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しおりを挟む昼飯を終えた俺たちは、別々にフロアに戻った。
今度はいちいち俺から言わなくても、島津が勝手にその方がいいと判断して、時間をずらすように提案してきた。
この調子なら、会社で島津のことで悪目立ちする心配は、まあ当分ないだろう。
そう安堵したのもつかの間、デスクのPC画面を開いたところで、総務から”至急大会議室へ”の呼び出しメールが届いていることに気づいた。
慌てて移動した先で、さっき別れたばかりの島津と俺はまた並んで座っている。
「なあ、なんで俺ら営業だけじゃなくて、システムまで呼び出されてんの」
こそっと島津に耳打ちする。
「社全体で当たる案件ってことだろ。そもそも1課と2課の合同案件ででかいプロジェクトじゃないわけないだろ」
島津は俺よりは幾分訳知り顔で言った。
確かに島津の言う通り。特に俺と島津はそれぞれの課のエースだ。他の連中も、この部署と言えばって顔ぶれが揃えられている。とすれば、今回の案件は社運を賭けたものが来るに違いない。
張り詰めた空気の中、営業本部長の桐生さんが壇上にあがる。
「今回君たちには、プロジェクトチームを組んで、ヴァルド・グローバル社の日本でのサービス再リリース支援案件に当たって貰いたい」
世界規模でやってる社名を出され、周囲に歓声に似たざわめきが広がる。
(おいおい、これ経営が本気で取りに来てる案件じゃねえか)
俺もにわかに、気分が高揚してくる。
まさに営業の腕の見せどころ。ここで上手く見せ場をつくれば、社長から直々にお声がけなんてこともあるかもしんねえし。上目指すなら、やって損のない仕事だろ絶対。
「ヴァルド・グローバル社が日本市場から撤退して6年になるが、来年最新クラウド基盤を元にした統合サービスを武器に再進出することが決定している。わが社としては、是非ヴァルド・グローバル社の日本ローンチに立ちあい、パートナー的地位を獲得したいと思っている。ここを落とせば、競合会社からわが社が一歩リードすることは確実。のち5年は営業利益の大幅な伸びが期待できる見通しだ。逆に他社に取られた場合、わが社の当該分野での事業縮小は免れず、最悪事業切り離しになる可能性もある。各部署のエースたちを集めたこの特別チームのみんなで、全力で獲りにいってもらいたい。特に島津くんと新名くん」
「「はい!」」
突然二人同時に名を呼ばれて、俺たちは姿勢を正す。
「交渉事が増える事案だ。君たちには期待している」
「お任せください!」
「全力を尽くします」
俺のハイテンションなトーンより、1オクターブくらい低い落ち着いた声音で島津が応じる。
お偉いさんから期待してるなんて言われたら、それだけで浮かれちまう俺だが、島津は相変わらず平然としている。ほんと俺以外のことにはちっとも興味ないんじゃねえかって、勘違いしそうになるっての。
今日はただの顔合わせで、本格的な話はまた日を改めるらしい。
ほんの三十分程で会議は終わり、席を立つ。
それぞれ自分の持ち場に帰っていく中で、俺はこっそり島津の腕を肘でつついた。
「……お前ちょっとは愛想だしとけよ。そんなんじゃ出世できねえぞ」
営業マンとしては当たり前のことを言ったつもりだったが、島津は心底不思議そうに眉根を寄せた。
「別に出世に興味はない」
「はぁ? じゃあなんのために、営業なんて修羅場でエース張ってんだよ」
営業1課でトップの成績を残すってのは、生半可な気持ちで出来ることじゃない。
別にトップ取らなくなって、島津ほど有能なやつなら、そこそこの成績で仕事してればクビを切られる心配もない。出世欲がないなら、なんでそこまで必死に仕事するんだって話。
「逆に聞くが、お前は俺が営業でそこそこの成績ってだけの男だったら、興味をもったか?」
「はぁ?」
島津は面倒そうなため息を吐いて、足を止めると俺の方へと向き直った。
「俺がお前に動画を見せる前から、お前は俺のことを多少なりとも意識はしていたはずだ。少なくとも名前と顔と仕事ぶりくらいは、お前の頭に入ってただろ?」
「そりゃあ、まあ……」
「そういうことだ」
島津はそれだけ言って、踵を返す。
「いや、ちょっと待て。それって――」
もっと詳しくそこんとこの話が聞きたいのに、呼び止めた時にはもう島津はドアの向こうに消えかけていた。
「くそ、なんだよ……言い逃げしやがって」
熱くなった顔を両手で覆いながら、俺はその場にしゃがみこむ。
だってそれって、俺の為にエース張ってるって聞こえるんですけど!?
「……そんなん自惚れちまうだろ」
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