事故チューしたら、学園王子にロックオンされました

いとい乃衣

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第4章:王子とオタクの境界線、突破中。

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 俺が予約したのは、アニメショップビルの最上階にある、いわゆるコラボカフェだ。今やってるのは特別ハマってる作品って訳じゃないけど、根強いファンを持つ人気作。部室にも原作があって、多分吉沢も履修済み。
 こういう、ちょっと古めの作品を扱ってくれるのは正直ありがたい。
 リアルタイムで流行ってるやつだったら、抽選もなく即予約なんて絶対無理だ。

「すごい人だな……」
「ここはいつもこんな感じ」
 1階は常時コミケ会場みたいなごった煮状態で、奥のエレベーターにたどり着くだけでも一苦労だ。
 言うなれば、初見殺しの魔境ってやつ。

 お陰で、俺たちの後をつけ回していた連中も、ほぼここでリタイヤしたようだ。
 俺が吉沢をアニメショップに連れて来たってとこまでは分かっただろうが、ここで何をするかまでは分かるまい。まあどんな噂になって広まるのかは知らねえけど、開き直った今となっては何言われようが関係ねぇな。

 ふと吉沢の顔を見れば案の定。
 この熱気に気圧されて、少し不安そうな顔をしていた。
「吉沢、こっち」
 人の波に押し流されそうになっている吉沢の腕を掴んで引き寄せる。
 こういう時は背が高くて良かったと思う。
 人より頭一つ分出ているせいで、吉沢を見失わずに済む。

「ああ、悪い。助かった」
 吉沢が押しつぶされないように、腕の中に囲い込む。
 ここは良い意味でも悪い意味でも、皆目的のものにしか目が行ってないから、平気で人にぶつかってくるんだよな。お陰で吉沢も変な注目を集めずに済むのは助かるが。

(さて、こっからどうするか)   

 エレベーターまでは、くじ引きゾーンを越えていかねばならず、更にエレベータ横のガチャ付近では交換の為に人がたむろしている。素人があの山を越えるのは至難の業だ。安全に吉沢を運ぶとなると――仕方ねえか。

「ちょっと我慢してろ」
 人混みの下で、そっと吉沢の手を取る。
「……な、っ――!」
 ビクッと肩を跳ねさせた吉沢に、言い訳みたいに続けた。
「俺が先導するから」
 すると、俺の意図に安心したのか、吉沢は素直に頷いた。
 やっぱ相当ビビってたんだろうな。
 コイツ温室育ちだし、乱暴に扱われたり、人混みでもみくちゃにされた経験はなさそう。

「いいか? はぐれたり怪我したりしないように、ちゃんと握っとけよ?」
「わかった」 
 ギュッと。
 思いがけず強い力で握り返されて、おいおい必死かよと心の中でツッコむ。
 重なった部分が、妙に熱い。

(手汗とか大丈夫か?)

 やばい。妙に意識しちまってる。
 全身完璧に手入れしてるって吉沢は豪語してたが、あれ本当なんだろうな。
 手までやたらすべすべしてるし、俺みたいにゴワついてない。

 ――ってことは、事故チューの時の俺の「カサカサ」発言。
 あれ完全に判定ミスった説あるな。

 カサついた感じがしたのは事実だけど、それよりぶつかった衝撃の方がデカかったし。あの時は痛ぇわパニくるわで、正直感触なんてまともに覚えてねぇんだよな。

 まあそれがきっかけで、吉沢は俺なんかを追い回す羽目になったワケだから、吉沢からしたらたまったもんじゃねぇだろうけど。

(今改めてやり直したら……どんな感じなんだろう)

 視線が吸い寄せられるように、吉沢の唇に行く。
 俺が適当にリップでもつけろって言ったの、まさか覚えてんのか。
 色はついてないのに、きちんと手入れされてるのがわかるくらいの潤いがある。

「……どうした?」
「いや、何も。全然?」

 俺はぐりんと、首が折れる勢いで慌てて吉沢から顔をそらす。
 危ねぇ!
 余計なこと考えんな。まずはエレベーターまで集中!

 平常心を装って前を突き進んでいると、半歩後ろの吉沢がピタリと足を止めた。
 視線の先で、吉沢の興味を引くスイッチが入ったらしい。
 
 ……一体何を見つけたのやら。
 面倒な予感しかしねぇと思いながら、俺も立ち止まった。
 
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