事故チューしたら、学園王子にロックオンされました

いとい乃衣

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第4章:王子とオタクの境界線、突破中。

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 ……背中がゾワゾワする。
 事故チュー直後を思い出すレベルで、四方八方から刺さる視線。

 期末テスト前、最後の金曜日。
 吉沢との勉強会、いよいよ初日だ。
 
 部活の時は一応大人しくしていた取り巻きたちも、学校を出てまで俺たちが一緒なのは見逃せないらしい。
 しかも注目してくるのは、何も同じ学校のやつらだけじゃない。
 通りすがりの人間まで、男女問わず振り返るレベルで、吉沢はひときわ目を引く。

「学校内限定で王子やってんじゃねぇのかよ……」

 これが繁華街だったら、たぶんスカウトの一つや二つ、すぐ飛んでくるだろう。
 そんな奴と、陰キャ代表のようなジメ男の俺が並んで歩いてんだぞ?
 そりゃ見るわ。

 でも、このままの状態でコイツを家に連れて帰るのはリスクが高すぎる。
 家バレは、まだいい。だが、俺が吉沢を“家に連れ込んでる”なんて噂が立ったら、間違いなく地獄を見る。
 事故チューの件が再燃し、俺のオタ活バレまで一直線。
 そして、向けられる学園中からの白い目。
 考えただけで吐きそうだ。

 陰キャオタの俺が、学園の王子様をオタクの世界に引きずり込んだなんてバレたら、俺にどんな非難が向けられることか。
 それ以前に、吉沢がこれまで築き上げて来た完璧王子のイメージが、大ダメージを受けちまう。
 王子がオタ活なんて、あってはいけない。
 俺はイブにリンゴを与えちまった蛇なんだ。マジ、原罪レベル。

 横を見ると、当の吉沢はまるで気にした様子もない。
 慣れてんだろうな、この視線の圧に。
 俺はこんだけ見られたら胃に穴が空くけど。

「お前大丈夫なの?」
「……なにがだ?」
「いや、なんもねーならいいけど」

 いつも“みんなの王子様”でいるのは、正直大変だろう。
 だからコイツも俺たちの部室に入り浸るようになったんだと思う。
 限られた人間しかいない安全地帯で、自分の好きなことに夢中になれる。
 吉沢自身まだ気づいてないみたいだけど、”みんなの吉沢王子”じゃない自分に、居心地の良さを感じてる。
 じゃあ誰の吉沢になるんだって、誰の物でもねえけど。
 誰の物でもない吉沢を、俺は多分見たいって思ってる。
 だったらいっそ、もっと思いっきり吉沢王子像をぶっ壊しちまえばいいんじゃないか?

「なあ、俺んち行く前にちょっと寄りたいとこあんだけど」
「……? いいぞ。どこに行くんだ?」
「いいとこ」
 俺はニッと笑って歩き出す。
 これは俺にとっても大きな賭けだ。

 今から皆に見せてやるんだ。吉沢は完璧王子なんかじゃない。
 俺と一緒にオタ活だってするし、怒ったり笑ったり、感情丸出しで忙しい奴だ。
 ありのままの吉沢が、一番キラキラしてんだよ。
 勝手なイメージ押し付けて来んな。悔しかったら遠巻きにコソコソ見てんじゃなくて、正面からぶつかって来いっての。

 昔俺は、似たようなことをして一人の友人を失った。
 仲間だと思ってたのに、自分のイメージが崩れるってなったらソイツは俺をバカにしながら離れて行った。
 正直、今でも笑えねぇし、トラウマだ。
 今回だって、失敗すれば俺のオタバレと一緒に、吉沢のイメージも崩壊。
 何も得ることなく、俺たちの関係はそこで終了だ。
 だけど今は、怖さより期待が勝ってる。
 
 (コイツならきっと大丈夫)
 
 部活中の、楽し気な吉沢の顔が浮かぶ。
 夢中になってキスを忘れてしまった上映会。
 俺の愛読書をいつもカバンに忍ばせて、ワクワクページを捲っている放課後。
 
 吉沢は、俺の趣味を笑ったりしない。
 一緒に楽しんでくれる。
 絶対に喜んでくれる。
 
 そう信じて俺は、スマホを取り出し、とある店に予約を入れた。

 ――いつもやられっぱなしの俺から吉沢へ。
 今日だけは、俺が主導権握る番だ。
 ちょっとした仕返し……じゃなくて、サプライズだ。
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