~LOVE GAME~

佐倉ミズキ

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GAME4

GAMEstart~1~

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駅で貴島君と別れ、トボトボと家路につく。
その足どりは重い。
好意を持ってくれていた人を振るって結構精神的に来るなぁ。
そう思いながら、家までの道のりを歩いていると、「デート帰りな割には暗いじゃねぇか」と後ろから声をかけられた。
振り返ると買い物袋をぶら下げたお兄ちゃんがニヤニヤしながら立っていた。 

「お兄ちゃん……」
「デートはつまらなかったのか?」

そう聞かれて首を横に振る。つまらないことはなかった。デート自体はとても楽しかったのだ。

「違うけど……」
「じゃぁ、あの男と別れたんだろ」

鋭い指摘に顔を上げて驚く。

「えっ!どうして……」
「だってお前、あの男といても楽しそうじゃなかったし」

毎朝迎えに来ていたときの私の様子を言っているのだろうか。
そんなところを見ていたなんて……。
私、そんなに顔に出ていたのかな……。

「なんか無理に笑っている顔してた。だから、あぁ楓はこの男には恋愛感情はないんだろうなって思っていたよ」
「そうだったんだ」
「まぁ、お兄ちゃんとしては変な虫が取れて嬉しいけどな」

虫って……。このシスコンめ。
私はハァとため息をつく。お兄ちゃんですら感じたんだから、貴島君はずっと感じていたんだろうな。
本当、悪いことをしてしまった。 
お兄ちゃんと肩を並べて歩いていると、「あっ」と何かを思い出したようだった。

「そうだ。お前が出かけてすぐに、人が訪ねてきたぞ」
「人が訪ねてきたの? 誰?」

お兄ちゃんはニヤッと笑う。
その笑いに、眉を潜める。

「どっかで見たことあると思ったんだ。あいつ」
「あいつ?」

お兄ちゃんは私を抜かしてサッサと歩いていき、ゆっくり振り返る。
名探偵が推理を日披露するかのようだ。

「俺、人の顔は忘れないんだ。成長していても気が付いたぜ。あいつ、昔、一度だけ公園でお前と遊んでいるのを見かけたことがあったんだ」
「え、それって……」
「子供の頃から綺麗な顔立ちしていたから、余計に印象に残っている」

まさか、龍輝君?
龍輝君が私を訪ねてきたの?

「楓さん、いますか? って走ってきたのかぜーぜー言っててさ。夕方に帰ってくるはずだとは伝えたけどな」

足が止まる私にお兄ちゃんは微笑んだ。

「お前の本当の相手ってあいつだろう? 会いにでも行ったら?」

そう言うと、じゃぁな、と手を振って先に行ってしまった。

お兄ちゃんの言うあいつって……。

『お前の本当の相手』

その言葉が心に響いた。
そうだ、私の本当の気持ちの相手。
家まで来てくれたんだ。何しに? 今日は、貴島君とデートだって知っているはずだよね?
それなのに、息を切らせて私の家まで何しに来たの?

気がつくと私は走り出していた。
なぜか、あそこへ行きたいと思ったんだ。
ふたりの思い出のあの公園へと。


どうしてここに行きたいのかなんて、わからない。
でも、行かなきゃって。
会うならそこしかないって思ったの。
それがどうしてかなんてわからないけど、でも、彼ならここにいるって思った。
きっとここに居るって思ったんだよ。

「龍輝君……」

私の呟きに、あの道路沿いの大きな木の上に居た人がユックリと顔を上げた。
そして、下にいる私と目が合う。
やっぱり、いた。

「龍輝君」
「……」

呼びかけても無反応だ。

「あの、えっと……」

何て言ったらいいだろう。私が言葉に迷っていると龍輝君はクスッと笑った。 

「どうしたの。今日は貴島とデートじゃなかったの」
「あっ、うん……。そうなんだけど……」
「帰り早くない? 泊まりかと思ったけど?」
「なっ…! 違うっ!」

慌てて大きな声で否定する。
龍輝君はそんな私をチラリと横目で見た。
そして龍輝君は薄く笑いながら私に言った。

「おいでよ、楓ちゃん」

ハッと龍輝君を見る。 

「おいでよ」
「たっくん……」

私に向かってスッと伸びた、その差し出された手を……掴んだ。
こどもの頃は、私のほうが少し背が大きかった。

『おいでよ、たっくん』

そういって今みたいに手を差し出していた。
あの可愛いたっくんが、今こうやって私の手を取り、軽々と持ち上げる。
その力強い腕に胸が高鳴る。
私を顔色ひとつ変えずに木の上に持ち上げちゃうんだ。 

もうあの頃の、可愛いたっくんではない。

“男の人”なんだ。

「軽っ…」

私を引っ張り上げて、木の太い幹に乗せた龍輝君が呟く。
あのころは大きかったこの木も、今では二人で並んで座ると少し窮屈だ。
肩を寄せ合って、くっつかないといけない。 
どうしよう、緊張して身体が強張る。心臓の音が聞こえるんじゃないかとさらにドキドキした。

「今じゃぁこんなに小さい木なのに、あの頃は凄くでかくて……。こんな高さから落ちて怪我するくらいだもんな」
「龍輝君……」

間近に見える龍輝君の顔は、昔を思い出しているようだった。
私は龍輝君の傷の辺りに手を伸ばして触れた。
龍輝君は驚いたような顔で私を見つめる。

「楓?」
「あっ、ごめん」

ハッとして手を引っ込めようとしたがその手を龍輝君に掴まれた。

「あ、あの、今でも痛むのかなって思って……」

慌てて言い訳をする。
気が付いたら触っていたなんて、そんな痴女のようなこと恥ずかしくて言えない。
私が焦っている間も、龍輝君に手を掴まれたまま。さっきよりさらにその近さを意識し、ドキドキが激しくなる。
ど、どうしよう。手を離してくれない……。
龍輝君の手は、すっぽりと私の手を包み込む。

「龍輝君、離して?」

長い沈黙の中、やっと声をしぼり出す。
龍輝君は私を見つめたまま静かに低く言った。

「離していいの……?」

その声にドキッと心臓が激しく高鳴る。
ギュッと掴まれるような、甘い切なさ。
そして、貴島君には決してなかった胸の苦しさ。
苦しいのに……。
苦しくて、上手く呼吸が出来ないのに……。

「離さないで……」

自分で自分の言葉に驚いた。
でも……、それが私の本心だった。
離さないでほしい。
ずっと触れていてほしいし、触れていたい。
私だけを見つめていてほしい。

「ゲームは私の負けだよ」

負けだ。
龍輝君に惚れたら私の負け。

「私、きっと初めから負けていたの。それに、気がつかないふりしていただけだった……あっ……」

言葉が終わる前に、私は龍輝君の腕の中に引き込まれた。
背中に腕が回されて、ぴったりと密着してギュッと抱きしめられる。 

「たっ、龍輝君っ」
「おっせーよ、認めんの」

耳元で龍輝君が苦笑しながら呟く。
それが、余計にドキドキさせてどうしていいかわからなくなるほどだった。

「楓。負けってことは、俺に惚れたってことでいいんだよね?」

“惚れた”
改めて言葉にされると恥ずかしいな。
腕の中で、小さく頷く。
すると、さらにきつく抱きしめてきた。

「俺が好き? 貴島じゃなくて?」

貴島君の名前を出されて、ハッと顔を上げる。
すぐ目の前には龍輝君の綺麗な顔があった。
真っすぐ私を見下ろして、返事を促してくる。

「貴島君とは一週間だけ付き合って欲しいって言われてただけで……。さっききちんと返事をした」

ちゃんと、告白の返事はした。




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