事故チューしたら、学園王子にロックオンされました

いとい乃衣

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第2章:俺の日常、吉沢に完全ジャックされて終了

2-②

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 謎の権力持ちの新入部員として先輩たちの歓迎を受ける吉沢を横目に、俺は憮然とするしかなかった。
 そう言えば放送部の女部長は強火の吉沢ファンだった。
 なるほど、それで視聴覚室が借りられた訳か。

「俺は中村と座るので、先輩方は前の席にどうぞ」

 勝手に俺のキープした最善席を譲られ、先輩たちから「誰かさんと違って出来た後輩だ」と褒められている。
 マズい。このままだと、唯一の避難場所である部活までコイツに奪われかねない。
 渋々先輩たちの一列後ろに座り、当然のように隣に腰を下ろす吉沢を睨む。

「何企んでんだ」
「言ったろ。最高のシチュエーションでキスをやり直す」
「これが?」
「暗い部屋で並んでDVD鑑賞。触れあう指先、近づく二人の距離。最高にロマンチックだろ?」
 ドヤ顔で言う吉沢に、俺は頭を抱えた。
 発想がテンプレすぎる。コイツ、モテるくせにリアル恋愛に関しては俺と同じくらいの経験値と見た。

 だってそうだろ。皆の王子様が誰か一人と付き合うなんて、許されるわけがない。彼女がいたとしても、嫉妬と羨望でプライベートは丸裸だ。そんな重圧に耐えられる、鋼メンタルの女子なんてそうそういない。実際に付き合った経験なんざ、まずないだろ。そりゃファーストキスが犬にもなるわ。

 ここは流行りの恋愛映画を観る劇場でもないし、俺たちは付き合いたてのカップルでもない。まだお家デートの再現だって言うならわからんでもないが、目の前では先輩たちが用意したペンラ振ってんだぞ。どこがロマンチックだ。

 だが、大画面に推しがアップで映った瞬間――悲しいかな、意識を持っていかれるのがオタクの性。結局俺は、吉沢を警戒しつつも席を立てなかった。

 映像は進み、前半のライブパートからナカの人のトークへ移る。
 集中の切れ目でふと隣を見ると、意外にも吉沢は真剣な顔で真っ直ぐに画面を見つめている。

(いつ仕掛けて来る気だ?)

 こっちは吉沢がリズムに合わせて身体を揺らすたびビクついてるってのに、もう終盤だというのに動きはない。

 暗がりのせいで、やたら近くに感じる吉沢の体温。
 研ぎ澄まされた聴覚が、円盤の大音量より、吉沢の吐息を拾う。
 ああもう、気が散って仕方ねぇ。
(これじゃ俺の方が、待ってるみたいになるだろ)


 やがて上映が終わり、春日先輩が開けたカーテンの隙間から夕陽が差し込む。
 そこでやっと我に返ったらしい吉沢が、俺の方にギギギっと音が立ちそうなほどぎこちなく顔を向けた。

「……どうしよう中村。キスするつもりがすっかり忘れてしまっていた!」
 その情けない顔を見て、俺は思わず噴き出した。

「だよな? お前いつ仕掛けてくんのかと思ったら、ガチで観てんだもん」
「笑うな!」 
 腹を抱えて笑う俺に、吉沢は必死に反論する。

「先輩たちから、お前がこの作品好きだって聞いたから、ちゃんとシーズン1から見た。今日も、原作本を読んでいたせいで遅れたんだ」
 吉沢がカバンから取り出したのは、確かに俺の愛読書だった。
 ご丁寧に透明カバーまでかけてある。
 聞けば、円盤も吉沢が自腹で用意したらしい。

「お前、そんな無駄金……」
 
 思わず呆れる。
 俺にとってはそれだけを費やす価値のあるものだが、吉沢にとっては別だ。
 興味のないモノに使う金額にしてはデカすぎる。
 コイツの金銭感覚バグりすぎだろ。
 
 弁護士の親父に、モデル出身の母。そして兄貴は医者らしい。
 流石、噂通りのエリート一家。
 ちなみにこれも、吉沢でエゴサしたら出て来たSNS情報な。
 お前マジで個人情報の取り扱い、どうにかした方がいいぞ。
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