事故チューしたら、学園王子にロックオンされました

いとい乃衣

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第5章:王子とオタクの境界線、揺れるお泊まり会

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「あらあら、まあまあ……」
 家の玄関を開けて、俺たちを出迎えた母さんの第一声がコレ。
 俺のツレだと聞いて想像してたタイプと、あまりに違うのが来たから普通にビビったんだろう。

「お世話になります。一也くんのクラスメイトの吉沢潤と言います」
 吉沢は礼儀正しくペコリと頭を下げて、「これ皆さんで」と手土産のコンビニ菓子を渡す。
 ビニ袋に駄菓子ぎっしりの代物を渡すにしては、仕草だけはまるでエリート商社マンだ。
 受け取った母さんは「ご丁寧に」と慌てて頭を下げた。

 コイツ、ちゃんと俺の下の名前知ってたんだなあ……なんて感動してる暇もない。
 思わずといった感じで頬を染める母さんと、吉沢をガン見したまま硬直する姉ちゃん。弟だけは「兄ちゃんの友達キター!」と、新たな遊び相手の登場にワクワクが抑えきれない様子だ。
 三者三様の反応の中、弟の無邪気さだけが唯一の救いだった。

「夕飯は俺の部屋で食うから」
「はあ? なんでアンタの部屋なのよ!?」
 案の定食ってかかって来た姉ちゃんに、「お前が騒ぐからだよ!」とやり返す。
「俺は皆と一緒で構わないが?」
 呑気に言う吉沢の右手には、もう弟がしがみついている。
 お前今の状況、絶対わかってねぇだろ。
「俺が構うの!!」
 俺はしっしと弟を追い払い、吉沢の腕を奪い返すように掴んで階段を上がる。
 自室の鍵を閉めると、やっと一息つけた。
 家でも吉沢のガードしなきゃなんねぇとか、俺に安息の地はないのかよ。

「今から夕食の準備なら、俺たちも一緒に手伝った方がいいんじゃないか?」 
「いいの。お前はここにいろ。見ただろ? 姉ちゃんも弟も、お前のこと手ぐすね引いて待ってんだよ」
 弟は単純に遊びたいだけだろうが、姉ちゃんは絶対にダメだ。
 あのギラついた目……完全に獲物を狙う目だった。
「歓迎されるのはいいことじゃないか?」
「あのなあ、姉ちゃんはイケメン好きの肉食女子なの。お前なんてペロッと喰われんだぞ」
 吉沢に向かってオオカミが襲い掛かるポーズをとると、吉沢が噴き出した。

「ハハ、お前だと全然怖くないな。間抜けなオオカミだ」
「はァ!?」
 一気にカッとなって、俺はそのまま吉沢に飛び掛かる。

 小さめのテレビの前に敷いたラグの上で、吉沢を押し倒す。
 俺がいつも座ってるクッションが吉沢の頭を受け止めたおかげで、痛くはなさそうだ。転がされた吉沢は、口元を押さえてクスクス笑っている。

「はっ、んふっ、こら、ジャレつくなよ」
 笑いながら、俺の肩を軽く押す吉沢。
「やっぱり、オオカミって言うより犬だ」
 よーしよしよし、と俺の頭を撫でまわす。
 吉沢の中で完全に安牌扱いされている――。
 その事実が、妙に癪に障った。

「うぅー……ワン!」
 冗談めかして犬の鳴き真似をしてやれば、益々吉沢は笑い転げる。 
 
 俺には分かる。それ、お前の愛犬マリリンと同じ扱いだ。 
 俺とのキスだって、お前にとっちゃ犬と同じ。
 ファーストキスは愛しのマリリンで、セカンドキスは駄犬の俺ってか。
 付き合ってらんねぇわ。
 
「お前警戒心無さ過ぎ」
 言った瞬間、自分が思った以上に苛ついていたことに気づく。

 切羽詰まった低い声音。
 気づけば、吉沢の手首を掴む力が強くなってた。
 冗談じゃなく俺自身、吉沢に触れたがってるのがよく分かる。

 俺の傍が吉沢にとって、セーブポイントみたいな場所であればいいと願っていたはずなのに、いつからこんな分不相応な欲を抱くようになった?
 ああでも、どうしようもなく気分が高揚してる。
 ……一介のモブ兵士が、王子様を屈服させる下剋上展開。
 こんなジャンル違いの感情、俺のキャラじゃねぇのに。

 吉沢は何が起こったのか分からないと言った感じで、目をぱちくりさせている。
 余裕顔を奪って満足したはずなのに、胸の奥が嫌な感じにざわついていた。

 歪んだ口元が、自分でも笑ってるのか震えてるのか、今はもう分からなかった。
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