事故チューしたら、学園王子にロックオンされました

いとい乃衣

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第2章:俺の日常、吉沢に完全ジャックされて終了

2-③

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「最高のキスでやり直すなんて言ったが、正直お前にとって最高のキスがなんなのか俺には分からない。だからまずはお前のことを知ろうと思って」
「なるほどな」

 確かに俺の思う「最高」と、コイツの思う「最高」が一致するとは限らない。
 大体、コイツに追い回されている時点で、俺にとっては既に最悪だ。
 ただ百歩譲って、比較的マシな状況ってのはある。人前じゃないとか、一回限りで終わるとか。そこを考慮して貰えるって言うなら、悪くない話ではある。
 
「完璧な計画だと思ったんだ。お前は映像に夢中で隙だらけだし。気分の盛り上がったところでキスを仕掛ければ、お前も満足するキスが出来るだろうと」
 吉沢は悔しそうに言う。
 いや、一番盛り上がってるとこでキスなんかされたら、それこそ俺はブチ切れたと思うけどな。お前とのキスがどうとか言ってる暇もねぇわ。俺は推しを摂取することに忙しいんだ。
 
「だが、出来なかった」
 しょんぼりと肩を落とす吉沢は叱られた子犬みたいで可愛い――なんて、思ってねぇけど。普段あれだけ偉そうなくせして、そこでしょげんなよ。調子狂う。
 
「なんでしなかったんだ?」
「中村が画面に集中していたからな。邪魔されるのは嫌だろうと思った。……誰だって、自分の世界を他人に踏み荒らされたくはないだろう?」

 何でもないことみたいに吉沢が言った、その瞬間。
 言葉に撃ち抜かれたみたいに俺の心臓が跳ねた。
 
 ――同じだ。

 俺がずっと、生き辛い生活の中で抱えてきた思い。
 俺が他人と距離を置き始めた、最大の理由と言ってもいい。
 俺の世界を誰にも邪魔されたくない。それと同時に、誰の邪魔にもなりたくない。
 誰にも理解されないと思っていたこの気持ちを、なんで俺とは正反対のお前がサラッと言っちゃうんだよ。

「そうか……お前は自分と同じだけ、他人も大事にするんだな」

 吉沢は己の在り方を、何より大事にする。
 だからキス1つでこんなに躍起になる。
 自分がそれを第一に考えるから、俺も当然そうなんだと考える。
 至ってシンプルな話ではあるが、それって結構難しい。
 皆自分の世界が壊されることは許さないのに、他の人間にも同じだけ自分の世界があるって気づかない。

 自分が絶対正しいって思って、勝手に踏み込んでくる奴らとは違う。
 吉沢は目的の為に手段を選ばないんじゃない。
 何があっても自分の意思は貫き通すが、それで他人を虐げるわけじゃないんだ。

 それが分かった時、俺もちょっとはコイツのことを知ってやってもいいのかもしれないって思った。
 ジャンル違いの垣根を越えて、俺のことを必死に知ろうとしてくれたコイツに、少しは報いてやっても罰は当たらないだろう。
 別にコイツとキスがしたい訳じゃない。
 でもキスのやり直しって目的がなくなったら、コイツとこんな風に顔を付き合わせることもなくなってしまうんだろう。
 それはちょっと――いや、かなり惜しい気がする。
 ……って、あー、マジで俺どうかしてる。

「今日は失敗に終わったが、次は絶対にキスしてやるからな!」
 堂々と宣言した吉沢は、家庭教師が来る時間だからと言って、大急ぎで部屋を飛び出して行った。
「……忙しねぇやつ」
 呆れ笑いで見送る俺の背後で、先輩たちが肩を寄せ合って、ひそひそ内緒話をしている。

「はっ? キスって、あいつらガチか?」
「相手があれじゃ、中村からしたら攻略難易度SSSだろ」
「確かに。じゃあ中村の方は遊びで、あの美少年には本命が」
「不憫な奴……」
 
 そんなとんでもない誤解が生まれていたことを、この時の俺はまだ知らなかった。
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