ち砕く正義の鉄拳。その名は――
「「「ロケット! パァァァァァンチッ!!」」」
三人の声が重なる。それと同時にグレイウルフが勢いよく右腕を突き上げた。急ごしらえの巨大な拳との接続は解除され、十分な出力を得た拳は、寸分違わずエクスドミネーターへと飛翔する。
高まっていたブースターがここで最大出力となり、拳を超高速で運ぶ推力を生み出す。さらには、リンのサポートによって追加されたブースターにより回転。竜巻のような軌跡を残し、飛翔する。さながら吹き荒れる破壊の嵐だ。
「――ヌ、グオオオオオッ!!」
さすがと言うべきか。ガオウは迫り来る巨大な拳を直前で察知し、迎撃にでた。
不安定な体勢のなか、避けきれないと判断を下し、回転する勢いを利用しながら蹴りで迎え撃ったのだ。
ガギギッ!!
ガシャンッ!!
しかし、結果はエクスドミネーターの脚部が瞬時に破損。一瞬たりとも拮抗することなく、ロケットパンチの圧倒的質量、硬度、速度によってあっけなく打ち負けたのだった。
「グッ、オオオオオオオオッ! 認めぬ、認めぬぞっ! このような結末、我輩は認めぬぞォォォッ!!」
ガオウは残った手足をを使って防ごうとするが、結果は同じだ。
ついには四肢を失ったエクスドミネーターの胴体へとロケットパンチが届く。手足を使って衝撃を緩和されてしまったのか、胴体部分を粉砕するには至らなかった。
だがロケットパンチは飛翔を止めない。回転することでゴリゴリと削るような音を立てながら、エクスドミネーターを遥か中空へと連れ去っていく。
「残念だったな、ガオウ。宇宙旅行のプレゼントだぜ! 片道切符だけどな!」
残りの魔力をすべて込めたので、ロケットパンチは数分ほど飛ぶだろう。それこそロケットのように、宇宙へ届くほどに。
これで仮にエクスドミネーターが無事だったとしても、宇宙空間に放り出されてジ・エンドだ。戻ってくるにも大気圏を突破してこなければならないから、あの損傷では無理だろう。
物体を支配する能力が唯一の懸念点だが、腕を破損した状態なら使えないはずだ。
「……ふう」
俺は安堵のため息を吐く。
終わった……終わったんだ。あの化け物みたいな巨人に勝ったんだ。そう考えたら身体中から力が抜けていった。
そんでどんどん頭が痛く――って、やっば。これ気が緩んで脱力してるんじゃないな。魔力切れの症状だよな……。早く限界突破を切らなきゃ……あ、これ間に合わないか……も……。
やられた。ガオウが勝利を確信したのと時を同じくして、俺は敗北を悟っていた。
しかし、カティアの口からは、そんな俺たちの思惑を否定する言葉が発せられる。
「――と、思ったよな?」
「っ、負け惜しみを――」
カティアの台詞を強がりだと受け取ったガオウかが、エクスドミネーターに力強く次の一歩を踏み出させる。だが俺が衝撃に耐えようと目を細めたその瞬間、なぜかエクスドミネーターの姿が消えた。
「なっ、消えた……? ――あっ」
一拍おいてグレイウルフが向き直り、目の前にあるものを見て、エクスドミネーターがどうなったのか納得がいった。
……バネだ。バネのおもちゃのようなものが、びょいんばいんと嘲笑うかのように揺れている。これによって打ち上げられ、エクスドミネーターは姿を消したのだ。
しかし、いつこんなものを……?
「――っ、あれか!」
リンが最初に出した謎の物体。あの座布団みたいなのがこのトラップだったんだ。
いままでの行動は、すべてこのトラップを踏ませるための布石。それを理解した瞬間、鳥肌が立った。
よくよく見ると、トリモチ弾はわざと外したのだとわかる。ガオウが嫌がるのを見越して、一筋の道ができるように着弾点をコントロールしていたのだ。
そして、わざと隙を見せることによって、その道の先に仕掛けたトラップへと誘導した。最後の仕上げとして、着地の際の砂埃でトラップの視認性を下げながら。
「ケイタっ! 最後は任せたぞ!」
「ケーくん! やっちゃおー!」
「――っ!」
そうだ、感心してる場合じゃない。エクスドミネーターは中空へと高く打ち上げられている。おおよそ百メートルは飛んでいるだろうか。
ぞしかも踏み方が悪かったのか、キリモミ回転しながらだ。あれではまともに回避行動はとれないだろう、叩くなら今だ。
俺は頭を左右に軽く振って、気持ちを切り替えた。
「っしゃ! アレでぶん殴ってやる。カティア、腕を敵に向けてくれ!」
「あいよっ!」
「リン、サポート頼む!」
「はーい!」
具体的に説明はしなくとも、了解の返事がくる。ふたりとも、俺に対して全幅の信頼を寄せてくれていることが伝わり、俺は感動で胸が熱くなるのを感じた。
期待に応えるため、俺は目を閉じ、思考のリソースすべてを想像へと充てる。
……思い描くのは巨大な拳。残りのリソースを全部つっこんで、右腕に集中させる。
パズルのピースがはまるかのように、金属片がカタカタと右手の先に集中していく。それはやがて、巨大な握り拳を象るにまで至る。
より大きく、より遠くへ、より最速へ。それだけを考えて、俺の知識と想像力のありったけを込める。
そうして完成した巨大な拳は、グレイウルフの全長を優に超える。いまは形成中だからか、重量は無視されているようだが、完成した瞬間、自重で潰されてしまうかもしれない。
そうならないために、俺はひとつの判断を下す。
「――っし、頼んだぞカティア! 俺が後押しする!」
最後の仕上げとして、俺は『限界突破』を発動させる。今までの戦いの影響で、俺の魔力は残り僅かだが、この拳を撃ち込むまでならなんとかなるだろう。
「おおおおおおっ!!」
カティアの咆哮と同時に、拳の周囲のパネルカバーが一斉に開き、内部にあった数基のブースターが展開され、魔力の火を吹く。
限界突破による黄金の輝きを纏ったグレイウルフが、ギギギと軋みながら巨大な拳ごと腕を引く。
弓を引き絞るかのように、ブースターの出力は徐々に上昇していき、やがて臨界へと達した。
「いくぜ――――」
振るうは悪を打ち砕く正義の鉄拳。その名は――
「「「ロケット! パァァァァァンチッ!!」」」
三人の声が重なる。それと同時にグレイウルフが勢いよく右腕を突き上げた。急ごしらえの巨大な拳との接続は解除され、十分な出力を得た拳は、寸分違わずエクスドミネーターへと飛翔する。
高まっていたブースターがここで最大出力となり、拳を超高速で運ぶ推力を生み出す。さらには、リンのサポートによって追加されたブースターにより回転。竜巻のような軌跡を残し、飛翔する。さながら吹き荒れる破壊の嵐だ。
「――ヌ、グオオオオオッ!!」
さすがと言うべきか。ガオウは迫り来る巨大な拳を直前で察知し、迎撃にでた。
不安定な体勢のなか、避けきれないと判断を下し、回転する勢いを利用しながら蹴りで迎え撃ったのだ。
ガギギッ!!
ガシャンッ!!
しかし、結果はエクスドミネーターの脚部が瞬時に破損。一瞬たりとも拮抗することなく、ロケットパンチの圧倒的質量、硬度、速度によってあっけなく打ち負けたのだった。
「グッ、オオオオオオオオッ! 認めぬ、認めぬぞっ! このような結末、我輩は認めぬぞォォォッ!!」
ガオウは残った手足をを使って防ごうとするが、結果は同じだ。
ついには四肢を失ったエクスドミネーターの胴体へとロケットパンチが届く。手足を使って衝撃を緩和されてしまったのか、胴体部分を粉砕するには至らなかった。
だがロケットパンチは飛翔を止めない。回転することでゴリゴリと削るような音を立てながら、エクスドミネーターを遥か中空へと連れ去っていく。
「残念だったな、ガオウ。宇宙旅行のプレゼントだぜ! 片道切符だけどな!」
残りの魔力をすべて込めたので、ロケットパンチは数分ほど飛ぶだろう。それこそロケットのように、宇宙へ届くほどに。
これで仮にエクスドミネーターが無事だったとしても、宇宙空間に放り出されてジ・エンドだ。戻ってくるにも大気圏を突破してこなければならないから、あの損傷では無理だろう。
物体を支配する能力が唯一の懸念点だが、腕を破損した状態なら使えないはずだ。
「……ふう」
俺は安堵のため息を吐く。
終わった……終わったんだ。あの化け物みたいな巨人に勝ったんだ。そう考えたら身体中から力が抜けていった。
そんでどんどん頭が痛く――って、やっば。これ気が緩んで脱力してるんじゃないな。魔力切れの症状だよな……。早く限界突破を切らなきゃ……あ、これ間に合わないか……も……。
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